第4話 紹介 1

「サキ、よくやったぞ! ココ、無事で良かった……て、血が出ているではないかぁ!」

「連れて行かれる時にお嬢様が抵抗されたので、パコンとやられてしまいましたぁ。旦那様、私が付いていながら申し訳ありません!」

「なんだとぉ!? どいつだ!? どいつにやられたんだ!?」

「多分、追いかけてきますぅ。で、旦那様……」


 咲が小屋で聞いた話を父に話して聞かせた。てか、親父よ。いちいち声がデカイんだよ。力も強すぎる。いい加減離してくれないと、今度こそ俺死んじまうぜ?


「なんだとぉ!? あのクソバカ子爵がぁ!!」


 あ、いかん。父がキレている。


「皆の者! よく聞けぇぃ! ココアリアを攫ったのが隣領のバカブータダ子爵の手の者だと判明した! 我が領地を執拗に狙っている子爵だ! まだ幼い我が娘を人質に取るなど、卑劣極まりない仕業を許せるか! 否、許してなるものかッ!!」


 ――おおー!!!!


 父の言葉に兵達が雄叫びを上げる。さすが、脳筋集団だ。異様にギラギラしている目が怖い。獲物を狙う虎みたいだ。



「スカイラン隊長!」

「はっ!」

「先にある小屋で捕われていたそうだ! そこから追手が来る! 一網打尽にするのだ!」

「はっ! お任せあれぇッ!」


 隊長と兵の1部が小屋へと向かって走って行くと、間もなく剣を合わせる様な音と、ウオー! と言う雄叫びが聞こえてきた。


「残りは街からまだ子爵の手のものが来る! 1人残らず捕らえるぞ!」


 ――おおー!!


 父と、残った兵達がまた街に向かって来た道を引き返して行く。


「お嬢様、申し訳ありませんでした! 俺が付いていながら!」


 隆……いや、今はリュウエル・アサンミーヤ。俺専属の従者だ。ガバッと頭を下げている。


「隆、若様だったのよぅ」

「……はぁっ!? 姉貴、何言ってんだ?」

「だぁかぁらぁ、若様なのぉ! 記憶が戻ったのよぅ」

「まじッスか!?」

「おう、隆。久しぶりだな」

「なんスか!? てか……アハハハ! お嬢!」


 隆に抱き上げられ、高い高いされた……うん。幼女だしな。仕方ない。ここは大人しく我慢だ……いいや、そんな訳ねーよ。パンチだろう!


「とぅッ!」

「わかぁーー! 痛いッス!!」


 隆の顔面に俺の渾身のパンチが決まった……てか、8歳の幼女にパンチされたってそう痛くないだろう!

 こうして、俺達は再会を果した。



    ◇ ◇ ◇



 ああ、身体があちこち軋むぞ。寝違えたか? 俺はゆっくりと目を開けた。あれ? デカイベッドの中だぞ? ここは何処だ? 俺、こんなベッド持ってないし。


「ココちゃん! 良かった、気がついたのね!」


 目の前には、目を真っ赤にして涙を溜めている母の顔があった。ああ、心配かけちゃったんだな。


「母さま……」

「もう大丈夫よ。お父様が全員捕らえたわ」

「あれ? 寝てしまって……」

「お嬢様はお邸に戻る途中で寝てしまわれたんですよぅ」


 そっか。ここは俺の部屋だ……うん、ちゃんと覚えている。そっと額に手を当ててみる。あれ? なんもないぞ? 傷がない。


「大丈夫よ。母さまが綺麗に治しておいたわ。無事で良かったわ」


 ん? 何か今、突っ込み所満載だったぞ? 治しておいた?


「母さま、父さまは?」

「それがね、あれからスイッチが入っちゃって……バルトに付いて行かせたんだけど」


 スイッチが入っちゃっている父は、アレクシス・インペラート。41歳。

 代々この辺境の地を治める辺境伯だ。アッシュシルバーの短髪にアメジスト色の瞳。見た目はクールだが、何にでも熱すぎる程の熱血漢。所謂、脳筋だ。だが、周りが見えないタイプではなく冷静沈着な面も併せ持つ。頭もキレるタイプだね。正義感も持ち合わせていて、敵にはしたくない。

 トゥーハンドソードと呼ばれるデカイ両手持ち剣を、片手で軽々と振り回して敵を薙ぎ倒す程の怪力と実力の持ち主だ。

 

 そのスイッチが入っちゃっている父親に付いて行っているのが1番上の兄、バルトシス・インペラート 20歳だ。

 父と同じ髪色で、ウルフカットの様にしているが後ろ髪だけ長くして結んでいる。アメジスト色の瞳が爽やかな兄だが、剣を握ると人が変わる。ロングソードに風属性魔法を纏わせ真っ先に斬り込んで行く。

 だが、父程熱血漢ではない。決して脳筋ではない。普段は、いつも一歩引いて見ている冷静なところがある。頼りになる優しい兄だ。長男だから、領民から次期様とか呼ばれちゃったりしている。

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