第42話 サンガードズVSファントム

「鋼陽! 剣城君! できる限り時間稼いで! 応援が来るまでの辛抱だ!」

「はい!」

「わかっています! ――――でやぁ!!」


 剣城は先にファントムに斬りかかる。


「あのさぁ……雑魚が寄ってこないでくれる? イラつくからさぁ!!」

「何っ!? ぐわっ!!」


 藍色の光を放つ黒い巨大な鎌で、剣城は後ろへと吹き飛ばされる。

 俺は間髪入れず、瞬踏をし間合いを詰めるとファントムは鎌で応戦する。

 互いの刀と鎌がぶつかり合う金属音が響く。


「……君も瞬間移動できる口? 先に潰せばよかったなぁ!!」

「残念だが、敵に手の内を明かす馬鹿がいるとでも?」


 武器同士が拮抗する中床に転がって、体制を整えている馬鹿が見える。


「……猪突猛進はお前にあるべき言葉だな!! 剣城!」

「なんだと!? 統烏院貴様ぁ!! 後で覚えていろ!!」

「負け犬の遠吠え的発言してる場合!? 俺たちが負け兼ねないでしょうが!! 二人とも! ちゃんと連携とって!!」

「……ッチ!!」


 国木田先輩の怒号に俺はファントムを前に舌打ちをする。

 長時間の戦闘なんぞ、新人の仕事じゃないだろう……! しかも、コイツ子供の見た目だと言うのに力が強い!! 押し負ける……!

 ファントムの力が強く、俺も押し返させてしまう。


「あっはは、ダッサぁ! いいねぇいいねぇ! もっと見せてよ。お前らの醜い所をさぁ!」


 挑発をして、気を散らせようという作戦か。

 生憎、それに引っかかるほど俺たちは馬鹿でな、


「このぉ!!」


 再度、剣城はファントムに特攻を仕掛ける。

 ……あの馬鹿!


「うわぁ、ウザいなぁ! お前!! 馬鹿なの!?」

「体力馬鹿なのが自慢なんでな!! 誉め言葉だ!」

「誉めてないし! バッカじゃないの!?」

『ガガガガガガ、ガガガガガ!!』

『『『ガガガガガガ!!』』』


 小さい小型のレムレスたちが、俺たちがいる新宿駅方面に集まってきている。

 まだ人を喰っていないラクテンスは、ゾンビとなった人々を喰い始める。

 ……逆に、祓波の拘束が仇になったか!!


「……っ、はぁ! ぐっ、もう、無理……!」


 祓波は床に蹲る。くそ、祓波ももう体力が限界か……!

 ここで動けるのは、俺と剣城、夜部先輩、国木田先輩が猫本先輩の治療を終わらせれば、猫本先輩も戦えるはず……! 持久戦か……! ならば急がなくては。


『聆月! 猫本先輩の治療に向かってくれ!』

『わかった!』


 聆月は国木田先輩の横で霊体化を解き、彼の補助を行う。


「れ、聆月様……!?」

「任せろ、はやく猫本を治さなくてはだろう」

「は、はい……お願いします」


 猫本先輩は二人に任せて、俺と再度武器を構え直す。聆月の与力を借りれない……ならば、己自身の加護を持って戦えばいいだけのこと!

 握った柄から、刀剣に炎が灯る。


「! 鋼陽!?」

「大丈夫だ、ゾンビたちは殺さない……一時凌ぎであるならば、これなら問題ないはずだ!!」


 祓波が声を上げ、俺は八咫烏の加護が灯った炎の刀剣で切り裂く。


『ガガァ、ガァ……ッ』


 レムレスは呻き声を上げながら、消失していく。

 ……爺さんの時にも、こうしていれば違ったかもしれないがしかたがないことだ。過去は変えられない。だが、今の俺にできる精一杯を持って、ゾンビなってしまった一般人を助けることに集中しなくては!!

 他の一般人たちを、レムレスで魂ごと食わせてなどやるものか!!


「夜部先輩! 剣城の援護に回ってください!」

「鋼陽君は!?」

「俺は、少しでも多くレムレスを討伐します! 必要であれば、母体の捜索を!」

「……わかった、無理はしないでよ!」

「はいっ」



 ◇ ◇ ◇



 統烏院鋼陽は、向こうでレムレスと戦っている。

 聆月様は国木田先輩と共に猫本先輩を治療している。彼女がいれば、このファントムなどと名乗るこの子供も拘束しやすくなるはずだ。

 ならばなおのこと、俺がコイツを食い止めなくては!!

