第170話 大晦日の決戦に聳え立つ巨人
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
大晦日の決戦、2回戦から注目のカードとなって会場はほぼ満員。
八重葉の天才ストライカー照皇を超える逸材の可能性を持った今大会最長身ストライカー室がインターハイから無失点を続ける立見の壁を破れるのか。
注目の矛と盾がぶつかり合うと一体どっちが勝つのか人々の関心が強く惹きつけたのかもしれない。
琴峯がある福井から応援団も駆けつけており試合前から大きな声援を送っているのが見えた。
それに負けじと立見の応援団も声援を送り、その中には先日鹿児島で行われた全国大会を優勝した桜見の小学生達も居て主に大門への声援だ。
重三や立江に店の常連である年配客達と、大門応援団は平均年齢が高かったがこの日はそれを下げていた。
『選手権2回戦、大晦日となる今年最後の試合。脅威の1年ストライカー室正明を擁する琴峯か、無失点記録を続ける立見か。注目のカードがまもなく始まろうとしています!』
『それにしてもやはり室君は大きいですねぇ、180cm台の選手が並んでも小さく見えますよ。この高さを止めるのは守りの硬い立見といえど容易ではないでしょう』
琴峯の中に長身の選手は何人か居るが195cmを誇る室が大きすぎて彼以外は小さく見えてしまう、彼以外には立見だけでなく審判団を含めても190cm台の大男はいない。
室の高さという大きな武器を手に入れて快進撃を続ける琴峯、この大晦日でも高さを持って立見を粉砕しにかかる事が予想される。
ダークブルーのユニフォームの立見、GKは紫。
ダークレッドのユニフォームの琴峯、GKは白。
立見高等学校 フォーメーション 4-5-1
豪山
9
成海
歳児 10 岡本
18 7
影山 川田
14 16
水島 神明寺 間宮 田村
21 24 3 2
大門
22
琴峯高等学校 フォーメーション 4-5-1
室
21
森川
西野 10 巻鷹
16 7
佐藤 北里
6 5
南山 釜石 大田 東野
15 4 3 2
近藤
1
このスタメン発表に場内では驚きの声が上がっていた。
立見の方に何時もは後半しか出ていないスーパーサブの優也が今日はスタメンで左サイドハーフに入っている。
位置的には琴峯の快足右サイドハーフ巻鷹とマッチアップになるだろう。
「何時もは後半しか出てない歳児君をスタメンの中盤で出すなんて思い切りましたよね~」
「室へのパスは全体的に巻鷹からが多めだ、あいつのスピードとパスを止める為の起用なんだろ。室を止めるよりもその前を止めるって感じで」
立見のベンチにて彩夏と摩央はスタメンから出場しフィールドに立つ優也の姿をそれぞれ見ていた。
本来ならばFWで相手が疲れてくる時間帯、仕留める役目で投入するが今回に関しては違う。
巻鷹の50m5秒台というスピードに対抗する為こういう奇策に出て行き、優也も50mは5秒台で走っているのでスピードなら巻鷹に引けは取らないだろう。
ちなみに立見で次に速い田村は6秒ジャストだ。
その奇策を考えた京子は黙って試合を見守っている。
両チームのキャプテンがコイントスによる先攻後攻を決め、先攻は立見となり彼らのボールからキックオフが確定した。
「パスは高く上げて行く事を意識しろ、神明寺は低いボールをバシバシとインターセプトしててグラウンダーには滅法強い感じだけどあの身長だ。いくらあいつが凄かろうが空中戦は無理だろ」
琴峯が円陣を組み、立見の弥一が守備で厄介と感じ彼らはその対策を改めて確認していた。
弥一の低身長ならハイボールはまずインターセプト出来ない、主にボールは高めに上げて室に合わせて行きチャンスをそこから掴むと琴峯のやる事はハッキリしている。
シンプルにして強力な戦術、絶対的な高さを誇る室を使っての攻撃だ。
室の高さ、これにはGKも勝てないと彼らの中にその自信があった。
「やってやるぞ琴峯ー!」
「「おー!」」
「室の高さ、それを抑えるか抑えないかでこの試合大きく変わって来る。分かってるだろうけどな」
立見の方でも円陣を組んでおり、成海は改めてこの試合で最大の課題は室を止められるかどうかとチームに伝えており皆もそれは分かっている。
