第6章 過酷な夏のインターハイ

第87話 勝利の味


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 春から始まったインターハイ東京予選は立見、桜王の2校が出場を決めて優勝は立見に決まり予選が終わった。


 2試合を連日で戦い抜いた立見は優勝の余韻に浸りつつその日は解散、翌日の練習は休みだが月曜で普通に学校があるので早々に身体を休める事にしたのだった。



「立見サッカー部、インターハイ出場おめでとう!」


 校長室にて顧問の幸、キャプテンの成海、副キャプテンの豪山、そして東京予選で大活躍の弥一、優也の姿があり立見校長からインターハイ本戦出場を祝ってもらう。


 野球部以来となる全国出場の部がまた一つ出来て立見高校としては鼻高々だろう。


「しかも優勝を決めたり得点王にMVPまで持ってくるとは、いやいや今年のサッカー部の活躍には驚かされるよ」


「ありがとうございます、皆の努力や学校の支援に皆さんの応援のおかげで行けました!」


 はっはっは、と豪快に笑う校長へと幸は頭を下げてお礼を述べた。


「2年前に神山君がサッカー部を作ってほしいと押しかけてから、短期間で此処まで来るとは正直思っていなかった。彼の事も含めてね…」


「…」


 豪快な笑いから一転、2年前の事を校長が思い出すと笑いは消えていた。幸、成海、豪山はそれぞれ勝也が部を作り出した時の事を同じく頭に浮かべ、彼と共に部活を過ごした時を思い出す。


 本当なら勝也も此処にいるべきだったはず、サッカー部を1から作った者として栄光を受け取るべきなのだが彼はもういない。



「きっと、空から見てて「お前らよくやった!すげーよ!」ってはしゃいでると思いますよ。勝あ……神山先輩なら」


「はは、彼は活発な生徒だったからね」


 癖で普段呼んでいる勝兄貴と言いそうになったが此処では彼の後輩なので弥一は言いかけた言葉を直し、勝也なら言いそうな事を明るく笑って代弁するように言った。


 それに校長も彼なら言いそうだと釣られて笑うと再び校長室に明るい雰囲気が戻る。



「立見サッカー部、更なる活躍を期待します。インターハイ楽しんで来てください」


「「はい」」


 校長の言葉にそれぞれが返事し、彼らは校長室を後にした。





 何時の間にか学校には野球部の甲子園出場、その横にサッカー部インターハイ出場&夏の東京王者という横断幕が作られていて飾られている。


「すげぇな、もう横断幕作られてらぁ」


「僕達これ…凄い事やっちゃったんだよね?」


「当たり前だろ。これで凄くない訳あるか」


 外から横断幕を見ていた間宮、影山、田村のサッカー部2年トリオ。


 昼休憩で購買部のパンを買って外に出ていた。立見の1年達がよく行く馴染みの場所とは離れている草むらの上が彼らの場所だ。



「あ、見つけた!サッカー部の皆さん、全国も頑張ってください。これどうぞ!」


「え?俺?」


 そこに女子生徒が小走りで近づくと話しかけ、田村へとプレゼントが送られる。可愛くピンクの包装の物だ。それを渡すと照れたのか女子生徒は走り去る。


「……やべぇ、俺モテ期来ちゃったかもー!?」


 自分の人生でモテ期など無い、そんなもの都市伝説だと疑っていた男は遅れた春が来たとテンションが分かりやすく上がっていた。


「単純な野郎め」


「はは」


 浮かれる田村の姿に間宮はそっぽ向いてクリームパンにかじりつき、苦笑する影山はカレーパンを一口食べていく。









「腹減ったー…武蔵、購買行こうぜ」


「おー、今日は特製ラーメン売ってるかなぁ?」


 1年の川田は武蔵を誘って購買部へと向かおうとしていた、食べ盛りの高校男子なので多めに食べる事を考えていたがそこで呼び止める声があった。


「二人ともー、今日あんまり食べない方がいいよー」


「大門?何でだよ?」


 部内で一番の大食漢であろう大門から今日は控えるべきと言われ、川田と武蔵は共に?が頭に沢山浮かぶ状態となっていく。


「実は今日…」












「この度の立見サッカー部の活躍、実に天晴!我が飛翔龍からインターハイ出場と東京予選優勝を祝して用意させてもらった!」


「よろしければ部員の皆さん召し上がりくださいね」


 放課後、サッカー部の部室。そこで机をいくつかくっつけて一つの巨大なテーブルにしていくと数々の中華料理が並べられていく、そのテーブルを部員達で囲んだ。


 重三と立江が立見の快挙を祝う為に駆けつけて料理を振舞ってくれた、実際は出来た料理を数人程の若い者にも手伝って此処まで運んで来てもらい、年配の二人だけでは少々運ぶには困難な量だ。


「やったー♪此処のチャーハン美味しいから大好きー♪」


「食うの乾杯してからだぞ、全員にコップ行き渡ってるかー?」


 飛翔龍の炒飯が初めて食べた時から弥一のお気に入りとなり再び食べられると待ちきれない様子。それに摩央は弥一へ注意しつつ皆コップあるかどうか確認している。



「えー、では我が立見サッカー部の快挙を祝しまして…かんぱーい!」


 コップを持った幸は代表して乾杯の音頭をとり、掲げれば部員達もそれぞれコップを掲げた。


 飲み物はオレンジジュースに麦茶と用意されている。



「やっぱ美味い~♡最高~♡」


 店自慢の特製炒飯を味わう弥一、お気に入りのパラパラ絶品炒飯。米と卵と豚肉が最高のマリアージュとなって口の中で美味しさが広がって行き、食は自然と進みレンゲを動かす手が止まらない。


「ハッハッハ!やはり良い、何時見ても良い食いっぷりよ神明寺君!まだまだあるから心ゆくまで食すと良い!」


 麦茶を飲みつつ美味しそうに炒飯を食す弥一の姿に満足そうに頷く重三。




 ラーメンに餃子にエビチリ、油淋鶏や炒飯、数多くの中華料理に加えデザートの杏仁豆腐も用意されており、量は多いが食べ盛りの部員達にかかれば残らず平らげるのは余裕だった。



 10試合の戦いを潜り抜け、特に準決勝と決勝は連日をこなしてきた立見。


 だがインターハイの過酷さはそんなものではない。準決勝と決勝のような連日の試合はいきなりやってくるのだ。


 高校サッカー随一の厳しい日程と言われる夏のインターハイ、それはまもなくやってくる。



 だが今は先のそういうものを忘れて掴み取った勝利の味を噛み締めて味わうのが良いだろう。

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