第236話 世界への第一歩、まだ見ぬ強豪
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「めっちゃごっついなぁ、流石大学生は違うわぁー」
千葉でのUー19日本代表候補合宿、この日は練習試合が行われる予定で彼らの前に現れた大学生達がその相手だ。
ユニフォームの上からでも分かる彼らの鍛え上げられた屈強な肉体に思わず想真からそんな感想が出て来る、日本の大学サッカーはレベルが高く歴代の日本代表選手も何人かが大学サッカー出身であり大学からプロ選手となって活躍する選手も少なくない。
日々大学の厳しいリーグ戦を戦い続ける一つ年代上の彼らとしては、高校年代の集うUー19は丁度良い練習試合の相手として今回の練習試合を引き受けたのだろう。
世界と戦う後輩を鍛え、更に自分達の糧とする為に。
「同年代の海外選手もあれぐらい体が強く大きい、今回の練習試合はそういった海外選手の相手を想定した物なんだろう」
大学生のアップする姿を何時もと変わらず平常心で照皇は見ていた、世界と戦うのであればこれぐらいの体格ある選手はゴロゴロいる。世界に追いついてきたとはいえ日本人のフィジカルは海外と比べれば劣っており、同じアジアで体格で優る選手達に敗戦する時も何度かあった。
「今回は大学の名門、王馬大学さんが胸を貸してくれる事となりました。若き代表候補の皆さん、しっかり彼らとのサッカーを糧にしてください」
穏やかそうな雰囲気を漂わせる男性で40代程の黒髪短髪、その者は日本人の顔立ちとは違う。彫りは深く瞳の色が青だ。身長は180を超える長身。
Uー19の監督を務めるのはイタリア人のマッテオ・ロメロ、通訳無しで日本語ペラペラの親日家。
若き日本代表の練習試合で組んだ千葉にある王馬大学は大学サッカー屈指の実力を誇り過去には国内のプロチーム相手に勝利し、大学サッカーの1部リーグで優勝候補と言われている程の名門だ。
「相手は年上で経験も体格も向こうのが上、だけどそれがどうした?億さずに年下の力を先輩達に見せつけてくぞ!」
キャプテンを務める辰羅川は場を盛り上げて行き、年上の大学生相手に胸を借りようなどと思わずむしろ打ち負かして行こうと代表のチームメイト達に強く言うと彼らも「おお!」と応えて名門大学への下克上を狙う。
「左速いぞ!気をつけろ!」
大学生のGKから大きな声が飛ぶ。
その彼が見る視線の先には左サイドから自慢の俊足で駆け上がる月城の姿、高校世代で全国1、2を争うスピードは2年になっても健在であり名門大学チーム相手でも積極的に攻める。
「(ほな遠慮なく使ったろ!)」
左サイドの月城へと相手を器用に躱しつつ左足でお洒落なパスを出すのは想真と同じ最神の2年で天才司令塔の光輝、技術は益々冴え渡り彼を高校No1の司令塔と呼ぶ声が上がる程だ。
光輝から出されたスルーパスを月城は自慢の足で難なく追いつき、利き足の左でゴール前の長身FW室へと高いボールを送る。選手権で大会最長身と言われた195cmの高さは大学の名門DFよりも高い位置まで上がり頭でボールを捉えると直接ゴールを狙った。
だが王馬のGKは室のヘディングに素早い反応を見せており左手1本でボールを弾けばDFがすかさずクリア、此処は得点を許さない。
「あー、くっそー!」
良い感じでヘディング出来たつもりだったが決まらず室は頭を抱えた。
「次だ次!1本で駄目なら2本でも3本でも10本でもゴール入るまで撃ちまくっとけ!」
何時までも落ち込むなと室に声をかけるのは琴峯で室の相棒を努め、今年3年生となる巻鷹。彼も室と共に代表候補に選ばれていた。
王馬大学の方もスピードあるボールと動きで若き日本代表のゴールマウスへと迫る、だが守るDF陣には八重葉で日々高レベルのサッカーと触れ合い慣れ親しんできている仙道兄弟のCDF佐助とDMF政宗が居てスピーディーな王馬の攻めに対応、彼ら兄弟をフォローするようにキャプテンの右SDF辰羅川も動き共に王馬の攻撃を跳ね返していく。
そこに一瞬の隙、DFの裏へとふわりとしたループのスルーパスが落とされ相手FWがそれに追いつかんと走っていた。
その前に危機を察知して頭でボールをクリアし、ピンチを防いだ者が居る。
「弥一ナイスー!」
ゴールマウスを守る大門が声をかけるとこのピンチを救った弥一は振り返ると軽く微笑んでみせた。
「流石に大学屈指の王馬大学相手はまだ早いかと思いましたが…結構互角に戦えてますね」
目の前で若き日本代表がスコアレスで大学のトップレベルと争っているのを見て日本代表コーチの富山は驚いたようだった。
彼は保守的な思考であり、代表の相手は同年代のチームとの試合が良いのではと考えていて今回の大学トップレベルの選手との試合はあまり前向きではない。大敗でもすれば彼らの自信を失い先に支障が生じるおそれがあると思ったからだ。
