第27話 水族館2

 イルカショーが始まり、まずはあいさつや、イルカの紹介などの話が始まった。


「雄太」

「ん?」

「楽しみだね」

「ああ」


 俺は奈由香のその言葉に笑顔で答える。


 そしてイルカショーの本番……イルカの芸の疲労の場面になった。もう、水が飛んでくるのか……服濡れるの嫌だなあ。でも、奈由香の笑顔を隣で見れること。これは楽しみである。吊り橋効果……別にこれは危険度とかは全くないが、そう言うので距離が短くなるかもしれない。


「いよいよだよ!」


 と、奈由香が言った瞬間……イルカが飛び、そして水の中に飛び込んだ。その瞬間水が飛ぶ。


「うわああああ」

「きゃあああ」


 と、俺は手を目を守るようにガードする。


「楽しいね雄太」

「ええ」


 まあ気持ち良くはある。濡れるのは嫌だが……。


 そして再びイルカがジャンプして、水中に戻る。その瞬間、また水しぶきが飛ぶ。


「雄太!」


 と、手を思い切り捕まれる。


「奈由香?」

「いいじゃん」


 と、二人で思い切り水を浴びる。なんか、カップル感が出てるんだけど。俺としてはうれしいけど。


「涼しいね」

「ああ」


 そしてイルカショーが終わった。


「あ! 麗華、絵里」

「どこ行ってたの? いつの間にか二人ともいなくなってたし」

「ごめん麗華」

「てか、めっちゃ濡れてない? 二人とも」

「えーそうかな、てか二人は全然濡れてないね」

「私は賢いからね。奈由香とは違って」

「楽しまない方が損よ。水にビビってね。雄太も楽しかったでしょ」

「うん」


 濡れるのとプラマイどっちになるかはわからないが、まあ楽しかったは楽しかった。


「ほら雄太もそう言ってるし」

「まあそういうことにしてあげるわ」


 麗華は負け惜しみ的なことを言った。



「じゃあ私たちは次の場所に行ってるね。行こ! 雄太」

「うん」


 と、次の場所……鯉のエサやり場へと向かう。下村さんが小さな声で「待って」と言っていたが、奈由香は築かなかったみたいだ。それよりもまた分かれるというのは俺と一緒に回りたかったという事なのか? だとしたらうれしいことだ。



 そしてエサやり場へとついた。ここには水族館ながらエサやりスポットがあるのだ。


「じゃあこれくらいあったら十分だよね」


 と、奈由香は五袋かった。


「多すぎないですか?」

「これくらい買わなきゃだめよ。面白くないもの」

「奈由香ってお金あるんですか?」

「まあ、人並みくらいは」


 人並みくらい……俺が月一五〇〇円くらいだから……多くても二〇〇〇円程度か。知らんけど。そもそも奈由香の家が大金持ちの可能性もあるしな。


「じゃあエサやりましょ!」

「うん……てか俺も餌を買わないと」

「え? もちろん雄太の分もあるわよ」

「え?」


 マジで?


「奈由香はやっぱり優しいですね」

「ありがとう。私はそう、優しいよ」

「自分で言うとなんか似非っぽい感じがしますけど」

「言わないでよ!」


 と、エサ袋を二つもらってエサをやる。


「ねえ見て、魚が面白いほど寄ってくるよ!」

「ほんとだ」


 本当に魚がエサに食いつくようにむらむらと寄っている。まるで獣のように。


「これ見ると何個でもあげたくなりますね」

「でしょ! いいでしょ!」

「うん!」


 これは良いものだ。しかも奈由香が隣にいるしな。


「楽しい」

「ね!」


 無いかが隣で俺に笑いかけてくる。それだけでも幸せなことだ。


 そうしてほぼ全部エサをやり終え、残り一つになった。


「これで最後か……名残惜しいなあ」

「仕方ないわよ。また来たらいいよ」

「だな!」


 と、次の場所へと向かう。そこは水槽の……海の中のトンネルだ。


「きれい!」


 と、奈由香が上を見上げながら言った。魚が上を泳いでいる。


「なんかこう、未知の世界を旅してる気分ですね」

「うん。人間の世界じゃなくて魚の世界だね」

「お邪魔してますねー」

「だね!」


 と、そして一歩ずつトンネルの中を歩いていく。


「きれいすぎる……」

「うん」

「私たち幸せだね」

「うん」

「運しか言ってないじゃない」

「ごめん」

「まあ許すわ。この魚たちに免じてね」

「ありがとう」

「あ、そうだ。雄太手をつなぎましょ。こんな場所手をつないでないなんて損だわ」

「うん」


 帰り道はまだセーフだが、この水族館と言う場所は普通にアウトな気もする。まあ奈由香がいいならいいけど。


「なんかいいね」

「なんか?」

「うん。雰囲気が。しかも雄太、男だし」


 わかってて言ってるのかこの人は。この人が俺の恋心に気づくのにどれだけの日々が必要なのだろうか。いや、もう告白しなければダメかもしれない。


「あの、奈由香」

「何?」


 奈由香は満面の笑みをこちらに向けてくる。クソ可愛いなあ。

 でも、それじゃあダメなんだ。勇気を出さなきゃダメなんだ。



「……」


 言えない。俺の勇気め。好きですをいう勇気をくれ。麗華には練習で言えただろ。言え! 俺よ!


「好……」


 ダメだ言えない。すき焼き美味しいですよねなんてありきたりなことは言いたくない。最後の勇気を俺にくれ。神様!


「奈由香。俺は幸せです。奈由香と友達になれてこんな楽しい日々を送れてる。なんかもうトラックにでも轢かれるのかって言う感じです」


 告白する勇気はない、だが、雰囲気に身を任せて自分の気持ちを伝えよう。


「異世界転生でもしちゃう?」

「嫌ですね」

「全人類の夢じゃないの?」

「だって、異世界転生なんかしちゃったらこの世界に戻ってこられないじゃないですか。俺は今の奈由香たちとの日々を大切にしたいんです。よくわからない異世界転生なんて置いといて」


 奈由香と会えなくなるのが嫌だ、奈由香のいない世界で生きていける気がしない。


「私は異世界転生したいけどね」

「え?」

「だって、魔法が使えるんだよ。そりゃあ使いたいでしょ」

「でも、それで俺たちとは会えなくなるし、奈由香の両親とも会えなくなるんですよ」

「確かにそれは嫌ね。じゃあ私たちで異世界転生したらどう?」

「確かに、それだったら全然かまいませんね。奈由香と異世界転生したら楽しそう」

「だね。てか、こんなきれいな魚がいるのに、別の話してるなんてもったいないね」


 確かにそうだ。こんな場所で魚を見ないなんて損だ。


「じゃあ魚を見つめましょうか」

「うん!」


 と、二人で手をつなぎながら見る。幸せだ。

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