第221話 引退する者と受け継ぐ者


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「王者八重葉と呼ばれ続け、初の敗北…勝ち続けなければならない、負けてはならないという強いプレッシャーが常にのしかかっていた事だろう」


 立見が優勝の栄冠に輝いている頃、八重葉のロッカールームでは敗北によって何人か涙しながら監督から彼らへと言葉が送られていた。


「…よく此処まで戦い抜いてくれた、皆」


 長い言葉は贈らない、ただ戦い抜いたイレブンへと労いの言葉を贈る。




「あんなシュート…飛んで来るとは正直思ってなかった、当たってコース変わったりとかそういうのも想定して練習してたってのにあれは…」


 何年ぶりかの失点、そしてその1点で敗北。最後の弥一のシュートを止められず龍尾はタオルを頭に被り椅子に座ったまま項垂れていた。


「その前に俺があの時に決めていたらそこまでは行かなかった、負けたのは…決められなかった俺の責任だ」


 龍尾の隣に座る照皇、今回負けたのは決定的チャンスを決めきれず無得点で終わってしまった自分のせい。龍尾のせいではない、そう言ってるかのようだ。


 八重葉の天才2人は共に負けた責任は自分にある、そう思っていた。



「俺は一足先にプロ行ってるからな。そんで数々の経験をもっと積んで今以上に無失点続けてやる、プロの世界で神明寺を完膚なきまでぶっ潰す」


「…ああ、俺も後少ししたらすぐにそこへ行く」


 照皇も龍尾も悔しさを噛み締めつつ前を見据えていた、更なるレベルアップの為、かつてない強大なライバルに遅れを取らない為に。


 連覇する目前で敗北を味わった王者、この負けを経験として彼らは今日からそれぞれ新たにスタートして歩み始める。










 立見の選手権制覇に高校のみならずサッカー界に衝撃が走った。


 創部僅か2年程の新鋭校が優勝、それも予選を通じて全試合無失点での制覇は前回覇者の八重葉に続く快挙だ。


 そして弥一が決勝で見せたゴールキックのカウンターシュートは日本だけでなく海外でも話題となっている。



「日本のリトルサムライが信じられないミラクルシュート!」


「彼は超次元サッカーの人間か!?」


「アニメや漫画の人物が現実に飛び出して来た!」


「攻撃だけでなく守備でも完封とサッカー界に二刀流のニューヒーローが誕生!」








「疲れたぁ~」


「ほあ~」


 馴染みである立見サッカー部の部室、そこに弥一は机に突っ伏していてフォルナが猫らしい身軽にして高い脚力によるジャンプで地面から机に飛べば弥一の目からその姿は見えた。


「聞いてくれるかなフォルナ~、昨日選手権制覇したかと思えば朝から情報番組で皆が立見の部室に呼ばれて生中継の生出演。それが終わったかと思えば取材があったりとかで何かもうハードな練習より忙しいよー」


 フォルナへと今日あった事を話しつつ弥一は猫じゃらしで遊んであげている、長い戦いの選手権を勝ち抜き全国制覇した立見に待っていたのはテレビ出演と取材の嵐。少し前までそんな世界とは縁がまるで無かったはずなのに今ではSNSのトレンドでも立見、無失点優勝、カウンターシュートと立見関連のワードが出て来る程にまでなっている。


 去年の八重葉優勝よりも今回の立見優勝の方がそれだけ色々と衝撃だったという事だ。


 試合が終わって一夜明けてから何かと忙しく、フォルナとのこうした触れ合いが弥一にとって癒しとなる。





「あ~、可愛かったなぁ美沙ちゃん~」


 部室に入って来た川田は夢心地な感じでサイン色紙を胸に抱いていた、今日で前から推していたアイドルと顔を合わせて話す事が出来て今の彼は幸せいっぱいだ。


「緊張した…俺へんな感じで映ってないかな?不細工に映ってたらどうしよ…」


 皆と共にテレビに初めて出演した大門、自分は変な風に映ってないか心配の様子。隣の優也は軽く挨拶して部室へと入って来て何時も通りだった。


 立見の部員達が部室に集合した時には午後4時になろうとしている。



「え~…めっちゃ忙しい日を乗り越え、改めて皆お疲れ様。バタバタして言いそびれたけど3年生は本日をもって引退する事となります」


 部員達の前で顧問の幸は今日で3年生が部活を引退して後を託す、その事を告げればそれぞれ驚かずに受け止めていた。3年生は選手権で高校最後の大会、それが終わればどんな結果であろうと引退は決まっていたのだ。


