第22話 遅れてきた彼は天才と出会う
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1日、また1日と経過。
この一週間に2度のインターバルトレーニングを行い、持久力を主に鍛えて全体練習の量を立見サッカー部は増やしており実戦に近いトレーニングを積んできた。
それがあの王者八重葉学園にどれほど通じるのかは分からない、点差を付けられる可能性は大いにあるだろう。
どちらにせよ練習試合の日が近づいて来ている事に変わりは無く部員達は練習をこなすだけだ。
練習試合2日前、この日は朝練は基礎、放課後は実戦形式のゲームを中心のトレーニングとなる。
「もっと寄せろ寄せろ!」
紅白戦を行うサッカー部、この前の1年対2年と違い学年それぞれバラバラにしての紅白戦だ。
2年DF間宮が声を張り上げてボールを持つ相手へと強くプレスかけるように指示を飛ばしている。
「ボールの動き追いすぎるなよ!しっかり相手も見ろ!」
キャプテンの成海もフィールドを駆け回りながらも後輩へと守備についての指導を熱心に行う姿が見えた。
「うお!」
ゴール前で豪山と相手の3年DFが競り合い、豪山が相手を弾き飛ばして頭で押し込みゴールネットを揺らす。
「(滅茶苦茶張り切ってるなぁ~…)あ、オフサイドー」
先輩達がフィールドを走り回る中、弥一は紅白戦の線審を努めており相手FWが残ってる状態でパスが出されたのですかさず旗を上げる。
弥一の視点で見ると全員がトレーニングに熱が入り張り切っている、そう見える中で弥一だけは全く張り切る事なくマイペースを貫く。
それは紅白戦の方でもそうだった。
全員がボールを追いかけ、動き回り走る中で弥一は走っていない。
歩いたり小走りだったりと走行距離が周りに比べ低い方。キーパーを除けば一番下かもしれない。
「おいチビサボるな!走れー!」
歩く姿は後ろに居るキーパーからは丸見えであり走らない弥一を見てコーチングで注意する。
「(別に今走る必要なんかないって)」
しかし弥一は聞こえてるがコーチングを無視。
状況を見て走る必要は無いと判断していて彼は無駄にスタミナを使わずにいた。
80分や90分、常に走り回るのは持久力を付けても運動量落ちずに続けるのは大変だ。走りは必要最低限にしてサボれる所はサボる。
そういう事をするのは立見の中で弥一ぐらいしかいない。なので彼がフィールドで歩く姿は目立つ。
そして相手側のチャンスになり、パスを回して攻め込んで行くと……。
「ほいっと」
「!?」
何時の間にかそこに来ると分かっているポジショニングを取り、パスコースに走っていてボールをインターセプトする弥一。最終的に此処に来る事は心を読んで分かっていたので簡単にカットする事が出来た。
そして此処でクリア、ではなく空いている左サイドの方へと大きくボールを蹴る。
走り込んでいく位置を計算して選手の居る方ではなく、それよりも前方の方へとパスだ。これが絶妙なパスでカウンターのチャンスになる。
その後はまた走らず弥一はマイペースに歩いて戦況を後方から見守る程度だった。
そしてこの日の練習が終了、2日前で練習試合のスターティングメンバーが此処で発表される為に部員達は部室前に集まりキャプテン成海の言葉を待つ。
「八重葉学園との練習試合は2日後、此処でスタメンを発表する」
いよいよ八重葉戦で出るメンバーが発表される、それぞれが固唾を呑んでその時を待つ。
一体誰があの高校サッカー界の現王者に挑戦出来るのか。怖くもあり楽しみでもあって複雑な感情が入り混じっていた。
「では、発表は私から」
そこにマネージャーの京子が前へと進み出て紙の資料を手に発表される。
「GK」
まずはキーパーからの発表、大門は選ばれるのかどうか緊張し胸の鼓動は高鳴り始める。
「安藤」
「!」
選ばれたのは2年生から安藤、これに安藤は小さく右手でガッツポーズ。大門は肩を落とす。流石に入部して日が浅い内に正GKに1年から選ばれるというのは早々無いのだろう。
「DF、間宮、田村、川田、後藤」
「え?や、やった…!」
DFで1年から川田が選ばれ、驚きと喜びが混じったリアクションを彼はしていた。選ばれるとは思っておらず、自分が八重葉と戦うのが信じられない気持ちだった。
そしてその中に弥一が呼ばれていない。彼はスタメンに選ばれなかったのだ。
ミニゲームや紅白戦であれだけ活躍したにも関わらずスタメンDFは川田、選ぶ方はそちらを選択したのだった。
「(ちぇ、なんだ……つまんないの)」
これに弥一は不満そうな表情を浮かべていた、一番強い高校サッカーの王者とサッカー出来るかと思えば試合に出られない。
正直何でだよという気持ちはあったがそれを口に出して食い下がる程弥一は子供ではない。
