第133話 華麗なる先制ゴール


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 前半のピンチを互いに凌ぐと中盤、持ち前の技術と連携で細かくパスを繋ぐ真島が支配率を上げていき先にペースを握る。


『戸田から谷口、峰山と繋がり更に山本へと真島のパスが回る!』


 前川のプレスを躱しボールを奪わせない、その前川もしつこく寄せて真島に楽はさせないようにと懸命に走っていた。


「9フリーにさせるなよー!」


 前川ゴール前に立つ岡田が後ろから指示を飛ばす。


 真島の攻撃陣で目立つ鳥羽や峰山だが意識が向こうに行き過ぎて、他をフリーにさせてはいけないと他にも注意するよう意識を改めて持たせる。



 攻める真島、守る前川といった感じで試合は進み両校の応援にも力が入っていく。


 前線で要注意の鳥羽には河野がマークしており彼を決して見逃さない、その鳥羽は此処まで目立った動きは無く様子見という感じだ。



 かと思えば急に鳥羽は左へと走り出す。


 動きに緩急をつけて河野を翻弄する狙いか、走り出した鳥羽に河野も後を追う。



「!」


 これにより前川の中央、河野が鳥羽に釣られた事でスペースが出来上がる。一瞬出来た隙、前川の綻びをボールを持つ峰山は見逃さず右足で空いているスペースへと正確なパスを放り込む。


 そこに鳥羽と位置を入れ替わる形で走っていた真島のFW佐藤が追いつこうとしている。



 追いついて球を取ればキーパーと1対1のチャンスだ。




 その前に蹴り出されるボール、佐藤はこれに触る事が出来なかった。


 先に反応していたのは岡田の方で瞬時にゴールを離れて大胆な飛び出しによりクリア成功、この攻撃を阻止する。



「(まだ攻撃止まってない!)」


 前川を率いる島田、危険を察知してか後ろへと下がっていて岡田のクリアしたボールを取る戸田へとすかさず後ろから詰め寄り連続攻撃を簡単に許さない。


 この結果として真島の攻撃リズムを狂わせ、前川の守備陣形が整う時間を稼げた。島田は献身的な守備でチームへと貢献していく。


 負けたら此処が高校最後の試合になる3年生の選手権。


 なのでやるからには悔いが残らぬよう全力プレーで強豪へとぶつかる、島田だけではなく細野や河野も同じ気持ちを持ってこの試合に臨んでいる。



 そして負けたら最後の選手権となるのは真島も同じだ。


 主力の鳥羽、峰山、田之上、田山達はいずれも3年で最後の大会。最後は全国大会優勝で締めたい、それで次の世代となるであろう後輩の真田達に後を託す。


 その為に前川が負けられないように真島も負けられない。



 だがこの試合でどちらかのチームが敗退し高校最後の試合となってしまうのは確実、それが真島となるのか前川となるのかスコアレスの今はまだどちらにも傾いていなかった。



『攻める真島、山本が右から切り込みサイドを駆け上がって行く!』


 ボールを持つ黒川は山本の上がって行く姿を見てその前へと速いパスを送る、そこに峰山が中央へと走り前川ゴール前に迫っていた。


 球に追いつき山本はその峰山へと中央に早い段階で折り返す、ボールは低く速い弾道で峰山へ向かう。その峰山が取ると察知していた前川のDMF山田が峰山へと走る、距離的にカットは無理でも前に立ち塞がり峰山に前を向かせない事なら出来ると判断していた。



 だがその思惑を裏切るかの如く峰山は来たボールを受け取らずスルー、このパスを受け取るのは彼ではない。



 奥に居る者だった。



「(鳥羽!)」


 ボールを取ったのは鳥羽、これを見た河野は鳥羽をすぐに潰そうと止めに行っていた。


 その鳥羽は取った際に1度ボールをその場でトン、と右足で浮かせると次に触れた時には潰しに来た河野の頭上を球がふわりと浮かんで通過、一度浮かせた球を再び右足で蹴ってループで頭上を越すボールを蹴っており、それと共に鳥羽自身も河野の左を通り抜けた。


