第57話 先に待つ東京の強豪達
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
支部予選のブロック優勝を決め、1次トーナメント進出となった立見。
一度立見の学校へと戻り部室で次のトーナメントに向けて話した後に解散、明日は試合翌日と完全休養の日なので今日はもう明日の事など考えなくて済む。
「う~ん♡メロンパン美味~♡」
各自が休養で引き上げていく中、弥一は立見の駅前にあるベーカリーショップのイートインスペースでメロンパンを味わっていた。
焼きたてパンの香ばしく良い匂いが食欲を刺激されて、試合終わりで腹を空かせた食べ盛りの高校生がこれを前にパンを食べるのを我慢するのは酷というもの。
我慢という選択肢は一切存在しない、弥一は店の看板メニューであるメロンパンとカレーパンにカツサンドを注文。
弥一は好きなメロンパンにかぶりつくとフルーティーな香りを友にサクサクのクッキー生地にふわふわな中身、空腹という美味しさを引き立たせる最高のスパイスを差し引いてもこのメロンパンは絶品だ。
「ホントお前…幸せそうに食うよな」
弥一と向かい合って座る優也、彼は焼きそばパンにコロッケロールを買っており食していた。
「だって試合後に食べるご飯美味しいからさー、あ。コロッケロールも美味しそう」
優也が食べているコロッケロールがメロンパンを食す弥一には魅力的に見える、焼きたてのパンと共にコロッケも揚げたてを提供しておりメロンパンと共にこちらも人気の商品となっている。
「自分で頼め」
譲るつもりは無いとばかりに優也はコロッケを食べ進める。「えー」と残念そうにしつつ弥一はメロンパンを食べ終えていた。
「…まさか、此処の店の人が立見の試合見ててサッカー部のファンってドラマみたいだな」
そこに呟きながら現れた摩央、そして大門がそれぞれパンをトレーに乗せて席へとついた。
此処の店を訪れたのは店の人に声をかけられたからだ、4人は駅へと向かってそれぞれ帰ろうとしていた。そこにパン屋の女主人が声をかけてきて立見の試合を見ていて支部予選優勝を祝いパンをサービスしてくれるとの事で、これに弥一がすぐに食いつき一行はパン屋でご馳走になりに行ったのだった。
女主人曰く「君は特に可愛いからサービス♪」と弥一にメロンパンをプレゼントしてくれた。
中華料理の時といい寿司の時といい大人に弥一は気に入られやすい。
「ドラマみたいでもなんでもファンは嬉しいでしょー、応援してくれるサポーターは大事にしないと♪」
「まあそうだけど…あ、美味っ」
弥一からサポーターは大事にというのを同意しつつ摩央もクロワッサンを食べると普段食べるスーパーのパンよりも美味に感じた。流石と言うべきか、ベーカリーショップのパンはレベルが高い。
「やっぱり次の試合も頑張ろうっていう活力になってくるからね、応援はサッカーに限らず全部において重要だと思うよ」
そう語る大門のトレーには3人が食べている量を超えるパンが並んでおり次々とパンを食す、相変わらず食事の量は大柄な体格を裏切らない量だった。
「その次の試合から1次トーナメント、支部予選が免除されてる強豪校が続々と此処で登場って訳だ」
クロワッサンを一つ食べ終わり手を拭くと摩央はスマホを見る。
支部予選を免除されている高校が次の1次トーナメントから多く出て来る、つまり強豪が此処で集い支部予選からの大会レベルは次で一気に上がって行く。
立見は予選3試合を戦い遊歩に9-0、前川に1-0、川木西に4-0と3試合連続無失点でブロック優勝。
唯一前川とは終盤まで1点を争う接戦だったが次に強豪と当たる確率が高い1次ではそういう試合展開になる事が多くなるかもしれない。
「その中で強敵として立ち塞がりそうなのが、真島高校(まじまこうこう)。桜王学園(さくらおうがくえん)だな」
スマホを操作し、摩央は東京で前評判の高い2つの高校が紹介されているページをそれぞれに見せる。
「真島高校はUー16日本代表の経験を持つFW鳥羽を中心に走攻守、高レベルのバランス良いチームで去年の選手権を勝ち抜いて全国に行ってる。今東京で最も勢いあるチームは真島だろう、て」
ユースの日本代表として呼ばれていたFW。その選手だけでなく他も良い選手が揃っていてチームの完成度は高いと言われている、更に全国経験を持つので手強い事が確実だ。
「桜王学園は東京予選の優勝候補筆頭、去年の選手権はDFの要で当時2年だった榊が負傷欠場して真島高校に敗北してるが今年怪我が完治して復帰、更に2年GK高山が急成長して東京でベスト3に入るGKとまで呼ばれ守りは万全。攻撃では3年の司令塔コンビ、共にUー16に選ばれている蛍坂と原木が多くのチャンスを作り出しゴールを演出していく。攻守共に隙は無いだろう、だって」
真島高校よりも総合力においては高く司令塔の二人が共にUー16日本代表経験を持つ、世界と戦った経験値までも兼ね備えており東京予選で最も優勝に近いチームだ。
この2チームが今東京を代表する、全国に行くには彼らを超える必要があった。
「へぇ~、どっちも知らなかった」
「お前なぁ……八重葉といい流石に少しは知れよ」
何時ものように呑気そうにカレーパンを口にする弥一、その後に少し辛かったようでコーヒー牛乳を飲む。
弥一の様子に摩央の口からため息が出て来る。何時もの調子だと理解はしていた。
「Uー16…やっぱ、選ばれる程の奴らって強いんだろうな」
「それはまあ、そうなるよね。日本代表…だから」
Uー16日本代表に呼ばれる程のプレーヤー。
やはり強いんだろうと思い、優也と大門は互いの顔を見た。支部予選から上に行くといきなり世界と戦う者が出て来る、そしていきなりそういうプレーヤーと戦う可能性は当然あるだろう。
それこそ真島や桜王といった優勝候補との試合も。
「誰が相手でも関係無いよ、勝つから」
「…!」
そんな中で弥一は相手がユースの日本代表経験あるプレーヤーだろうが萎縮の様子は欠片も無い。
何処が相手だろうが勝つことに変わりはなかった。
全国に上がって来いと照皇から言われているのでそれに応えないとならないのだから。
「…そうだな」
優也も改めて心は決めた。
自分のやる事は走って走って体力の続く限り走り立見を勝利に導く事。
「…うん」
同じく大門も気を引き締める。
自分のやる事はゴールを守る、確実に守り続けて立見を勝利に導く事。
「言ったからには…勝てよ」
本当に不思議だと摩央は感じていた。
普通ならそんな凄いプレーヤーにチームを前にすると勝てるのかと不安になる所が、彼を見ていると大丈夫と思えてくる。
そんな彼らへと静かにエールを送る。
「ん?何?」
その摩央の静かなエールを聞いてなかったのか弥一は何時の間にか追加注文していた気になるコロッケロールを食していた。
「人が真剣に言ってる時にお前はー!」
「あー!僕のカツサンド食うなー!」
「二人ともお店の中だから…!」
摩央は何時も通りの弥一の調子に腹たってか彼のカツサンドを一個やけ食い、それを取られまいと弥一はカツサンドを取り返そうとする。
二人の争いを大門が止めに入っていた。
「………(こんな調子で大丈夫かこいつら)」
目の前の光景に呆れつつ優也は若干冷めた焼きそばパンを口にするのだった。
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