第5話 引き返せない結婚
澄み切った青空の下、ヴァリエ様と私は教会で結婚式を挙げた。
最初伯爵家からの求婚に戸惑っていた父だが、私の花嫁姿を見て号泣。
母は不安そうな顔をしながらも、涙ながらに喜んでくれた。
「喜んで頂けて何よりです」
そんな両親の姿を、嬉しそうに見ていたヴァリエ様。
私はお腹にそっと手を当て、物思いに
「どうかしましたか?」
私の様子を見て、ヴァリエ様が心配そうに声をかけて下さった。
「あ、いえ、何でもありません。それよりも私に敬語を使う必要はありませんわ。
ふ、夫婦…なので…すから…」
私は『夫婦』という言葉に気恥しさを感じて、思わず言い
「そうです…いや、そうだね」
そう言いながらヴァリエ様は、はにかんだ笑顔を見せた。
「ふふふ」
穏やかな方だわ。
噂と同一人物とは思えないけれど……人には誰しも裏の顔がある。
そんな事、嫌というほど分かっているはずよ、ルクス。
…それでも今夜必ず初夜を迎えなければならない。
私は胸の鼓動を抑える事が出来なかった…
祝宴も終わり、晴れやかだった日中の明るさが消え、夜の
薄暗い部屋の中、差し込む月明り。
ベッドには、私と今日夫となった
そうしなければならないのだ、絶対に!
この人に、お腹の子を自分の子と思ってもらうために!!
ヴァリエ様がそっと私の頬に触れ、唇が重なる。
私は固く目を閉じ、彼に抱かれた―――
◇◇◇◇
「ん……」
明るい陽射しが当たるのを感じ、目が覚めた。
隣にいたはずの夫はすでにおらず、太陽が高く昇っていた。
「うそっ…」
嫁いだ早々寝坊だなんてっ
私はあわてて呼び鈴を鳴らす。
すぐに2人の侍女がやってきた。
「おはようございます、奥様」
「おはよう。…旦那様は?」
「領地視察のために外出しております」
「…お見送りもしないで、ご不快に思われたでしょうね…」
私は頬に手を当てながら、溜め息交じりに独り
「いえ、旦那様から起こさないように仰せつかっておりましたので、そのような事はございません」
「そうなの…」
ヴァリエ様の気遣いを感じた。
もう一人の侍女がベッドのシーツを取り換え始めているのが目に入った。
昨夜ベッドに入る前に純潔の印をつけておいたけれど、怪しまれなかったかしら…
「……あら?」
今、ふとある事に気が付いた。
「
「あ、いえ…今旦那様が領地視察に向かわれたと言っていたけれど…いつもご自分で行かれるのかしら?」
「え? あ、はい…それは…もちろん…です」
当たり前の事を聞かれたようで、答えに戸惑っていた侍女。
仕事は家令に任せっぱなしではないの?
それに横暴な性格と聞いていたけれど、昨日一日一緒にいて感じたのは、私に対する優しさと心遣いだった。
………いいえっ 人は優しい仮面を被りながら、簡単に人を裏切るわ。
そんな事、身に染みているでしょっ!
ティミド様も最初は優しかった…最初だけは…
今夜も営みは行われるのだろうか…
跡継ぎを作らなければならないのだもの、当然よね。
けど、まだ安定期に入っていないのに…負担にならないかしら。
私はお腹に手を当てた。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
初夜以降、彼が私を求める事はなかったから。
夜は私が寝入った後に
それならそれで、私の方は助かるから全く構わない。
それに噂通りで、ある意味良かった。
罪悪感が少しは軽くなるような気がするから…
私は今夜も広いベッドで、一人眠りについた。
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