おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜

撫羽

序章

第1話 目覚め 1

 頭がイテー……頭の芯がズキズキと痛み疼きが止まらない。身体までそこら中痛い。なんなんだ? 俺はゆっくりと目を開けた。


「お嬢さまぁ! 気がつきましたかぁ!?」

「うぅ……」


 はぁ? お嬢様だと? 何言ってんだ? ゆっくりと目を開けると仄暗い部屋にいた。しかも埃っぽい。目を凝らして周りを見てみる。

 なんだ此処は? 此処は一体どこなんだ? 小屋か? 板葺の天井らしい。作り付けの棚があって、何かの物置きの様にも見える。小さな部屋だ。暗い……なんでこんな所に? 俺達は車に乗っていた筈だ……もしかして、拉致られたか?


「お嬢さまぁ、大丈夫ですかぁ!?」

「え……咲か……?」


 えッ!? 何だ、この高い声!? 俺の声なのか?


「えぇ!? お嬢さま、まさかぁ!?」

「お前何言ってんだよ……頭がイテー……」

「お嬢様! お嬢さまぁ!」


 俺はメイド服を着た女性に、しっかりと抱き抱えられていた。なんなんだよ!? どうなってんだ!? その時だ。俺の頭の中で何かが弾けた。まるで洪水の様に映像が溢れ出した。



   ◇ ◇ ◇



 夜の空気が支配する無表情な都会のビルの間を抜け、光の帯が続き蛇行する高速道路。そこへ吸い込まれていく1台の車。月のない夜空に溶け込むような黒のワンボックス。その車に俺達は乗っていた。

 景色はどんどん後ろへと流れていく。車がスピードを落としながら一般道へと合流する頃には、都会の喧騒からも遠く離れていた。


「若、盛況でしたね」

「ああ、まあまあだな」

「またぁ、若様の為のパーティーですよぉ」

「いや、俺身元明かしてねーし」

「まあ、そうっスけど。まさか若頭だなんて公表できないッスよね〜」

「本当は出席もしたくねーんだよ。身元を明かさないって約束で出席だけしてんだ」

「それって、意味あるんですかぁ?」

「な、そうだよな」


 この日は俺の本の出版記念パーティーだった。と、言っても食事会の様なものだが。その帰りの車の中だ。

 俺は、皇 大和(すめらぎ やまと) 20歳。一応、女に不自由しない程度にはモテるイケメンだ。(自称)

 そして俺は、極道の息子だ。地方都市に古くから縄張りを持つ皇組の若頭で次期組長だ。と、言ってもだ。うちの組は歴史が古いだけで、世の中の変化には抗えず大した活動をしていない。金貸しをしていた時期もあったが、それもとっくに辞めちまっていた。

 毎日している事と言えば、現組長である親父が小さくて可愛いフワモコなトイプードルの散歩を兼ねて、朝夕に近所を散歩する事位だ。シルバーでも黒でもない、口の周りだけシルバーで身体はグレーという少し珍しい毛色だと親父が思い込んでいるご自慢のトイプードルだ。

 ちなみに名前を『霧島』と言う。俺が付けたんだ。極道らしい強そうな名前だろ? 因みに、このトイプードルは雌だ。

 その霧島が、丸い尻尾のお尻をフリフリさせて弾む様に歩く隣りを、和装でバッチリ決めた見るからに厳つい強面の親父が散歩だぜ。ちょっとアンバランスすぎて笑えるだろう? しかも足元はスニーカーだ。和装なのに。


 だが、うちの組は小さいながらも資金は潤沢だっだ。不思議だろ? その理由は俺達姉弟が大きく関係している。

 俺には2人の姉がいた。2人共優秀で頭脳明晰。オマケに弟の俺から見ても美人だ。

 上の姉貴の趣味がレース編みにビーズ編み、それに刺繍から始まって手芸全般だ。しかも、プロの腕前だ。1人でドレスやスーツ、何でも作っちまう。俺や親父だけでなく家族全員の浴衣や着物も姉貴の作品だ。


「大和、これあたしが作ったんだけど売って欲しいの。組の資金になったらいいと思わない?」


 と、姉貴が言い出して、小遣い稼ぎにと思い姉貴が編んだレースやビーズアクセサリー、刺繍をしたハンカチ等小物をネット販売したところ、ドレスを企画製作している会社の目に留まり受注契約を結んだ。そこから、オーダーメイドでドレスの受注があった。それが、なかなか良い収入になっている。

 但し、組総出でレースを編んだり、刺繍をしたり、ミシンを掛けたり。姉貴の奴隷と言う名のアシスタントをしている。いや、逆だ。アシスタントと言う名の奴隷だ。


 そして、下の姉貴はドッグトレーナーだ。


「あたしに掛かったらどんな犬でもイチコロよ!」


 と、姉貴が自信満々に言っている様に、どんなに難ありの犬でもしっかりと躾のできた良犬へと変貌する。その噂が噂を呼び、今や予約待ちが出来る程だ。

 これにも、組員達がアシスタントとして犬の世話をしたり、送り迎えをしたりで大忙しだ。

 

 組長の娘なのに、手芸に犬かよ! と、思うだろ? だが、姉2人はそれだけじゃないんだ。柔道に剣道、空手やテコンドーまで熟す奴等なんだ。

 俺は子供の頃から姉2人にコテンパンにやられた。俺だって、強い方なんだぜ。そこら辺の組員には負けないんだ。なのに、いつまで経っても姉貴達には敵わない。

 その上、姉貴達の趣味も無理矢理手伝わされて俺までプロの域に達していた。姉貴達には逆らえないんだよ。なんせ、容赦ないからな。超強いんだ。マジで鬼強い姉2人だった。

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