第10話 魔法の代償
「ねぇお兄様。本当にこれで全部?」
リーリアが主催する茶会は3ヶ月後に行われる事になった。リーリアは大喜びで、招待客の吟味にとりかかる。しかし、いくら探してもクライブの名前はなかった。
「ああ。5歳から10歳までの貴族の子はこれで全てさ。今回は高位貴族だけにするかい?」
(おかしい……クライブがいない……どうして?)
「リーリア? どうしたんだい?」
「なんでもないの。このリストをお借りしても良い? 早く決めないと、準備をする人達が困るものね」
「リーリアは優しいなぁ。わかったよ。明日は公務が入っているから明後日全て決めよう。良いかい?」
「はい! ありがとうございますクリストファーお兄様」
リーリアは部屋に戻り、必死でリストを確認した。だが、やはりクライブの名前はない。その代わり、見慣れた家名を見つけた。
「トマス・ L ・コーエン……年齢は10歳か。これってきっとクライブのお兄様よね。それに、マリア・ L ・コーエンって名前もある。年齢はわたくしと同じ……妹がいるって言ってたものね。クライブだけいないのはやっぱりおかしいわ」
(クライブは、兄が立派だから自由にできると言ってた。妹も優秀だと……このリストは茶会に行ける子達だけが書いてある。5歳の子はマリアともう1人だけ。あとはまだ茶会で大人しくしてないから行けないって事よね。クライブのおうちは妹も優秀なのね……って、まさか……!)
「クライブは、貴族の子として認められてない……?」
リストにあるのは王族の前に出しても問題ない貴族の子だけ。
「なんで……! 前のクライブは、子どもなのにひとりで城を自由に出入りしていたわ。わたくしみたいに記憶があれば茶会は楽勝のはず! あの時、侍女達はクライブに敬語を使っていた。クライブは間違いなく、高位貴族の子息として扱われていたのにっ……! こうなったら、城を抜け出して……! ああ、ダメだわ。そんな事したらまたお父様に目を付けられてしまう。……待って、そもそも……わたくしに甘いお父様が、どうしてわたくしのお気に入りになったクライブを国外に出したの? なにか、おかしい。お父様も、お兄様達も以前と違う。わたくしが変わったから? それだけでこうも変わる?」
リーリアは、リストを握り締めて父の元へ走った。
「お父様!」
「おおリーリアか。どうした? すまんが今は仕事中だ。急ぎでなければ後にしてくれるか?」
「あ……ご、ごめんなさい! あとで伺います!」
(おかしい。やっぱり変だわ。以前のお父様なら、公務をほったらかしてわたくしの話を聞いてくれた。わたくしも、それを当然だと思っていたけど……いかに異常だったのか、今ならわかる。公務より娘を優先してたら、信頼を失うに決まってる。でも、今のお父様は仕事を優先させてる。クリストファーお兄様もそうだった。以前となにが違うの? もう、さっぱり分からないわ! クライブに会いたい)
「リーリア、私の公務は終わったから一緒に部屋に戻ろう」
リーリアの上の兄、カシムは10歳。
王に付き従い、少しずつ公務を覚え始めている。先日、立太子した。以前より5年も早い立太子だった。カシムは時を戻る前も魔法が得意だったが、今は更に得意になり優秀な魔法使いになった。
カシムは廊下に出てからさりげなくリーリアに防護魔法をかけた。
以前もきっと魔法で守ってもらっていたのだろうとリーリアは思った。過去に攻められた時、激しい魔法が飛び交っていたのにリーリアは傷ひとつなかった。結界を張っていた母が倒れても、リーリアは怪我をしなかった。
兄の魔法が、リーリアを守っていたからだ。
リーリアは、カシムに礼を言った。
「カシムお兄様、いつも守ってくれてありがとうございます」
リーリアの言葉に、カシムは目を大きく見開いた。
「僕の魔法に気が付くなんて……リーリアは凄いね。まだ、魔法は少ししか習ってないのに。リーリアなら国一番の魔法使いになれるよ」
「国一番の魔法使いはお兄様ですわ」
「今はね。けど、未来は分からない」
「未来は……分からない……」
「ああ。過去に戻る魔法もあるんだよ。けど、術者は魔力を失ってしまうんだ。だから、過去に戻っても魔力なしとして生きていくしかない。平民も貴族も、魔力がないと暮らしていくのは難しい。時を戻っても魔力がないと困るから、誰も使わない失われた術式になったんだ。私も使おうとは思わないね。魔法は様々な事が出来る。今使った防護魔法もそうだ。今は無理だけど、過去に戻る事もできた。けど、未来だけはどうしようもない。リーリアが頑張れば……」
「お、お兄様!」
「どうした? リーリア」
「過去に戻ると、魔法が使えなくなるというのは本当ですか?!」
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