第20話 守護神の過去を聞いて天才は宣言する


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










 桜見運動公園の出口へと出て弥一と優也は大門について歩く、同じ桜見に弥一と大門は住んでいるがまだ互いの家に行った事はなく大門がどういう家に住んでいるのか弥一は楽しみにしてる。


 歩いて数分、大門の足はある建物の前で止まった。



 そこは中華料理店で中々立派な店であり昼時というのもあって客の出入りも見える。


「中華店…お前此処に住んでるのか」

「良いなぁ~、美味しいチャーハンとか毎日食べられそうだし~」

 店を見上げる優也に美味い飯を毎日食べる妄想に入っててお腹が鳴ってる弥一。リアクションはそれぞれ異なった。



「こっち、裏口から入るよ」

 大門に裏口へと案内してもらい弥一と優也は店の正面から裏へと回り、ドアを見つけると大門は鍵を取り出してドアを開ける。

「ただいまー」

 何時も通り大門は裏口のドアを開けると挨拶。するとすぐに「おかえりー」という女性の声が奥から返ってくる、多分大門の母親かもしれない。今店を回している昼時なので迎えに行くのは難しいのだろう。

 そんな忙しい時に自分達が訪れて本当に平気かと優也は思いながら大門、弥一に続いて裏口から中華店へと入って行った。



「おお、帰ったか達郎!その子達がお前の友達か?」

 赤い厨房服と帽子の格好をした60歳ぐらいの年配男性、この中華料理店の者だというのが格好を見て分かる。

「じいちゃん、そうだよ。同じサッカー部の二人」

 この男性は大門の祖父のようだ。大門と並んで見れば祖父は背が高く体格も良い。若い頃何かスポーツをやっていたのかもしれない。


「初めましてー、神明寺弥一です♪」

「お邪魔します…忙しい所をすみません、歳児優也です」

 弥一と優也はそれぞれ頭を下げて挨拶する。


「君達か!孫から聞いているぞ、神明寺君はイタリア帰りの天才リベロで歳児君は素晴らしい足の速さと持久力を持つFWだと自慢しとったからな。ワシは祖父の重三(じゅうぞう)だ」

 大門から既に二人の事は自慢するように聞かされたと語る祖父の重三。

「まあ、この子らが達郎の友達かい?私は祖母の立江(たつえ)です、達郎がお世話になってるそうでありがとうねぇ」

 重三と同じく赤い厨房服と帽子、年も重三に近い年配の女性。祖母の立江も来て互いに挨拶を交わす。



 この中華料理店は重三の店であり、それを立江や大門の両親二人を中心に手伝い支えており歴史は長い。地元民から愛されている店で常連客は多い。

 大門はこの店で生まれ育ったのだ。



「息子夫婦の方は今手が離せん状態なのでな、君達の飯はワシらに任せておけ」

「わざわざすみません…忙しい時に」

「何を言うか!孫が世話になっている同じサッカー部の者に満足に飯がふるえなければ代々続く我が店、飛翔龍の龍が泣くわ!なぁ、ばあさん!?」

「はいはい、行きますよ。ちょっと待っててね~」

 優也が申し訳なさそうに言うと重三は胸を張り、それぐらいどうという事は無いという感じだ。立江はその熱意を受け流し厨房へと先に向かう。


「あはは~、何か熱いおじいさんだねー」

 結構ユニークな感じに見えて弥一は笑っていた。

「じいちゃんは若い頃にサッカーをやってたみたいでさ、俺がサッカー始めたのが相当嬉しいようで色々力になってくれてるんだ。熱くなり過ぎないようにばあちゃんが上手くコントロールしてるって感じでね」

 祖父母について大門は語る、祖父の重三も元々はサッカーをやっていた経験を持ち、息子である大門の父親はやらなかったが孫の方が始めてそれが重三には嬉しいようで以降大門を色々とサポートしてくれている。



