8-1
誰が、それを責められるだろう。
少年は、少女を助けたくて、柵を乗り越えた。
少女は、少年とみなを助けたくて、1人、闘った。
その無謀な2人を、誰が責めることができるだろう…。
……何かが近寄っている!!…
そう感じた少女は、微妙な違和感を覚えてはいたが、狼だと思い込んでいた。
柵の内側には、自分のほか、狼しかいないのだから。
だから。
先ほどまでと同じように1刀を払った。
手応え、確かにあり。
しかし、その直後、自分をがっしりと抱きしめる腕に包まれていた。
…な…何……?何なの?
そして、麻痺していた嗅覚に、徐々に嗅ぎなれた薬の匂いが感じられる。
震える手で、鍵を外そうとしているのか、ガチャガチャと金属のぶつかる音がする。
なかなか、震える手では鍵穴に入らないのか、時間がかかる。
そして。
少女は仮面を外された。
だが、すぐさまその腕で抱きしめられ、胸に顔を埋めさせられていたので、視界はなかった。
血の臭いがむせ返るように、取り巻く。
……まさか…
そして、少女を抱きかかえているのとは逆の腕が、少女の刀を奪い、迫り来る狼をなぎ倒す。
1頭……2頭……と。
最後の1頭を倒した時、少女を抱きしめたまま、がくりと足を折り、そのまま2人で地面に倒れた。
“……いいかい、よく聞いて……”
息はあがっているが、聞きなれた声が、いつものような口調で話しかけてくる。
“君は狼と、戦っていた。“
けしてその目に何かを見せまいと、腕はしっかりと少女の顔を胸にかき抱いていた。
“僕は、狼にやられた…わかるね”
ぜいぜいという息で、その声は微笑むような響きで語り続ける。
“残念ながら、僕の命はここまでみたいなんだ…ずっと一緒にいるという約束を守れなくてごめん…”
声が一旦、途切れる。話しつづけるのが辛くなって来ているのだ。
“だけれど、君は…エレンは生き続けて。自分の病気を自分で治すんだ。そして、島を…みんなを守って。それを僕と約束してくれるね”
ぎゅっと、少女が、自分をかき抱いている腕にしがみついた。
“……わかってくれるね…エレン。僕は、その指輪と共に、エレンの側にいるから…”
少女は首を横に振っている。
しかし、そのまま声の主は目を閉じてしまった…いくら呼びかけても声も鼓動も聞えなくなった…
少女は、泣きも叫びもしなかった。
“……約束する…だから……だから、起きて…ねぇ、起きて”
そう、呟いていた…。
そんな二人の様子をアンスティスは笑いながら見ていたが、1人の海賊が慌てたように走ってきた。
“お頭。国軍です!”
“かまわん。このあたりにいる軍には話は通っている”
その言葉をしっかりと島民は耳にしていた。
……国軍が、ならずものと取引をし、そして、野放しに?
“それが…本部と途中で合流してしまったらしく…”
その言葉を聞いた時、アンスティスは舌打ちをし、ふん、と鼻を鳴らした。
“……ちっ、しょうがねぇ…”
と、倒れている2人を見て、ふふん、と笑った。
“ま。そこそこ面白かったから、良いとするか”
荒らすだけ荒らし、壊すだけ壊し、彼らは去っていった。
それから、しばらくして、国軍が到着したのだった…
何の補償も、手助けもせず、そこへ来ただけであった。
そうして、この島は国を信用しなくなっていた。
少女は、少年の残した指輪に誓いを立て、約束通り、生きて自分の病気を少しでも良くするように勤め、そして、体を鍛えていった。
その後も度々、海賊やならず者などがやってきた。
島ではそれらを自力で追い払っていた。
病弱であるはずの少女も強くなった。
町を襲うものどもの大半を一人で倒せるほどに。
一人で全てを解決しようと立ち回るようになった。
島の人々は、自分たちのために体を張ってくれる少女を影ながら守り、負担にならぬように自分たちを鍛えていった。
いつしか、少女は島のために、島全体は少女のために…そのようになっていた。
---------------------------------
長い長い話をし終え、サザビィは大きく息をついた。
そして懐かしそうに言った。
「その亡くなった少年が……ウーシェといってねぇ…そっくりなんだよ…あんたに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます