第59話 1次トーナメントの戦い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
新設のサッカー部に突然の高性能サッカーマシンの導入、いきなりの事で幸は戸惑いどうしようかと思ったが向こうのご好意に此処は甘えてありがたく貰う事にした。
推定50万円という事なので扱いは慎重にと各自に伝えられる、壊しでもしたら幸の月収が吹き飛びかねないかもしれない。
彩夏は前もって取り扱い説明書を読んで来ておりマシンの設定を行っていた。
「このマシンは様々なシュートが撃ててロングパスやセンタリングとか、そういったのも発射出来るみたいですよ~」
何処かドヤ顔で彩夏はマシンの発射台を指差す、マシン一つで得意なボールをいくつも出来て人に蹴ってもらう必要が無い。人数の少ない立見サッカー部にはありがたい存在なのかもしれない。
「どんなシュート撃てるのか、誰かキーパー試してみる?」
「あ、はい!俺やりまーす」
京子から誰かシュート受ける者は居るかと問われると彩夏に良い所見せようとしてるのか2年GKの男子一人が立候補した。彼はグローブを付けてゴール前に立つ。
「じゃあ行きますね~」
「おーし、来い!」
グローブを付けて構えた2年GK。それに彩夏はボールを発射台へとセットする。
バシュッ
「!?」
GKが気付いた頃にはボールはもう通り過ぎていてゴールがゴールマウスへと入っていた。
彼からしたら一瞬風が吹いた、そんな感じがして気づけばゴールされたという感じだ。
「はっや…!?」
流石の弥一もこれには驚く、このシュートスピードは想像以上であり相手が機械なので当然心など読める訳も無い。そしてキッカーと違いモーションも無いので2年GKもノーモーションからあのような弾丸シュートが飛んで来るとは備えられなかったのだろう。
「あんなシュート俺も撃てねぇぞ…」
シュート力なら部内No1の豪山も機械のあのシュートスピードは無理だと感じて冷や汗が出て来る。
「このサッカーマシンは最大で時速130キロのシュートスピードが出るそうですよ~」
彩夏から告げられた機械の最大シュートスピード、それには部内で驚きが走っていた。
サッカーにおけるシュートスピードはプロで100キロと言われている。それをこの機械はそれを30キロも上回る程のシュートスピードを出せると言うのだ。
シュートスピード130キロとなると国内プロトップレベルを超え、海外のプロにも到達する程だ。
「これ、相手の強烈なミドルやロングが不意に飛んで来た時の対策とか速いクロスに合わせるとか色々応用して使えそうじゃないですかー?キーパー練習としてだけでなく」
このサッカーマシンを使って色々出来そう、そして面白そうだと弥一は目を輝かせた。弥一だけではない、他に何人かの選手もマシンに興味を持っており面白そうと感じた。
やはり男子はこういうマシンという物に対して心躍る物があるのかもしれない。
「皆さん、取り扱いはくれぐれも慎重に丁寧に!」
そこに幸は念を押して部員達へとサッカーマシンの取り扱いを丁寧にと何度も口酸っぱく注意、50万という高価な機械を扱うのだからそれはそうなる。
立見サッカー部で初のマシン導入による練習、摩央がマシンを設定してボールをセット。ゴールで構える大門へとシュートが発射される。
ノーモーションで急に放たれる130キロの弾丸シュート。
それも右下の隅とキーパーにとって取りづらいコースへと飛んでいき、大門は反応して飛び、左手を伸ばすも間に合わずゴールネットが揺れる。
「こんな速いのか…!」
「高校生でこんなの撃てるのまずいないだろ…」
止められなかった大門も、セットした摩央も機械の放つシュートスピードに驚かされており大門は今まで体感したどのミドルやロングよりも速いと感じた。
プロで100キロが平均なのだから高校生では130キロは勿論、100キロのシュートスピードを出せるプロレベルのプレーヤーもそう滅多にはいないだろう。
多彩なコントロールシュートを撃てるという点では弥一も負けてはいないが彼ではそこまでのシュートスピードは出せない、弥一にも豪山にも撃てない新たなシュートを機械が可能なのは相手のシュート対策が幅広く行えそうだ。
「いきまーす」
摩央が合図を出すとゴール前で構えるDF陣や攻撃陣が頷く。摩央の前には例のサッカーマシン。
ボールをセットするとマシンはボールを発射、高く速いクロスがゴール前へと上がっていった。
「うお!?」
「わっ!?」
マシンの放つクロスボールは速く、間宮と川田は目測を誤りボールを頭でクリアしようとするも届かず。
「っ!」
このスピードクロスに成海はなんとか合わせ頭で狙いに行く、ボールはゴール右へ飛んでおりスピードあるクロスからのヘディングに安藤は反応出来ていない。
だが成海のヘディングはゴールマウスから右へと逸れていき、攻撃する方もこれに合わせるのは困難だと伺える。
「おいおい…こんなクロスあるのか?早すぎて敵どころか味方も合わせられないぞ」
「けど海外のリーグだとパススピードはシュート級の威力だって聞くからねー、合わせられる人はやっぱ合わせられるんじゃない?」
誰も合わせられないパスだろうと、やや唖然としながらも弥一は横でマイペースに機械を眺めており合わせる事は不可能じゃないと語る。
「それに、これ高かったり低かったりの速いクロス対策にもなるかもよー?何しろノーモーションだし、それに対する反応の向上も期待出来て相手役の攻撃陣もそれに合わせる練習兼ねて行けそうだろうから」
「ああ、そっか…とりあえず設定少し変えてスピードをまずは落として徐々に上げてって慣れる方が効率良さそうかな?」
各自で話し合い、サッカーマシンの活用について実際試しつつ練習をこの日もこなして行く。
そして支部予選が終わり1次トーナメントが開始される試合の2日前、何時ものように午後の練習終わりにスタメン発表がされる。
「GK 大門」
「DF 間宮、神明寺、田村、後藤」
「MF 成海、鈴木、岡本、影山、川田」
「FW 豪山」
最近はこの先発メンバーが続き、武蔵や優也はやはり後半からの出場となる。
試合当日、両選手がフィールドへと立つ。
立見の相手は支部予選を勝ち上がった壁代高校。堅守速攻のカウンターサッカーを得意としていて前の試合を壮絶なPK戦を行い勝利を勝ち取っている。
1次トーナメントの戦いは午前10時にキックオフを迎えた。
ピィーーー
立見ボールからのキックオフで試合は開始され、中盤で何時も通り成海を中心にボールを回していく。
壁代の方はゴール前に早くも人数を多く固めていた。前線には二人程残しておりカウンターに備えている。
守備に人数をかけて守り攻撃で少ないチャンスを物にし点を取って後は守りきる、それが壁代のサッカーだ。
「(意地でも守りきってやるって感じだなぁ、PKも勝ってるからそこまで行っても勝つ自信あると…前川みたいなタイプだね)」
心で弥一は彼らが絶対守りきるというのが分かり伝わって来ていた。支部予選の時の前川戦でもそれは感じており1点はやらないという強い気持ち。それが堅守となり相手の攻撃を跳ね返していく。
豪山が相手DFと頭で競り合い、ボールが溢れた所に成海が詰めるもDMFがその前に蹴り出してクリア。
やはり相手の守りは中々固い。
そして守りきり、前線の選手へと大きく出され壁代のカウンターが飛んで来る。
「(守りきってやるっていうのはこっちも同じだけど!)」
壁代以上に意地でも無失点で終わらせようと企む弥一、このカウンターを許すはずもなくロングボールをいち早く読んでインターセプト。
堅守に関してならこちらは3試合連続無失点で来てるので守備に関してなら負けてはいない。
両者に決定的なシュートチャンスが生まれないまま前半の時間はあっという間に過ぎ去って行く。
此処でボールは右サイドの田村へと渡り、サイドを走る。
壁代は相変わらずゴール前を固めていて豪山もしっかりマークに付けていた。
シュートコースも塞がっておりDFが田村へと迫る。
「(こんの!)」
田村はエリア内へと思いっきり右足でボールを蹴る、それはパスというよりシュートを思わせるスピード。
急な速いクロスにDFは必死のブロック。これによりボールはエリア内へと溢れ、このセカンドを拾えばチャンス。壁代はピンチだ。
混戦となったゴール前、豪山も成海もボールを追いかけて壁代DF陣もボールをなんとしても危険地帯から脱出させようとしている。
その時ボールがシュートされてキーパーの足元を抜けてゴールへと入った。
豪山でも成海でもない。
混戦でどさくさに紛れ上がっていた影山が誰にも気づかれないままシュートを撃ってそれが見事入ったのだ。
ここぞという時に仕事をしたシャドウボランチの元に立見の数人が集まり影山を祝福。
「やったやったー!流石影山先輩、良い存在感の薄さだったよー!」
「(褒めてんのそれ…!?)」
影山本人としては微妙な気持ちだが弥一は褒めているつもりだった。どちらにしろ堅守の相手に対して大きな先制点。これで前半は終了し1-0でハーフタイムを迎える。
そして後半、壁代は当然攻勢に出るが間宮と田村を中心としたDF陣が攻撃をしっかりと止めており更に弥一も先を読んで声を出して行く。
「8番長いパス来るよー!」
「7番ミドル撃つよー!」
思うように攻撃が決まらず慌て始める壁代、ミスも目立ってきて攻撃に精彩を欠いていく。
そして後半30分になると武蔵、優也を鈴木と岡本に変えて同時に投入。
すると2分後。
「!?(はや!)」
壁代DFがボールを持つと素早く優也が詰めて来て、思ったよりも速いプレスに壁代DFがボールをこぼし優也はすかさず拾ってボールを大きく蹴り出し、それに向かってダッシュ。
後ろにはキーパーしかおらずキーパーは飛び出していた。
しかしそれを優也は冷静に見ていたようで飛び出してきた所にボールの下側につま先を潜り込ませ、足の甲でボールを蹴る。ボールを浮かせる優也のチップキックはキーパーの頭上を超えていくとそのままコロコロとゴールへと入って行った。
2-0。優也がDFから前線でボールを奪い、キーパーとの1対1を落ち着いて決めて貴重な追加点を終盤でもたらしてくれて立見の数人は優也の元へ集まりゴールを喜んだ。
当の本人はクールだ。
「行くよー、此処で失点は駄目よー」
そして追加点の後も弥一は声をかけていき、回りの守備陣も集中して守りこの後の反撃を通さず試合はこのまま終了する。
1次トーナメントまずは1勝目だ。
立見2-0壁代
影山1
歳児1
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