第160話 選手権の組み合わせ決定
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
11月の下旬を迎え、肌寒さが一段と増す。
肌に触れる風が冷たく感じて暖かい物を欲したくなる、何時もなら立見高校の中庭は昼休みの時にサッカー部の1年達がそれぞれ集まり購買部の弁当やパンを買い、木の下で座って食べるのが日課だったがこの寒さとなると暖かい教室で昼を過ごす。
それが冬の新たな日常だ。
ただこの日は昼食を食べつつサッカー部員は各自スマホを見ている。
頻繁にスマホに触れる摩央などは特に珍しくなく何時もの事だが、今回はサッカー部全員だ。
「あ、一個ちょうだいー」
「って言いながら食ってんじゃねーか、だったら俺も一個もらい」
同じ1年の教室で弥一はスマホ見つつ摩央の食べるミニあんぱんを一ついただき、口へと放る。これに摩央も弥一が食べているミニカレーパンを一個もらい食べる。
互いの昼食を取って食べ合う中でスマホの方に動きがあった。
今日は高校サッカー選手権の組み合わせ抽選会が行われる、一昔前ならば各出場校の監督やキャプテン等が直接会場へと出向きくじを引くというのが主流だったのだが時代の流れか近年ではリモートでの抽選が当たり前となってきていた。
そのおかげで遠い県の者も長時間かけて行かずに済み、出場チームに大きな負担がかからない。
立見の初戦の相手は何処となるのか、立見サッカー部がスマホを見る中で抽選は進む。
12月28日、東京A代表である立見は開会式がある日の開幕戦から登場。その相手は鹿児島県代表の海塚高校と決まった。
「海塚…ってどんなチームー?」
「言うと思った」
まだまだ日本の高校サッカー界に疎い弥一、同じ東京の強豪に八重葉と覚えてきたが知らない高校は多いままだ。
弥一のこういう反応は付き合いも長くなってきたおかげで予想出来ている摩央、対戦校が決まった後に摩央はスマホで海塚高校についての情報を調べ弥一へと教える。
「海塚(うみづか)高校、鹿児島予選は得点21、失点2。攻守で安定した強さを持っていて優勝候補の一角って言われていって今年のインターハイでもベスト4まで勝ち上がってる」
東京や静岡と同じように激戦区と言われる鹿児島予選、過去の高校サッカーでは鹿児島から優勝校が何校か出ており他にも優秀な成績を収める名門校が数多く居る。
その中で勝ち上がって来た海塚高校は強敵と言えるだろう。
「技術が高いけど最大の強みはフィジカル、全体的に大きく強い海塚はフィジカル軍団って言われててな。特に3年生FWの佐田英二(さた えいじ)はチームで唯一プロ内定が決まっている名プレーヤーだ」
高校サッカー界でも屈指のフィジカルを誇る海塚、その中で佐田はチームのエースであり173cm、64kgと高校サッカーでは決して大柄な方ではない。
それを鍛え上げたフィジカルでカバーし更に50mを6秒ジャストで走る速さを持ち、左足のシュートでゴールを量産している。
「そんなに皆ムキムキに鍛えてるんだ?体つきは海外選手みたいにゴツそうだねー、ちょっと前まで日本人はフィジカルが弱いと言われてたのが嘘みたい」
まだ見ぬ鹿児島の強豪校、全員がボディビルダーのような筋肉をしているのを弥一は想像しそうになっていたが今夜辺り悪い夢を見そうな気がしたのでその想像は中断しておく。
誤魔化すように弥一は卵サンドを口に入れつつ抽選会の続きを見ていた。
抽選は更に進み、最神第一はシード校として立見側の方へと入る。前回王者の八重葉もシードであり立見とは反対側のトーナメントへと選ばれていた。
まだ目の前の1回戦がどうなるか分からないが仮に立見が勝ち進み向こうも順当に勝ち上がれば準決勝に最神、決勝で八重葉と試合という事になる。
他にも数々の強豪校や初出場校によって組み合わせは続々と決まり、全ての組み合わせは出揃った。
昼休みは終わり、弥一達は午後の授業を経てから部室へと向かう。各自が初戦の相手を見たようで部員達はフィジカル軍団を相手に大丈夫かと不安な様子だった。
「鹿児島の奴とは中学時代に当たってるけどな、うちのFWが相手のショルダーチャージでぶっ飛ばされてたんだ。ありゃえぐいパワーだった」
中学時代ベストイレブンに選ばれた実績を持つ間宮、その彼がえぐいパワーだと語らせる鹿児島のプレーヤー。
間宮の隣では影山がうんうんと頷いており、彼も鹿児島のパワーを味わった1人だ。
立見でも間宮に川田、大門に豪山と長身でパワーある選手は居るが全体で言えばフィジカル面は海塚の方に分があるだろう。
海塚は全体的に背が高い選手が多く競り合いにも強い、更に技術面も高く優勝候補の一角に恥じない実力を持っている。
「これに勝たないと先に進めない、初戦から大変な相手になったなぁ…」
ぼやくように武蔵はスマホで海塚の試合を見ていた、そこに映るのは相手選手と競り合って強引にボールを奪い取る海塚の選手。
更にそこから上手いパス回しを展開してタイミング良く抜け出していたFWへスルーパスを送り相手キーパーとの一対一を確実に決めてゴールを奪う。
フィジカルだけではないテクニックも織り交ぜ、海塚は自慢のパワー&テクニックのサッカーを展開していた。
「はいはい、皆さん此処でちゅうもーく」
全体的に海塚のフィジカルに不安なチームの雰囲気に対して弥一は両手をパンパンと叩き一同の目を自分へと向けさせる。
「初戦大丈夫かな?勝てるのかな?と何か不安になってそうな皆さんに此処で朗報!優勝候補のフィジカル軍団相手に対抗する必殺テクニックを此処で教えようと思いまーす♪」
「は!?」
何時もの明るい笑顔で弥一はまたとんでもない事を言い出す、競り合いに強いあのフィジカル軍団に太刀打ち出来る必殺テクニック。それを教えると聞いて全員が驚く顔を見せた。
「お前そんな魔法みたいな手段あんのか?冗談で言ってんじゃねぇよな?」
「あるなら教えろよー!」
間宮、田村が弥一の言う方法が何なのか気になり知りたくてしょうがない様子。2人だけでなく部員達皆がおそらく同じ気持ちだろう。
「まあまあ慌てないでー、勿論これで確実に100%勝てるという保証は無いですからね?ちゃんと日々練習、勿論無理しない範囲で。オーバーワークは絶対ダメですよー♪」
弥一の言う必殺テクニックとは何なのか、少なくともその関心の方が大きくなり部員達の初戦への不安が薄れて行っているのは確かだった。
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