 案内された席で待つ3人に料理は運ばれてきた。チンジャオロース、餃子、チャーハン、ラーメンとそれぞれ量の多さが目立っていた。

 大門は何時もこれぐらいのを食べているようで彼が大きくなってきた理由が優也はなんとなく分かった気がする。

「これぞ高校生向けの満足中華、遠慮なく食すといい!」

「わー♪いただきまーす♪」

 目当てのチャーハンもあって弥一はレンゲを右手で持ち、パラパラの飯をひとすくいして口にほうばる。


「うっま~♡最高~♡」

 流石中華料理店の本格チャーハンと言うべきか、スーパーで食べていたレンジで温めて食べる方とは全く違う。絶品のチャーハンに魅了された弥一の食が止まらない。ガツガツと食べ進めていく。


「ほおー、小さいながら孫と良い勝負ぐらいの食べっぷりだな」

「だって本当美味しいですもんー!豚肉が最高で相性バッチリで味引き出してくれますし♪」

「分かっているではないか少年!この豚肉が特に欠かせんのだ、養豚場をやっとる知り合いに頼んで取り寄せていてな。他の店では決して真似出来ん飛翔龍で最も自慢の一品よ!」

 チャーハンの美味さを理解する弥一、更に食べっぷりの良さに重三は気に入ったらしい。店で最も自信持って出しているのがチャーハンであり看板商品だ。



「重三さーん、この前はラーメンが一番自慢だとか言ってなかったかーい?」

「やかましいわ!全部自慢の一品だ!」

 近くの席で飯を楽しみつつ酒を飲む常連客の年配達から突っ込まれ、重三はムキになって言い返す。気心知れた仲のよう。



「ごめんねぇ、騒がしいじいさんで」

「あ、いえ…」

 苦笑する立江に優也は言葉少なめに気にしてないと言いつつ餃子を食べている。こちらもかなり美味しく肉汁溢れジューシーで皮もパリっとしている、優也の箸も進んでいた。


 その一方で大門は既に多くの料理を平らげており、ラーメンはスープまで飲みきり完食している。

 相変わらずよく食べるようで一足先に昼食は終わらせていた。




「兄ちゃんー、ちょっと勉強教えてー」

 奥から顔を出してきた黒髪の男の子、FC桜見の子達と同年代ぐらいで小学生高学年ほどの年齢か。兄ちゃんと大門に対して呼びかけていた。

「龍二(りゅうじ)今はちょっと…あ、弟の龍二」

 大門は今弥一や優也が来ている所なので勉強を今はタイミング的に厳しいと思っていた。しかし断るのも悪いと思っているようでそこまで言い切れずにいる。

 二人には顔を出した男の子は弟だと紹介。


「達郎、お友達はこっちに任せて行って来い。兄貴なら弟の力なってやれ」

「う、うん。分かった。なるべくすぐ戻るからごめん!」

 遊びに来ている弥一と優也に悪いと思っていると重三が助け舟を出して、大門は弟の龍二の元へと向かって行った。




「中学の時はどうなるかと思ったが、ちゃんとやれてるようで良かったな」

「中学…って彼、何かあったんですか?」

「おい神明寺…」

 重三は孫の姿に何処か安心しているようで、弥一は中学というキーワードに引っかかり訪ねてみると優也は勝手にそういう事聞いていいのか止めようとしていた。



「………君達のようなサッカー仲間が出来た、達郎も遅かれ早かれいずれは乗り越えなければならん壁だ。話すとするか」

 重三が席につくと腕を組み深刻な表情を浮かべつつ話す。隣に立江も座っており、弥一と優也は向き合う。



「あいつは小学生の頃から身体がデカくてな、そこはワシや父親に似ている。そして小学生から達郎はサッカーを始めたんだ」

 体格は小学生の頃既に恵まれていた大門。その頃からボールを蹴り始めており、重三は当時の姿を思い出しているのか懐かしそうに語っていて弥一と優也も耳を傾ける。


「あの時はキーパーだけでなくDFをやったりMFもFWも経験し、自然と上手くなって行く中で達郎はキーパーを選んだ。一番過酷で厳しい道だと言ったんだがな。「点を取られなければ絶対負ける事は無いから」と言っておった」