だがマッテオは何の迷いも躊躇も無く王馬との練習試合を選び、今彼らは大学生相手に戦えている。
「これぐらいやってもらわなければ困ります、我々が戦うのは世界の天才や化け物なんですから」
この健闘もマッテオにとっては最低ライン、互角に戦うのは当然だと言わんばかりだ。
それもそのはず、マッテオがこのUー19日本代表監督に就任した時に彼は言った。
目指すは日本がかつて準優勝となった時以上の成績、優勝を手にすると。
Uー20ワールドカップとなる前にまだワールドユースと呼ばれていた時代に日本は準優勝に輝き世界の頂点まで後少しだった、遡る事20年以上前の事になる。
世界の頂点を狙う為に彼らには此処で足を止めてほしくない、あえて厳しい相手を選びその中で代表の座を競い合うサバイバルの場をマッテオは用意し、Uー19の彼らはその中で戦っていく。
「(そのまま縦でこっち!)」
王馬のDFがボールを持つとFWが右手を上げてパスを要求、見れば一直線にコースは空いており相手がこれを消してしまう前にDFは空いているコースへと力強く地を這うような勢いあるスピードパスを味方FWへと送った。
「流石大学生、良いパスだねー♪」
「!?(何時の間に!これが超高校級DFか!?)」
通る予定だったパスをあっさりと弥一にカットされると王馬のFWとDFは揃って驚愕、共に弥一の姿に気づいていなかった。
小柄な体を大柄な選手の陰に隠れて身を潜める弥一得意のブラインドディフェンスで彼らの前から姿を消してパスが出された瞬間にコースへと飛び込んでインターセプトに成功。
「カウンター行けるよー!」
「分かっとるわ!」
弥一が素早くパスを出した先にはこの日DMFとして政宗とダブルボランチを組む想真、ボールを受けとれば更に前へと送って司令塔の光輝に繋ぐ。この辺りの連携はお手の物だ。
そして光輝は再びゴール前の室へと高いボールを上げ、相手DFと空中で競り合う。また室が撃つと思い王馬DFは室の前に立って競り合ったが室は高さで勝つと頭でボールを下へと落とした。
そこに待ち構えていたのは天才ストライカーと言われる3年の照皇、室の落としたボールをそのままダイレクトで右足に合わせてゴール左隅へとシュート。
相手GKは反応し、右腕を伸ばすも僅かに届かず照皇のシュートはゴールネットを揺らしUー19日本代表が名門大学相手に先制ゴール。
選手権で超ルーキーと呼ばれた選手達で繋ぎ最後は天才ストライカーがきっちりと決めていき冬に戦ったライバル達の見事な共演だった。
「照さんナイスゴールー♪」
「何だその呼び方」
「照皇さんじゃ長いから略してみましたー」
「まあ、別に良いが」
明るい笑顔で弥一は照皇のゴールを祝福すれば照皇は慣れない呼び方に若干戸惑いはあったが、早々に受け入れて試合へと集中する。
「王馬相手先制…これは、フランスの国際大会でも良い成績をこのチームは残せるかもしれませんよ。海外から合流もすればひょっとして…」
「かもしれない、ひょっとして、ではありませんよ」
富山は王馬相手に幸先良く先制できてるUー19の強さに驚き、思った事を述べるとそれにマッテオは静かに答える。
「彼らが世界へ羽ばたく為にフランスもしっかり勝ちに行きます」
マッテオの言葉に応えるかのように弥一は再び相手の鋭いパスを先読みしてカット、そして弥一は空高くボールを蹴り上げてクリアしていった。
『決まったー!これで3点目、アドルフ止まらないー!』
3点目を入れられ、ダイブが及ばなかったGKは地面を叩いて悔しげな表情を見せる。
その前にはこの試合ハットトリックを決めたアドルフと呼ばれる選手が仲間に手荒く祝福されながら笑っていた。
場所はベルギー、そこで行われているプロリーグで彼は17歳という若さで10歳以上年上のプレーヤーと渡り合い天才ストライカーとして注目される。
ベルギー人のアドルフ・ネスツ。
183cmと見た感じは細く見えるがその身はしなやかな筋肉で覆われており、茶髪をなびかせつつ彼は観客へと応えていく。
この天才も日本が参加するフランスの国際大会にUー19ベルギー代表として参戦、彼らはフランスの地でいずれ会う事になるがその事はお互いまだ知らない。
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月城「フランスかぁ…フレンチとかすげぇ高級料理のイメージあるけど、向こうでそういうの食えるのか?」
想真「食えてもテーブルマナー色々学ばんとアカンのとちゃう?知らんけど」
弥一「あ~、フランスの美味しい食べ物も食べ歩きたいなぁ~♡」
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