第8話 悔恨
妊娠を知ってから、ヴァリエ様は前よりも私に気遣って下さるようになった。
「ルクスっ 可愛いおもちゃを見つけたんだ」
「ヴァリエ様っ 昨日も買われていたではないですか」
「店の前を通るとつい、何か買いたくなってしまって」
そう言うと嬉しそうに、次から次へとおもちゃを出していく。
楽しそうなヴァリエ様の姿を見て、私は泣きそうになるのを必死で
「どうかしたかい?」
私がおもちゃを手にぼんやりとしていたので、ヴァリエ様が心配そうに声をかけてきた。
「あ、いえ、これはどのように遊ぶのかと思いまして…」
手の中にあったそれは、顔と手足が木の玉で出来ており、それぞれがバネで繋がれている人形……らしき物だった。
「それは………僕にも分からん」
「ふふっ 何ですか、それはっ」
穏やかな時間……少しでも長く続いて欲しい。
自分勝手な願いとは分かっているけれど…
「あ、そうだ。他にも面白そうなおもちゃを…」
そう言いながら立ち上がった瞬間、身体が大きくふらつきその場に倒れたヴァリエ様。
「ヴァリエ様!!」
私は慌てて傍に近寄るも、すでに意識がない。
激しく呼び鈴を鳴らし、人を呼んだ。
「誰か! 早く誰か来て!!」
◇◇◇◇
「……っ」
「気づかれましたか?」
「僕は…」
ヴァリエ様は軽く辺りを見回した。
「先ほど倒れられたのです。ここはベッドの上。診察して頂いて…過労だそうです。1週間ほどは安静が必要だと医師は仰っていました」
「そんなに休んでいられないっ やらなけばならない仕事が…っ」
そう言いながら、慌てて起き上がろうとするヴァリエ様を止める私。
「ありませんっ 1週間ほどなら、ジェラルドが代わりに
「しかし…っ」
「ヴァリエ様はいつも人の為に働きすぎです! 領民や我が屋敷で働いている者たちの事を大切に思うのでしたら、まずはご自分のお身体を大事にして下さい!」
思わず強い口調になってしまった。
じっとヴァリド様が私の顔を凝視している。
少し言い過ぎたかしら…? けど、これくらい言わなければ、きっとまた無理をしてしまうわ。
「ど…うかなさいましたか?」
私は恐る恐る聞いた。
「ふと、両親の事を思い出した」
また横になり、仰向けになりながら話し始めたヴァリエ様。
「え?」
「…母とは私が幼い頃に亡くなったから、一緒に過ごした記憶がない。父とその妻との関係は冷え切っていたし、私は父たちと過ごした時間もろくになかった。夫婦というか…家族というものがよく分からなかったけれど……怒られて嬉しくなるものなんだな」
「怒られて嬉しい事なんてありますか?」
私はふっと笑った。
「君が心配してくれているのが分かるから…だから嬉しいんだ」
そう言いながらヴァリエ様はやわらかい表情で微笑んだ。
「………っ! 心配です…っ 決まっているではないですか! 貴方が倒れた時、どれほど驚いたか…っ」
怒りながら、涙が出てきた。
いつの間にか私の中で、こんなにもあなたの存在が大きくなっていたなんて――…
「すまない…大事な身体なのに…」
彼の手が、膝の上で握り締めている私の手に触れた。
どうしようもない後悔が、私の心を抉る。
ヴァリエ様……私はあなたを騙しているんです。
お腹の子はあなたの子ではないんです…
私は、あなたに優しくされる資格のない人間なんです…
申し訳ありません……申し訳ありません……申し訳…っ…
彼には言えない言葉を、私は心の中で何度も何度も繰り返していた。
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