 右足を負傷して松葉杖の成海が幸から引き継いで3年を代表して挨拶する。



「此処まで皆、共に切磋琢磨し立見を支え導いてくれて本当にありがとう。俺達3年は今日で部活動は終わる、此処からは皆が新たな立見の歴史を作ってほしい」


 成海と豪山は大学へのスポーツ推薦が決まっており彼らは大学サッカーへと進んで行く、2人はこの先もサッカーを続けていくと決めていた。そしてこの後の立見の事を後輩へと託す。


「そして次のキャプテンは間宮、副キャプテンは田村。お前達に任せる」


「「うっす!」」


 キャプテンの継承、その役目は間宮と田村が成海と豪山から引き継ぐ事となった。これからは彼らが立見を引っ張っていく存在となってくれると信じての事だ。



「私からも一つ、弥一君ここに来て」


 一通り成海が伝え終えた後に京子が右手で挙手し、前に進み出ると弥一に自分の前へ来るように言う。その言葉に従い弥一は京子の前へとやって来る。



「間宮君や田村君のと違うけど受け取ってほしいものがある」


 そう言うと京子が弥一へと差し出したのは馴染みのダークブルーユニフォーム、それも背番号6の物。これが何を意味するのか、彼を知る者達からすればざわつく事だ。


「サイズはあのままじゃ合わないから弥一君のサイズに合わせて作ってもらったわ」


「6番ってこれ…」


「ええ、彼の物だけど本来なら3年で私達と一緒に卒業する。1人だけ置いてく訳にいかないしこれから入る後輩達にまでそれを背負わせたくはない」


 弥一はそのユニフォームを見れば背番号6、立見だけでなく当時所属していた柳FCでも。弥一と初めて会った時から6番を付けていたのを覚えている。


 神山勝也がずっとサッカーで付けていた6番はこの立見では今誰も付けていない、皆がそれは勝也の物だと付けなかったからだ。


「お願い、弥一君。彼も…共に卒業させてほしい」




 差し出されたユニフォーム、それを弥一は黙って受け取る。そして背番号6のユニフォームを見つめていた。


 この番号と共に彼は力の限り戦い続けた、これを身に付けた彼の姿なら鮮明に思い出せる。共に柳FCで戦ったあの決勝戦、味方を鼓舞しながら突き進む勇姿。


 そしてPKを決めて雄叫びを上げる後ろ姿。



 出会ってなければ小柄な体でも勝てる可能性やコーチングの大切さに気づく事は無かっただろう、彼との出会いが弥一のサッカーの始まりだった。


「受け取りました、2年目からは6番で行きますね♪」


 6番のユニフォームを大事そうに抱えながら弥一はこの背番号を受け継ぐ事を決意。その表情は何時もと変わらない明るい笑顔だ。




 立見は3年生が去って間宮がキャプテンに選ばれ、2年が中心となり立見は此処から再び動き出す。


 高校の頂点に輝き今度は王者として挑戦者を迎え撃つ側、全員が立見を警戒し研究して王者の座から蹴落とそうとしてくる事だろう。



 新チームとなり新たな1年を迎える弥一と立見、そして新たなる新入生が入る春はもう間もなく訪れようとしている。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 弥一「此処まで見ていただきありがとうございますー♪今日のあとがきはちょっとお伝えする事がありまーす」


 摩央「改まってなんだよ?まさか、最終回とか打ち切りじゃねーだろうな!?」


 弥一「んな訳ないでしょ、物語は続くよ」


 大門「じゃあなんだろう…?」


 弥一「次の章からー………僕達2年生になりますー♪間宮先輩達も3年生だよー」


 優也「それはつまり、進級か」


 摩央「まあそりゃそうか…季節巡ってんのに1年のままとか有り得ないもんな」


 弥一「僕達が2年生になるって事はー、やっと後輩が出来るんだよねー」


 大門「後輩かぁ、どういうのが入って来るのか楽しみだけど…弥一どういう子が入って来るとかこっそり聞かされたりとかしてない?」


 弥一「いや?全然、天才な子が来るのかダメダメな子が来るのか超問題児が来るのか全く分かんないからね」


 優也「どういうのが来るのか楽しみではあるけどな、その時を待つか…」


 弥一「という訳で話はまだまだ続きます♪この話が面白い、先が気になるとなったら応援よろしくねー。作品フォローや☆評価もしてくれると嬉しいなー。2年生になっても「サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~」をどうぞお楽しみにー♪」

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