第234話 新1年達の公式戦


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 4月下旬の日曜日、何時もならば部活は無くて休みの日だが立見サッカー部はチームで会場へと来ていた。


 今日はリーグ戦が行われる日であり今回が新チームにとって初めての公式戦となる、そして試合に出る1年達にとっては今日が高校サッカー公式戦デビューだ。



「皆さーん、まずはこれを食べてくださいね~♪」


 会場へとキックオフ1時間前ぐらいに到着した立見サッカー部、ロッカールームでそれぞれ準備をすると2年マネージャーの彩夏から包装された菓子が配られる。


「おおー、カステラだー!僕これ大好きなんだよねー♪」


「美味しいよねー♪」


 配られた菓子、包装の中身がカステラと分かって詩音と玲音は揃って嬉しそうな声を上げた。


「俺もこれ洋菓子の中で好きな方だなぁ、うんめぇ~」


 美味しくカステラを味わう三笠、隣で封を開けようとしていた半蔵が三笠の言った言葉に気づくと横から違うと発言。


「カステラは和菓子だぞ」


「え、洋菓子じゃないのかよ?」


「元々これは室町時代にポルトガルから長崎に伝わった菓子をもとに誕生した和菓子って言われてるんだ、洋菓子っぽいけどな」


 それまでカステラを洋菓子と思っていた三笠は和菓子だと知って驚き、彼以外にも洋菓子だと思っていた部員達も居て「へぇ~」となっていた。


「お前結構カステラ詳しいんだな?」


「いえ、小学校の時にコーチからカステラをご馳走してもらった時に聞かされた事があっただけです」


 安藤が感心するように言うと半蔵は元々これを教わったのはコーチからだと説明した後にカステラを食す。



「(あ、これ美味い…結構スッと食える)」


 ふんわりでしっとりとした食感、そこから伝わる上品な甘味。初の公式試合を前に若干緊張していた明もあっさりと食べられる。




 カステラを食した後に試合前最後のミーティングを始め、薫からの説明で相手チームについて改めておさらいとなった。


 今日リーグ戦を戦う相手校の橋岡高校は現在立見の居るリーグの中でも上位の成績を残している、去年はパッとしなかったが当時1年だった部員達が成長し主戦力として活躍、現在連勝中で勢いある高校だ。


「連中はサイドを多用してきて特に右からが強い、ただ攻撃力は高いが守備はそうでもないのでこちらが点を取れる可能性は充分ある」


 スコアであまり無失点試合が無く打ち合いを制していくスタイル、相手の攻撃を確実に防ぎ隙を突いて得点出来るかどうか。


 鍵となるのは氷神兄弟、半蔵、明の1年攻撃陣だ。



 1年の最初の相手でいきなり強豪クラスの相手となった今日の試合、それでも彼らは勝利を狙いに行く。


「神明寺先輩達が不在で弱くなった、なんて言われたくはないよね?」


「そりゃ皆言われたくないよ、あの人達が築き上げた物を僕達で崩したくはないし」


 間宮達レギュラー陣は今日スタンドで試合を見届け、代表組の弥一、大門、優也の3人はUー19の短期合宿に呼ばれて今は向こうへと合流し参加中だ。


 立見を今日引っ張るのは自分達しかいないと詩音、玲音は揃ってやる気を見せていた。



「だったら今日の試合、全員勝ちに行こう」


 そこに安藤がキャプテンとして全員へと告げれば皆が頷けば試合前のアップへと全員向かいフィールドへと出る。







「何か立見、見覚え無ぇのが多くね?」


「多分あれ1年とかじゃないか?特に小さい美少年2人辺りそうだろ」


 今日の立見の対戦相手である橋岡高校はアップを開始しており、立見のレギュラー陣を把握しており今日それと試合と思われたが彼らの前には立見では見ない顔の者が数多く居る。


「立見にあんなデカい奴いたか…?」


 1人は190cmを超える半蔵の姿に驚いており、記憶の限りでは彼は選手権の控えにもいなかったはず。今年新しく入った1年と考えるのが自然だろう。


「けどあの神明寺弥一がいないんだ、更に歳児や大門も不在で他のレギュラー陣もいないとなりゃ俺らが勝てるチャンス充分あるぞこれ」


「おっし、1年の集まりだろうし先輩として高校サッカーの厳しさ教えてやろうぜー」


 彼らは弥一達レギュラー陣が不在ならチーム力は下だと見ており勝てると踏んでいる、此処まで積み上げた連勝の実績も自信となっており自分達なら立見に勝てるとそれぞれ意気込んでアップを終えてロッカールームへと引き上げた。




