第2話 指輪
結婚の際、マリーは人生で初めて、異性から指輪を贈ってもらうことになった。
婚約指輪である。
このとき、一悶着あった。
「そんなに高いものはダメです」
「一生に一度なのに」
「契約結婚なんだから、いいんです。式もしないから、ほとんど誰にも見せません。カモフラージュの指輪にお金をかけるなんていけません」
そう言って、マリーは一番安い指輪にしようと言い張った。
ケビンは、マリーに押し切られそうになりつつも、必死に踏みとどまっていた。
いくら契約結婚といえども、あくまで結婚だ。式をしない分、マリーを女性として尊重していることを示すべく、ここは気合いを入れたものを選ぶべきではないだろうか。
しかし、ケビンは女性を好きになったことがなく、故に自分から指輪を贈るような関係を築いたことがない。だから、この辺りの機微がさっぱり分からない。
困った困ったと頭を抱えていると、マリーが恥じらうようなそぶりでケビンに話しかけてきた。
「ケビンさん。わたし、男の人から贈りものをいただくのが初めてなんです」
「初めて」
「はい。あ、職場のお土産とかはもらってましたけど!」
「はい」
「だから、その……こんなふうに、指輪なんて素敵なものをもらえるなんて、なんだかすごいなって」
試着でつけている指輪をうっとりみつめながら、マリーは微笑む。
「結婚て素敵なんですね。ケビンさん、本当にありがとう」
マリーの本当に嬉しそうなそぶりに、ケビンは真顔になった。
「マリーさん」
「はい」
「指輪はこちらの棚から選んで」
「はい……えっ、この棚はちょっと……値段が……」
「いいから選んで」
ケビンはそう言って、マリーに指輪を選ばせた。
給料三ヶ月分の指輪である。
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