イタリア帰りの天才でもスタメンに選ばれない、この結果に部員の方でもざわつく。やはりまだ1年だからか、体格が全然だからなのかと様々な憶測が部員の内心で飛び交う中で発表は続く。
「MF、成海、影山、鈴木、近藤、岡本。FW、豪山。スタメンは以上」
前線の方も発表されて優也の名前も出なかった。弥一に続いて優也もスタメン入りは出来ず、練習で活躍してもそれが本番で選ばれるとは限らないという事なのか。
優也の方は表情一つ変えずに発表を聞いていた。
システムは4-5-1で行くようでFWは豪山のみが選ばれている。
「川田ー!お前やるなー!」
「俺ら1年代表して八重葉に一泡吹かせてこいよー!」
「お、おお。やってやるって!」
同じ1年の仲間から祝福を受ける川田。その中で弥一と川田の目が合う。
「おめでと、しっかり守ってきなよ」
「おう」
弥一は川田に対して小さく笑みを浮かべて祝福を述べて川田も短く応える。
「(よし…このままスタメンを守る!そんでもって夏も冬もどっちの公式戦も出る!)」
スタメンを勝ち取り、小さな野望が生まれる。この先もスタメンとしてその座を不動の物にし公式戦に出る、川田の目標が出来ていた。
「続いてベンチ入りのメンバー、大門、神明寺、歳児……」
その時ベンチ入りの方に選ばれなかった1年の名前が3人とも上がる。
「!え、選ばれた…!ベンチの方には行けるんだ…」
大門は自分の名前が呼ばれ、ベンチ入りした事に喜んだ。GKが1年で選ばれるというのは新設で層が薄いサッカー部とはいえ珍しい。
「(なんとかベンチ入りは出来た…後はチャンス待ちか)」
優也の方は静かに結果を聞いて受け入れ、チャンスが来るまでベンチで準備して待つ。それが今の自分のやる事だと理解した。
1年の中で特に有力視されていた弥一、優也の二人はベンチからのスタート。彼らも八重葉戦に出るチャンスはあるのかもしれない。
「翌日は練習を完全休みにして全員身体を休めて試合に控えるように、それじゃあ解散」
メンバー発表が終わり、翌日は休みにして休息し試合に備えるよう部員達に伝えて成海は解散を宣言。
これで今日の部活は終わり、翌日は休み。2日後の八重葉との練習試合を待つのみになった。
翌日は朝練無しで部員それぞれがゆっくりと余裕を持って登校しており勉学の方に専念、その中で弥一は相変わらず眠そうにしながら授業を受けており昼に何時も通りの1年4人で過ごし放課後はそのまま帰宅。
何事も無いまま1日が終わる。
4月15日 土曜日 8時半
「………神明寺はまだ来ないのか?」
八重葉との練習試合、立見サッカー部は部室へ集まっていた。
練習試合は此処立見高等学校のフィールドで行われる、此処で今日は八重葉学園が来るとなって部内で緊張感は高まっていた。
成海は弥一の姿だけがまだ無いのが気になり摩央へと尋ねる。
「は、はあ…グルチャで呼びかけてたらついさっき反応あって「寝坊したから遅れる!」とあって…」
「こんな時に寝坊かよ、何してんだあのバカチビは」
尋ねられた摩央はスマホ見ながら先程弥一から来たメッセージを読んで豪山に続いて何してんだバカと毒づいていた。八重葉を前に寝坊は余程の大物か、余程の馬鹿か。彼の場合はどっちに転ぶ事になるのか不明だがとりあえず試合前には間に合うという事らしい。
「(あー、面白い動画に夢中になり過ぎて夜ふかしが響いたかなぁ。でも見とかないと気になりっぱなしだったし)」
立見駅へと到着し、すっかり通い慣れた道を急がずマイペースに走る弥一。
昨日は馴染みの動画サイトで新しく見つけた面白いグループの動画を見ていて夢中になり過ぎた結果夜ふかしになってしまって八重葉との試合前に寝坊という失態。
これが厳格な監督のいる名門校とかならば大問題となっていたかもしれない。
「(試合は10時開始で、今8時40分…うん。余裕だね~)」
とりあえず間に合うとスマホで時間を確認すれば弥一は走り、前方に立見の高校は見えている。
「(あれ?)」
するとそこに見覚えの無い白いジャージ姿の者が何人も見えている。
更に弥一が走って近づくとジャージにアルファベットがあった、YAEBAと。
彼らこそが静岡から来た高校サッカー界の王者、八重葉学園。
そして間近まで来た弥一に一人の白いジャージを着た八重葉の者が気付く。
互いに目と目が合う。
この時は互いの事を何も知らない、弥一も相手のことは知らない。しかし知らなければおかしい、相手はそれほどの有名人だ。
弥一と目が合っている人物、その男こそが2年のエース照皇誠。
これが天才サイキッカーDFと高校No1天才ストライカーの出会いとなる…。
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