 当時の大門は中々強気のようで、何処か無失点優勝を宣言した弥一に似ているかもしれない。そういう大門の姿も興味深くて見てみたいなと弥一は思いつつ話を聞いている。



「身体が大きく上達し、期待されて中学へと進むと1年の時は基礎練習の日々で試合に出る機会は無かった」

 それは弥一も優也も大門本人から聞いた通りだ。大門だけでなく優也も中1では試合に出られず基礎練の日々、チャンスは無かった。

「2年になると試合に出られるようにはなったが……孫の勝つ姿を見る事は一度も無かった」

「!?」



 大門の腕を思えば身長あって技術もありGKとして頼れるはず、その大門が2年の時は1度も勝てていない。それが弥一と優也には衝撃だった。

「…3年になってもそうだったね。あの子、辛そうだったよ。仲の良い友達とか特にいなかったのか家に連れて来るような事は小学校にはあったんだけど中学は…」

 立江が静かに語ると3年でも勝てない状況は変わらず大門は立江や重三から見て辛そうな姿をしていた。中学では今の弥一達みたいに誰かを家に連れて来るような事も1度たりとも無かったようで、弥一は大門と初めて会った時の事を思い出していた、中学時代の事については何処か暗い影があった。


 それは一度も勝てなかった、そして孤独だった過去が影響しているのかもしれない。



「試合に出れない日々、勝てない日々。ただ…それでもあいつは練習を続けてた、辛いながら一生懸命に歯をくいしばりながら必死に。勝てないのは自分のせいだと思っていただろうな…責任感の強い奴だから」

「……」


 一度も勝てなかった中学生活、優也は何も言えなかった。そんな日々が続いてしまうと自分ならどうなっていたのか、大門みたいに努力を続けられたのか、それとも腐って辞めていくのか。


 どちらにしろ想像を絶する辛さがあったのは間違い無い。


「ただ今日、君達のような友達を連れて来て笑っていた。その姿が…ワシは嬉しかった。あんな姿は小学生以来だ」

「ええ、本当に達郎…良かった」

 今日の大門は当時と違い友人を連れて来ており笑っている。重三や立江にとってその姿がとても嬉しく思う事だった。


「君たちには、感謝しとる」

 重三は二人へと向かって頭を下げた。孫を想う祖父の気持ちが伝わって来る。










 昼食をご馳走になり、弥一と優也は重三と立江に礼を言うと店から外へと出て来る。


 先程の話のせいか二人の間で沈黙が支配していて、大門の過去が想像以上に辛いもので何も言えなかった。


「二人とも、もう行くのか?」

 そこに店から出て来た大門が二人を追いかけて来た。


「ああ…此処から走って帰らなきゃならないんでな」

「僕も家に帰らなきゃいけなくなっちゃったから、またグルチャでね。って歳児まだグルチャ入ってないよね?」

「…後で入っとく」

 聞いていた過去については出さず、弥一も優也も何も触れず帰ろうとしている。





 その時、帰ろうとしていた弥一は振り向いて大門の方を見た。

「ねえ大門」

「ん?」






 そして弥一は大門を右手の人差し指で指差す。




「僕がお前を高校最強GK、そう呼ばれるようにしてみせるよ」



「え…?」



「(こいつ、また言うな…)」


 弥一にいきなり自分を高校で一番のGKにする。そう言われた大門はぽかんとなり、優也は軽くため息をついた。まだ公式戦どころか練習試合も迎えていない。それも練習試合の相手は強豪中の強豪である八重葉。


 それを分かった上で弥一は言っているのだろうか。



 それだけ言うと弥一はその場から駆け出し、走って行った。



「じゃ、部活かグルチャでな」

「あ、ああ」

 優也も弥一の後に走り、風のように去って行く。




「(高校…最強のGK……)」

 弥一にそう言われた言葉がずっと心に残る大門、今までそんな事言われた経験など無い。彼も自分も高校の公式戦にまだ出ていない。今の状況からそんな事が実現するのかと思ったが。



 その言葉はずっと残っており彼の頭から離れなかった。

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