 子供の成りをしているが、力が成人男性の力を優に超えている……!!

 俺でなくては抑え込めないほどだ!


「……ああ、ゾンビたちを殺すかと思ったのに。残念っ」

「こっちを向け! この外道が!!」

「外道? 僕が!?」

「当たり前だろう!! こんなことをして、許されると思っているのか!?」


 彼の見た目を察するに、普通の一般人をよそい切れてすらいないが、間違いない。神者だ! 俺のがそう告げている!!

 刀と鎌が弾き合い、決定的な一撃をお互いに食らわせられない。

 ……急がなくては、レムレスを倒してくれている統烏院の体力も持たないだろう。


「ふざけてる!? 君、敵相手に説教!?」

「お前、神者だろう!? ニオイがそうだ!! なぜ俺たちと戦う!!」

「君、鼻がいいんだね!! 人の臭い嗅ぐとか、変態なのかなぁ!?」


 大振りの鎌の攻撃を避け、俺は横から彼の鎌を持っている手に斬りかかる。

 ファントムは瞬時に対応し、足技で俺の刀を蹴る。

 少し押し飛ばされ、また距離が開いてしまった。

 

「お前には心がないのか!? こんなことをして許されるとでも思っているのか!?」

「……ならお前らは、お姉ちゃんをどうして殺したの!? あの人がお前らに何をしたって言うんだよ!!」


 コイツの言う、お姉ちゃんという人はコイツにとって優しい人だったのかもしれない。ならば、なぜこいつは復讐めいたことをしようとしている?

 復讐をしても、虚しいだけだ……俺も、そうだったように。


「復讐なんて……大切な人が喜ぶことなんぞ、断じてない!! お前が苦しくても、悔しくても乗り越えなくてはいけないことだろう!!」

「お前に言われる筋合いないよ!! 僕の大事な人を奪った側のお前が言うな!!」


 彼の闘気がより高まるのも感じる。

 ……どうすればいい? 彼を止める方法は、やはり今戦うことしかないのか?

 剣城は刀の柄を強く握りしめ、ファントムに特攻する。

 お互いの武器が軋み合う中、俺はなんとか彼を説得を試みる。


「だとしても、今回はお前が仕組んだことだろう!? ゾンビたちに変えた一般人は、何もしていない人たちだった!! だというのに、貴様は……!! なぜ、失った大切な人を、悲しませるようなことをする!?」

「だから何!? 僕の痛みが、お前にわかるっていうの!? お姉ちゃんのこと、散々利用しておいた側の奴が!!」


 ファントムは鎌で横に薙ぎ払い、俺は何度も特攻を仕掛ける。

 復讐心を持ったことのある俺ならば、きっと彼の心を理解できるはずだ。

 諦めるわけにはいかない! ここで諦めてしまえば、彼は、本来そうなるかもしれなかった俺になってしまう!!


「自分の憤怒で関係ない人間を殺させるような真似をして!! 大切な人を殺されたと怒るくせに、なぜそんな奴らと同じ真似をしている!? なぜ自分から同類になることを選んだ!? 理由があるのだろう!?」

「お前に教える理由なんてないね!! お姉ちゃんを殺したのはお前たちだ! お前らの方なんだ!! お前らにも僕と同じ絶望を、味わうべきなんだ!!」


 怒気を強める声に、彼の憎悪が本物だと物語っている。

 ならば、結果的にレムレスたちにゾンビとなった一般人を食わせている点は、どんないかなる理由があろうと、納得なんぞできん……できるわけがない。

 大切な人を殺されたからと嘆く心があるならば、他の者たちへの気持ちをおろそかにするなんて……彼の大切な人も、同じ気持ちかもしれないというのに!!

 押し返されて、俺はファントムと距離を取る。

 ……こいつの手数もどれほどあるかもわからん。

 夜部先輩の帳も、いつまで使えるかもわからん……ならば。


「我が剣技! 味わいながら果てるがいい!! ――――ファントム!!」


 祓波は刀を横に構え、刀身の先まで触れる。


「送り犬! 力を貸せ!!」

『あいよぉ、ザンシロー!』


 愛嬌のある相棒の声が聞こえる。

 ……俺は闘気を放ちながら、目の前にいる敵を睨んだ。


 ――絶対に、止めてみせる!!

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