 鳥羽の目の前には落ちていくボールがしっかりと見えている。


「!?(やばい…)」


 河野がそう思った頃にはもう既に遅かった。




 次のDFが詰める前に鳥羽は地面にボールが到達するよりも先に右足がそれを捉えた。



 鳥羽の得意とする右足のボレーシュート。


 正確に撃ち抜かれたボールは剛球となり加速し、勢い良く前川ゴール左上へと飛んでいく。



 岡田はこのシュートに素早い反応を見せて取りづらいコースにも飛びつき右腕を伸ばす。



 その伸ばした手は球を掠る事なく通過を許していた。




 次の瞬間ボールは豪快に前川のゴールネットを揺らし、鳥羽のゴールが確定するとスタンドからは歓声が飛ぶ。



『決まったァァー!真島、前半28分に鳥羽のスーパープレーが炸裂ー!東京No1ストライカー此処にあり!!』


『河野君に対してループで躱してからそのままボレーシュートとは、魅せますねー。山本君の折り返しや峰山君のスルーとそこに至るまでの連携プレーも素晴らしかったですし、これは真島が勢い乗りそうですよ』



 ゴールを決めた鳥羽に真島のチームメイトがそれぞれ抱きつき喜ぶ、貴重な先制点がようやく入った事により彼らはこれで精神的に優位となった事だろう。






「っ…くそが!!」


 ドガンッ


 岡田はゴールを守れなかった悔しさ、怒りをゴールポストへとぶつけるかのように蹴りつけていた。


 5試合連続無失点で来ていた前川はこれが今大会初失点、真島相手でも0点に抑えられると思っていたがやはりそこまで甘い相手ではない。


 鳥羽のボレーには反応しており後一歩及ばなかった、だからこそ悔しくて自分が許せない。岡田はその思いでいっぱいだった。



「岡田!取り乱し過ぎだろ!連続失点を喰らいたいか!?」


 そこに島田が駆け寄り岡田を落ち着かせようと声をかける、GKが乱れて冷静さを欠いたままではとても危険であり失点のリスクは大きく跳ね上がってしまうだろう。


「…すみません…」


 取り乱した事への謝罪か、ゴールを割られた事への謝罪か、岡田は項垂れながらその言葉を口にする。



「まだ1点だ、前半時間もあるし取り返して行くしかない」


「俺の方で鳥羽を止めきれなくて余計な負担与えちまった、今度はもう好きにさせないからな」


 細野も河野も失点を切り替えておりキックオフの準備へと入っていた。




「(先輩達があんな冷静なのに何やってんだ俺…情けねぇ!)」


 高校最後の大会となる先輩3人、彼らが落ち着いているのに対して先程失点した事により怒って我を忘れていた岡田は自分が情けなく思えた。


 そして試合は再び再開し前川が反撃に出る。




「(鳥羽先輩達がやっと取ってくれたゴールだ、これを守りきって勝つ!)」


 先輩の決めたゴールに奮起するのは真島1年DFの真田、此処で最後の試合にはさせないと張り切っており細野から出された奥田へのパスを右足で蹴り出して大きくクリア。


 クリアされたボールを峰山が持つとカウンターのチャンスとなり、迫る前川の山田を戸田とのワンツーで突破し再び鳥羽へとパス。


「(初失点喰らってショックの間に2点目貰い!)」


 鳥羽はゴールに喜ぶ中で岡田が取り乱す姿を見えていた、この辺り彼は抜け目ない。


 今の前川は守備がガタガタに崩れている状態であり2点目を取れる可能性は充分、立ち直る前に追加点を奪えばかなり真島は優位に立つ事が出来るはずだ。



 河野が迫る中で今度はフェイント入れずに峰山から出されたパスに走り込んでそのまま左足でシュート。


 先程とは逆の足でコースも右下へとボールは飛んでいる。



 だが岡田はこのシュートに素早い反応、低いボールに両腕を伸ばし当てると外へとしっかり弾き出してゴールを阻止。



「(もうこの試合でお前や真島に得点はやらねぇよ!)」


 2点目は絶対許さない、岡田はこの後のコーナーキックに備え集中力を高めた。

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