第八話 黒猫の苦手なもの

 今日はとっても良いお天気。

 青空に、雲が泳いでいる。

 風に乗っているみたいで、とっても気持ちよさそう。

 あれ? さっきからバサバサバサッと音がするなぁ。

 一体なんだろう? あたしは音が聴こえる所へ、耳をぴくぴく動かしてみた。


 お庭の中で、二本の棒が空に向かって真っ直ぐに生えている。それは途中で二股に分かれていて、更に二本の棒が横に乗っている。その棒の上を、様々な大きさの、真っ白い布みたいなものがぶら下がっていたの。 

 

 ああ、これは柳都が言ってた〝ものほしざお〟というものかしら。

 その棒の上には他にも真っ白いシャツやシーツ、青いタオル……色んな形をした物がぶら下がっては、互いにぶつかりあいこしているみたい。音がちょっとうるさいけど、見ていると面白い。

 

 そこへ、風がぴゅうと吹いてきた。

 真っ白い布のようなものが落ちてくるのが、あたしの視界に入ってきたの。

 止めてあったものが外れたのかなぁ?

 隣のお家に飛んでいかないように、あたしがつかまえなきゃ!

 あたしはその場でジャンプした。


 すると、それは突然、あたしの頭の上から勢い良く覆いかぶさってきたの!


「にゃう────っっっっ!?!?!?」


 何何!? 一体何が起こったの!?

 さっきまで明るかったのに、目の前が真っ暗になっちゃった!

 全然痛くなかったからそれは良かったんだけど。


「みゃ────っっっっ!!!!!!」


 何にも見えないよぉ!

 前が見えない! 後ろも見えない!

 ここどこなのぉ!?

 やだぁ怖いよぉ!


 あたしはその場所から逃げようとしたけど、思うように動けない。何かを踏みつけそうになって、うっかり転びそうになる。すると、急に何かがあたしのおでこにごつんとぶつかってきた。


「うにゃ────っっっっ!?!?!?!?」


 痛いよぉ! 何なのこの硬い棒みたいなやつ?

 あたし、どこかに頭をぶつけちゃったみたい。

 たんこぶ出来てないかしら?

 あたしは何とかして、頭の上から被さっているものを外そうと前足を動かしてみたけど、いくら動かしても変わらなかった。

 どうして真っ暗なまんまなのよぉ!?

 

 実はあたし、暗いのが大嫌いなの!

 あたし怖い! 怖いよぉ柳都!

 助けて────っっっっ!!!!

 

 すると、かさかさと草を踏み分ける音と共に、穏やかな優しい声が聞こえてきたの。


「おやおや。一体どうしたのですか? 可愛らしいおばけさん。肝試しをするには、まだ少し早くないですか?」


 この声は、柳都の声……! この方向に行けば彼のもとにたどり着けるかもしれない!

 あたしは必死に捕まろうとしたけど、布みたいなものが、前足と後ろ足にもしつこくまとわりついてきたの。


 ああん! もう! 上手く歩けないじゃないの!

 邪魔しないでったら!

 あたし、本気で怒るわよ!?


「ああ、ひょっとして、落ちた洗濯物をあなたが拾ってくれたのですか? ありがとう、ディアナ」


 彼はそう言って、あたしの身体を覆っていた物ごと、優しく抱き上げてくれたの。真っ暗闇だった世界が一気に真っ白に光った途端、そこには銀縁眼鏡を通した榛色の双眸と、穏やかな微笑みが表れた。それを見た瞬間、あたしの小さな心臓が飛び跳ねちゃった。ちょっと痛い位。あたし、この眼差しに弱いのよねぇ。


「これはまた洗濯し直さないといけませんが、明日にしましょう。それより、ディアナ、少し早いですけどおやつの時間にしましょうか」


 え? おやつ?

 今日のおやつは一体何だろう?

 すっごく気になる!!

 

 つい前のめりになってしまったあたしの背中を、彼はゆっくりと優しくなでてくれたの。


 柳都ぉ~さっきは本当に怖かったんだよぉ~!

 でも、終わり良ければ全て良しだよね?

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