第4話 すごろくゲーム2
そして楽しむこと七分後。
「よし! 勝った!」
彼女が急に叫んだ。大声で宣言した。
「勝利宣言速くないですか?」
「だってもう三十七ポイント差なんだもん。勝ったも当然じゃない?」
彼女はそう言って寝ころびながら足をバタバタさせている。
「でも俺のほうが先に進んでるじゃないですか」
「それはもうすぐ抜く予定だからいいの」
「そうですか」
実際俺の駒と彼女のコマは七つしか違わないのだ。まだ抜かされる可能性は十分にある。
ふとゴールはどこかなと思い、ゴールを探してみたところ、ゴールまではまだ四十マスぐらいはあった。逃げきれたら勝てる可能性が出てくるが、まだわからないというのが正直なところだ。
「さて、この幸運の女神である私が振りましょうかな」
完全に調子に乗っていやがる。ムカつくかわいい。
「さて、六が出ました。有村君。どうします? もう一個差ですけど」
憎たらしいな。まだ負けてないんですけど。
「まだ逆転の目はありますよ。だってまだ抜かされてはないじゃないじゃないですか」
「それはそうだけど」
「俺は希望が無くなるまではがんばるんで」
俺はサイコロを振る。五だった。
「えっと、株価が暴落、10ポイント失う…」
最悪のマスだ。もう逆転は無理なのか…。
「えっと、その、ドンマイ」
彼女は笑いながら言う。
「それたぶんドンマイって思ってませんよね」
「ばれた?」
「バレバレなんですよ」
そして彼女は再び立ち上がり、サイコロを振った。
「おお、宝くじが当たった。九ポイントぽもらえる。やったよ有村君」
「もう俺のライフは〇ですよ。十五ポイントください」
「やだ」
彼女は子供っぽく言う。
「がんばってー」
「わかってますよ」
もう俺に逆転の目がないと思っているのか? ただ後半はポイントの増減が激しい。まだいけるはずだ。
「え、森で遭難した。三ポイント失って一回休み!?」
「勝ったね!」
「そんなこと言わないでくださいよ」
もう無理だ。さすがに何かにとりつかれていると疑いたくなる。なぜここまでの目に合わないといけないのか。
「はい、三ポイントもらう」
「そうですか…」
「えっと、乗ってた船が沈没する。十七ポイント失う。ええ!?」
「勝ちましたなんてフラグ立てたからですよ。まだ俺は輝けるぞ」
「うう、でもまだ四十五ポイントあるから」
そうだった、俺はまだ不利なんだった。そして彼女はもう一回回すも、何もないノーマルマスに止まった。
「よし、ようやく俺の番だ。よーし振るぞ! えっと、もう一回回せる。やった!」
「マイナスマスに止まってください。神様お願いします」
彼女は祈る。
「えっと、決戦マスか。勝ったほうが負けたほうから十ポイントもらえると」
「負けるわけにはいかないね」
「そうだね」
「ふん」
俺はよけまくる。一方彼女はあたふたしているようだった。この勝負もらったぞ。
「えっと、こっち」
仕方ないだろう。このゲームは初見じゃあきつい。どっちに良ければいいのかわからないよな。
彼女のところにもう一つ炎がはかれる。
俺は知っている。炎を吐く直前に少しだけ赤くなることを。悪いけど、知識の勝利だ。
「えい」
しかし、彼女は意外にもうまく避けている。しぶといな。
「あう」
ついに当たってしまったようだ。俺の勝ちだ。
「くやしー」
「ふふふ、俺の勝ちです」
「なんかその高笑いむかつく」
「さっきからしてたの霜月さんじゃないですか」
「私はいいのよ、でも有村君がするのは違うってこと」
「そうですか。でもこれで二十ポイントもらえたから二十五ポイント差です。もう優位はあまりありませんよ」
「うう、でも負けないから」
そしてそのまま大きなイベントもないまま、ゴールに俺が先に到着して。ゲームが終わった。
「ふう、とりあえずゴールまで逃げ切ったけど、これはどうなんだ?」
「わからないね」
ゴールした後に色々なポイントが追加される。
「うわあ、負けたー!」
俺がなんとか勝った! 元々は負けていたのだが、ボーナス点でなんとか勝った。嬉しい!
「なんか悔しい」
「それはドンマイですね」
今更だが、なんで俺なんかと遊んでてこんな楽しめるんだろ。俺みたいな愛想のないつまらない人間と遊んでいて。
楽しんでくれてるんだったら別にいいけど。
「もう一試合やろ!」
「ええ、もう一回ですか?」
「うん、私一回は勝ちたい」
「分かりました! やりましょう!」
「やったー!」
俺たちはもう一試合同じゲームをやった。バトルゲームよりもこっちの方が楽しいらしい。
「勝ちました!」
俺がまた勝った、勝ってしまった。
「もう一回!」
彼女はまだやる気らしい。可愛すぎる!
「分かりました! でも手加減はしませんから!」
「はい!」
そしてもう一戦開始した。
「また勝った」
「次は負けないから!」
そろそろ可哀想になってきた。いつもボロ勝ちという訳ではなく、僅差での勝ちなのだ。だからとはいえ、わざと負けるわけにはいかない。それは彼女に対する侮辱行為になるのだ。そしてそろそろ五時半なんだが、時間大丈夫なのかな?
「はあ!」
彼女はこっちが見てると怖いぐらい集中していた。このミニゲームは鬼から逃げるゲームなのだが、むしろ彼女が鬼みたいだった。
「やったー!」
ついにミニゲームで初めて負けた。実のところ俺は今までミニゲームではあの最初の一回しか負けたことがなかったのだ。
「でもまだ終わってませんから」
「ええ、まだ油断してません!」
やはり集中している彼女はかわいい!
そして、俺は終盤だったのもあり、ミニゲームで十二ポイント奪われてしまった。これで今回勝つのはキツくなったが、まだ諦めるわけにはいかない。
「やった! 二十七ポイント差の完全勝利!!!」
結局奮闘むなしく負けた。今日初の負けはボロ負けだったようだ。
「悔しいな」
「私の気持ちがわかりました?」
「ああ、わかった」
喜んでいる彼女もかわいい。
「ふう、さてと帰りましょうか」
「急ですね」
「当たり前じゃない、そろそろ帰らないとお母さんに怒られちゃうわよ」
「そうか、なら見送ります」
「ありがと」
むしろ俺にとって見送りはご褒美みたいなものだ。好きな人を見送れるんだからな。
「今日はありがとう、すごく楽しかった」
彼女は笑いながらそう言った。
「ありがとうございました。お礼を言ってくださって」
俺はお礼を言う。こんなにうれしいことはない。
「別にいいのよ。そんな敬語使わなくても。私たちはクラスメイト、そして友達でしょ」
「そうですね」
「敬語禁止って言ったでしょ、そうだなでいいのよ」
「うん」
そして彼女は手を振って帰っていった。なんで俺が友達になれたのかはわからないが、今はこの幸せをかみしめようと思う。
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