僕と人魚の奇妙な関係性
雨宮雨彦
第1話
海は青い。
どこまで行っても青い。海中では、波の上から見るよりももっと青い。
コバルトと一緒に潜水すると、まるで青いゼリーの中に浮かんでいるような気がするほどだ。
コバルトというのが、僕とコンビを組むサイレンの名だ。サイレンって、アンデルセンの童話に出てくる半人半魚の女のことだよ。
だが実在のサイレンを、コペンハーゲンに展示してある人魚像と比べることはできない。
サイズが全然違うもの。
実在のサイレンは、クジラに負けないほどの大きさがあるから。でないと深海では暮らせない。
金髪碧眼の美女たちだが、肉食なので歯はナイフのように尖っている。
「それで今日は、どんな仕事をするのだね?」
とコバルトが口を開いた。
僕は潜水服に身を包み、コバルトの肩の上に座って水中を進んでいる。
「最近、どこやら外国の潜水艦が領海侵犯をするらしくてね」
「日本のことか?」
「うん」
「またつまらんパトロールか」
「仕方ないよ。それが仕事だもん」
「ふん、潜水艦といえば、先ほどから一隻が走っているぞ。距離はまだ遠いが、航行音だけは聞こえる。音質からして、イノシシのように胴体の太い艦だ。お前の友軍ではなかろうよ」
「じゃあ日本の潜水艦じゃないか」
「そうかもしれぬ」
「じゃあ追跡してよ」
「どうせいつもと同じで、領海外へ出るのを見届けるだけのことだろう?」
「そりゃそうだよ。僕はまだ訓練生だもん」
するとコバルトの表情が変わった。
「以前から疑問に思っていたのだが、お前はよくもストロベリー校に入学できたものだな。裏口入学でもしたのか?」
「そうじゃないよ。祖父が提督だから、機密情報に近づく資格あり、とみなされたらしい。ストロベリー自体が超極秘の部隊だから、学力検査よりも身元調べの方が厳重なんだってさ」
「そうかい」
そんなことを言いながらも潜水艦をめざし、すでにコバルトは進行方向を変えつつある。
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