「此処で勝ってこの後に美味い年越し蕎麦を食べましょうー♪」
「ああ、まあそうだな…うん」
此処でまた蕎麦の事を弥一が明るい表情で持ち込んで来た事に成海は苦笑しつつも同意。他にも笑いを堪える者は若干居た。
「大晦日、今年最後の試合勝って終わるぞ!立見GO!」
「「イエー!!」」
両者それぞれポジションにつき、試合開始の時を待つ。
主審が腕時計を見ると笛を口にして吹き鳴らした。
ピィーーーー
大晦日の決戦が今キックオフ、ボールを軽く蹴り出した豪山は前へと何時も通り走り成海がボールをキープすると右サイドから田村がいきなりのオーバーラップを見せる。
『立見のキックオフ、中盤の司令塔成海がボールを持つ…と、右から田村が走っている!キックオフからの奇襲か!?』
成海はその田村が走り込んで行く位置を計算し左足で右サイドへと正確なボールを蹴る、低いボールに対して田村の足が追いついて行く。
これに琴峯も黙って見てはおらず、琴峯の左サイドバック南山が向かい田村との競り合いとなる。
競り合いの最中ボールはタッチラインを割って判定は立見ボールのスローイン。
『おっと、立見のスローインで川田がゆっくりとボールに近づいて行く。立見の人間発射台と言われる彼のロングスローが早くも放たれるのか?』
田村は川田へとボールを託し、頼んだと彼の背中を叩いてフィールドへ入ると川田は両手にボールを持ちスローインの態勢へと入る。
「だああーーー!」
気合と共に琴峯ゴール前へと向かって思いっきりボールを放り込む川田、ロングスローはグングンと飛んで行きゴール前に高いボールが上がる。
これに豪山が跳び、相手DF釜石との空中戦になり豪山の頭が上がりヘディングするも釜石の身体に当たりボールはエリア内へと溢れる。
混戦となったゴール前でボールを見つけて追いつこうとしているのは北里、だがその影から風のような速さ、勢いを持って迫る人物が居た。
優也がそのスピードを持って追いつき先に右足で流し込みに行く。
斜め左からゴール左へと飛ぶシュートに琴峯のゴールを守る近藤がこれを両手に当てて弾き、ゴールラインを割る。
『混戦から歳児が詰めてのシュートは琴峯GK近藤がセーブ!最初の立見の攻撃を此処は止めました!』
『この後のコーナーキック琴峯はなんとしても守りたい所ですね、守備が自慢のチームに立ち上がりから先制されると精神的にも苦しくなりますから』
するとこれを見た前線の室がゴール前へと向かって歩いて行く。
「(室…?あいつ、コーナーキックの時はDFもやるのか)」
左コーナーからのボールをセットしようとしていた成海は室が琴峯ゴールへと近づく姿が見えた、ゴール前に一つ聳え立つ壁が出来てそれを見るとハイボールを放り込もうという気は起こらない。
室に対して高く上げても弾かれて終わる確率は極めて高いだろう。
相手の巻鷹のスピードによるカウンターに警戒し、優也は彼の傍でマークし弥一も此処は上がらず守備に専念している。
「(こっから見ても彼でかいなぁー、豪山先輩があんな小さく見えるなんて珍しいし)」
遠くから琴峯のゴール前を見る弥一、此処からでも室の長身は分かりやすく伝わり立見が誇る長身ストライカーが小さく見える事など早々無い。
立見のコーナーキック、近くにいる影山へと成海は短く出してショートコーナーを利用する。影山がちらっと中を見れば奥の岡本が一瞬フリーになっているのが見えた。
高く上げれば室が追いついてその高さで弾かれる、それを避けようと意識して影山は低めのボールを岡本目掛けて左足で蹴り送った。
これが通れば立見は再びシュートチャンスだ。
そこに立ち塞がるように伸びて来る長い脚。
横から室が足を懸命に伸ばし、ボールに当てて影山の低いクロスを阻止。高さでは止められるとグラウンダーを選択したのだが195cmの長い足のリーチはこういう所でも活躍する。
ボールはクリアされ、琴峯はピンチを脱出し立見は先制に失敗。
縦だけではない、横でも高い室。想像以上に広いプレー範囲の前に高い壁がより高く感じた瞬間だった。
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