 アップを終えた両チームは試合の時を迎え、ユニフォームを着て審判団と共にフィールドへ再び姿を見せると両キャプテンが先攻後攻を決めてからそれぞれ円陣を組んでいく。


「ふう~…」


「安藤先輩?」


「いや、俺がこれを言えるとなるとちょっとドキドキしてさ…」


 試合への緊張とは違う緊張が安藤にあって立浪から心配されるが一度落ち着いてから再び声を出す。



「初陣勝って終わらせるぞ!立見GO!!」


「「イエー!!」」



 かつては成海がやっていた開始前の立見の儀式、成海卒業後はその役割は間宮へと引き継がれたが今回間宮はチームから外れ、これを言う役は安藤へと回って来た。


 精一杯の掛け声の後に全員も声を上げた、その中で明はまだ慣れてないせいか声量が周囲と比べ小さめではあったが。




「今回の立見相手なら点は取れる、撃ち合いならこっちに分があるからな」


 弥一やレギュラー陣のいない立見など恐れる必要は無い、この試合ガンガン攻めて行こうと橋岡のキャプテンは皆へと伝えれば彼らもこれに応える。




 ピィーーー



 橋岡のキックオフで試合開始、個人のレベルがそれぞれ高く良い動きをしておりボールを素早く動かして右サイドへと展開。


 試合前に薫が言った通りサイドを多用して来て特に右サイドからの攻撃が強力、彼らは開始から立見に対して右サイドから抉るように攻めて来ていた。


 そのままサイドを駆け上がるかと思えば中央へと折り返し、立見の守備を揺さぶっていく。



「うおっ!」


 そこに三笠が相手へと詰めて闘志を押し出しての激しい守備を見せる。


「っ…!」


 三笠の圧に押されて左へと横パス、これを受けて右足でミドルレンジからシュートを撃って狙って来た。


 最初のシュートは橋岡、中々速いシュートが飛んで来たが立見のゴールを守る安藤は正面で難なくキャッチに成功。



 そして右足のパントキックで前線へと高くボールを上げて送り、これをチーム最長身の半蔵が空中戦で相手に頭で競り勝ち落とすと拾ったのは明だ。


 そのままドリブルで前へと進み、DFが寄せに行くと明はしっかりとその姿が見えていて同時に走り込む味方の選手もその目で捉えていた。


 すると明は相手の横でも上でもない、より狭い相手の股下へと右足でボールを通して味方の元へとスルーパスを送った。


 走り込んでいるのは玲音、橋岡DFの1人がこれを追って玲音の前にシュートコースを塞ぐように立つと玲音は追いついたかと思えば右へとダイレクトで左足の低いクロスを上げる。


 このボールに対して走り込んで思い切り頭から低いクロスへ突っ込む詩音の姿があり、ダイビングヘッドで合わせるとボールは相手GKの左手を掠めてゴール右へと向かいネットを揺らした。



「やったー!公式戦初ゴールー!」


「ナイスゴールー♪」


 立ち上がって喜びを現す詩音に玲音が後ろから抱きつき、安藤のキャッチから前線へのキック、半蔵が圧倒的な高さで競り勝ちポストプレーで繋ぐと明が針の穴を通す正確にして鋭いスルーパス。これが玲音へと繋がり最後は氷神兄弟のコンビプレーによって立見が開始早々に見事なゴールを先制ゴールを決めていた。



 試合開始から僅か2分程の出来事だ。




「焦るな焦るな、まだ5分も経ってない!」


 ベンチから橋岡の監督が出て来て声をかけ、チームを一旦落ち着かせる。


 橋岡イレブンもそこまだ気落ちはしておらず彼らは気を引き締めて再びキックオフ。



 再びサイドから展開し、今度は左から行ってアーリークロスを上げて行く。


 相手ストライカーは180cmクラスで中々の長身、高さに自信はある。だが立見のCDF立浪はそれ以上にハイボールへの自信はあった。


 空中戦に競り勝ち、ボールをエリア内から外へと弾き出すとセカンドボールを取ったのは下がり目の位置に居た明。


 すると相手の方を見ないまま左へとパスを出して走り出し、明から出されたボールは三笠が受け取る。


「9、7、8気をつけろ!」


 相手GKから氷神兄弟と半蔵の動きを警戒するようコーチングが飛ぶ中で三笠はセンターサークル付近までドリブルで運ぶ。



「(三笠、こっち…)」


 ボールを要求する明は右手を上げ、その動きが見えた三笠は明の元へと速いパスを出した。


 明に対して後ろから相手が迫りドリブル、またはパスを阻止しようとしている。これを明は三笠の速いパスに対して右足でトンっとワントラップしたかと思えば再び右足でボールを上へと上げた。


 相手DFに対して後ろ向きで蹴られた球は相手の頭上を超えて行き、明も素早く反転して相手の右を通過してボールを追いかける。


 明の高レベルな個人技に会場が湧く中で相手ゴール前へと近づいて行くと、明は左の玲音を見た。


 橋岡DFはその視線に気付き玲音に来ると1人はパスコースを塞ぐように玲音の前に立つ、先程のようなスルーパスはもう出させんとばかりに。



 だが明は玲音の方を見たまま左足でゴール前へと高いボールを上げた。


 パスの本当のターゲットは玲音ではない、最初からゴール前に待ち構える彼の方だ。高く上がった球に対して192cmの長身は飛ぶと額でボールを捉え、叩きつける。


 半蔵のヘディングがGKの右を抜けてゴールマウスへと吸い込まれ2点目のゴールが決まった。


「よしっ!」


 詩音に続く公式戦初ゴールに半蔵は両拳を握り締めてガッツポーズ。


「ナイスゴール…石田」


「おう、お前も良いボールをくれてありがとうな明!」


 明なりの祝福、声は小さいが充分気持ちは伝わり半蔵は明の肩を組んで感謝を伝える。




「(どうなってんだこいつら…何なんだよ今年の立見!?神明寺弥一がいないのに!)」


 開始前は弥一がいなければ行けると思っていた橋岡イレブンもこの2点で余裕はもう無くなっていた、チーム力がダウンしているものかと思えば蓋を開けてみれば既にもう2-0にされている。



 だがこれで驚くにはまだ早い、その事を相手の橋岡は知らない。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 薫「此処まで見ていただき感謝する、この話しが面白い。先が気になるとなったら応援よろしく頼む」


 幸「おお~…!新入生の皆活躍してますね!皆頑張れー!」


 摩央「新監督ここにもちゃんと出てくれる人だったんだ…」

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