第11話 昼休み

 昼休み。


 大貴と美桜は体育館に居た。しかも制服姿だ。


 結局、大貴は美桜の要望を受け入れた。大貴にメリットは全く無かったが、美桜の真剣さから断りづらかった。


「まずは、どれくらい出来るか把握したいから。適当にドリブルしたり、シュートを打ったりして貰えるかな? 」


「う、うん。分かった」


 少し緊張した表情を作り、美桜はブレザーを脱ぎ、白のカッターシャツ姿になる。豊満な胸がより強調される。ブレザーを脱ぐことで、より存在感が露になる。


 当然、大貴は無意識に美桜の胸に目が行き、すぐに逸らす。


素早い対応から気づかれた様子は無く、美桜は体育館の端に自身のブレザーを畳んで置いていた。


 それから、体育館倉庫からバスケットボールを取り出し、大貴の要求通りドリブルを始める。


「おっとと。…難しい…」


 ほとんどボールを凝視しながら、美桜は完全にぎこちないドリブルを始める。ボールが左右に動くたびに、美桜の身体も揺れる。ボールに遊ばれている感じだ。


「おっと~~。って、いったぁ~~」


 不運にもイレギュラーに跳ねたボールが美桜の人差し指に突き刺さる。反射的に、美桜が人指し指を押さえる。どうやら突き指をしてしまったようだ。


「だ、大丈夫!? 」


 流石に心配になり、大貴は美桜に駆け寄る。


「っ~~。だ、大丈夫!! 軽く突き指しただけだから。…何度も経験有るから。すぐ直ると思う」


 痛みに耐えるように顔を歪めながら、美桜は何とか言葉を紡ぐ。


(何度も有るんかい! )


 思わず胸中でツッコミを入れしまう大貴。


「そ、そう。もし痛みが続くようだったら、保健室に言った方がいいよ」


「う、うん。その時は言うよ」


 未だに両手を押さえたままの美桜。


(これは大丈夫かな? )


 思わず、今後の特訓の進捗を心配してしまう大貴。


 大貴の懸念は見事に的中してしまう。


「よし! もう大丈夫!! 」


 しばらくして突き指が治ったのか。


 相変わらずボールに遊ばれながら下手くそなドリブルを突き、美桜はゴールに向かう。


 そして、立ち止まり、両膝を少しだけ曲げて、両手でシュートを放つ。


 放たれたシュートはリングにかすりもせず宙を舞う。重力によって、体育館の床に落下する。つまり、ゴールに届きもしなかったのだ。


 虚しく体育館の床で跳ねるボール音だけが響く。


(おいおい。本当に大丈夫かこれ? )

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