第24話 ラブコメアニメ

「なあ、八月十九日なんだけど。花火あるじゃん。俺お前と見に行きたいんだけど」


 と、主人公の長谷川幸雄がヒロインの冬川明日香に話しかける。


「馬鹿なの? 私あなたにこれまで何されてきたと思ってるの? ほんと、行くわけないし。本当あなたって馬鹿ね」


 と、ヒロインが罵倒され、階層が流れる。それは幸雄が明日香のスカートをめくったり、机に落書きをしたり、靴を盗んだりと言う、だいぶ質の悪いいたずらだ。


「今までの事は俺が悪かった。頼む。謝るから。それに俺は……お前のことが好きなんだ」

「冗談はもやめて。謝っても無駄よ。私の考えを変えるつもりはない」

「ごめええん!!」


 幸雄はその場で土下座した。


「ちょっとやめてよ。私が悪いみたいじゃん」

「そうはいきません。俺の告白を受けてください。今年の花火はあなたと見たいんですよ」

「ならなんで私のことをいじめてたの?」

「それは……気を引きたくて」

「本当馬鹿ね。じゃあ」


 と言って明日香はその場を後にした。


「どうしたらいいんだ!」


 と、幸雄は教科書を投げる。


「長谷川さん! 落ち着いてください」


 そばにいた山田一斗が落ち着かせる。


「大丈夫じゃねえ、俺は付き合いたいんだ!」


 と、再び机を叩く。


「一日じゃあ無理っすよ。誠意を見せるために毎日アタックしていきましょう」

「そうだな」


 翌日


「今日一緒にご飯を食べないか?」


 昼休みの始まりのチャイムと共に幸雄が明日香をご飯に誘う。


「は? なんでよ」

「俺はお前とじゃなきゃ嫌なんだよ」

「私はあなたとじゃなくてもいいんだけど」

「でも、お前友達いないだろ」

「余計なお世話よ」

「そんなこと言わずにさあ」

「はあ、分かったわよ」


 そして二人で無言で食べ始める。


「ねえ、何かしゃべってよ。気まずいんだけど」

「ああ、俺は本当にお前のことが好きだ。だから、今までの事は謝るからさ。友達からでも再スタートさせてくれないか?」

「はあ、あなたは断ってもまた行ってきそうね。わかったわ。友達になるわ。でもあなたが私にまたあんなことしたら今度は許さないからね」

「分かってる。俺も馬鹿だった。あんなことで気を引こうとした俺がな。堂々と告白するべきだった。ごめんな」

「謝られたら私の方が困るわよ」

「すまん。だからやり直させてほしい」

「わかった、それにあなた顔悪くはないしね」

「え?」


 そう言った瞬間、明日香は「トイレ!」と言って走って行った。幸雄はそれをただ見ていることしかできなかった。




「どうだった?」

「あんまり」


 麗華が辛辣な答えを返した。


「なんでよ!」

「いや、なんかね、気を引くために悪戯するってそれ現実にはないじゃない。それでなんとなくね」

「そう? そう言う世界だと思ったらおかしいとは思わないけど」

「うーん」


 そう言って麗華は考え込んでしまった。


「麗華にはまだ早かったかー、これ見せるの」

「そう言えばいつ友達になったんですか?」

「二人と?」

「うん」


 ふと気になってしまった。どれくらい一緒に居るのだろうか。


「そうねえ、麗華とは高1からの知り合いで、絵里は高2の時に知り合ったんだっけ」

「そうなんですか?」


 思ったより下村さんが奈由香と一緒にいた時間短かったな。


「うん。麗華とはねえ、普通に隣の席になったよね」

「ええ。最初奈由香めっちゃ話しかけてきたわよね」

「だって、隣の席になったら話しかけないとでしょ」


 俺は隣の席の人と話したことなんて無いのに。隣の席になっても話す機会なんて無いし、授業中も、事務的な会話しかしないんだもん。その価値観がよくわからない。


「羨ましいな。隣が奈由香で」

「え?」

「俺、友達いなかったから、奈由香みたいな人が隣にいたら友達が出来てたかもしれないって」


 他人本位な考えかもしれないけれど。それな奈由香じゃなかったとしても、隣の人がよく話しかけてくれる人だったら、俺もこんなにはぼっちになってなかったかもしれない。


 普通に羨ましい。隣の人と友達になるなんて、漫画での出来事だ。


「人に頼ったらだめよ」


 うっ怒られた。


「でも、そうかもね。私も高一の時に雄太がいたらもっと楽しかったかもね」

「え?」


 嬉しい言葉だ。


「ちょっと、奈由香! 私の隣だったら楽しくないって言ってるみたいなものじゃない!」

「まあ雄太のほうが楽しかったかもっていう話だよ」

「奈由香! あなたはいつもこうなんだから」


 と、麗華は軽く奈由香の頭をごつく。


「ねえ、私と出会った時の話もしてあげて」


 と、下村さんが会話に加わってきた。


「えー。なんか嫌だ!」

「ひどい!」


 そして下村さんは奈由香に抱き着いた。


「もう」


 ここはなんかこう、俺だけ異質だ。何と言うかこう、女子の世界に俺がいるみたいな……たぶんみんなパジャマだっていうのも関係してるんだろうな。そして相変わらず下村さんが奈由香に抱き着いている。長い時間。


「絵里、少し長くない?」


 奈由香も思っていたらしい。


「奈由香と抱き着くと気持ちいいんだもん」

「もう」



「雄太、雄太も抱き着きに行ったら?」

「いや、今はいいですって」

「意気地なしだねえ。今の空気だったら奈由香許してくれるよ」

「そうですかね」


 俺も決して抱き着きに行くのが嫌なわけではない。何ならずっと抱き着きに行きたいくらいなのだ。


「奈由香!」


 意を決して俺は前に出、腕を広げた。もう深夜テンションだ。


「俺にも抱き着きに来てください!」

「敬語じゃなかったら抱き着きに行くけど、敬語使わなかったらいいよ」

「俺に抱き着きに来い!」


 えい、もう思うがままよ。


「えい!」


 と、奈由香が俺に抱き着いた。自分の意思で抱き着かせた今の瞬間。これが今までで一番気持ちいいハグだ!


「雄太の胸の中気持ちいい」

「……」


 思わせぶりなのかなあ。まあどっちでもいいや。


 隣を見たら下村さんが頬を膨らませていた。麗華を見ると、ほほえましいものを見る顔で見ている。


 これがラブコメならここでエンディングゾングが流れるところだ。今度、告ろう。本当にそう思った。

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