第6話 飲食の仕事で培った能力を体育の授業で発揮

 大貴は中学時代バスケ部に所属していた。スピードは同級生よりも有ったが、シュートが下手だった上、圧倒的に視野も狭かった。スリーポイントシュートなど大の苦手であった。


 それに加えて、バスケ部員の中では身長が1番低かったため、ベンチ入りすら叶わなかった。そのため、ユニフォームすら貰った経験が無かった。


 大貴にとって、中学時代の部活は大きな挫折であり、苦い記憶である。


 同級生のバスケ部員が試合で活躍する姿をベンチ外でメガホンを使って応援した記憶が強く残っている。あの時は試合で活躍する同級生の部員が羨ましくて仕方が無かった。


 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。

 1時間目の授業の開始を合図するチャイムが体育館内に鳴り響く。


「よ~し。これから体育の授業を始めるぞ。以前と同じでバスケをやっていくぞ。適当にチームを作っていってくれ」


 体育教師の指示に従い、男女同じように適当にチームになっていく。ほとんどが仲の良い友人と組む形となる。


 大貴に仲の良い友達は居ないため、自然と余りになる。他にも余りの男子生徒が4人ちょうど居たため、チームを組むことにした。


 体育は2年5組と2年6組の合同授業なため、男子は3チーム、女子のチームは4つ出来た。

 

 大貴のチームは1試合目にゲームをするチームに選ばれた。対戦相手は如何にも陽キャ

 の男子が集まったチームだった。


 その中の1人の男子生徒に、大貴は目が行く。


 身長180センチを超えた高身長に、爽やかな顔立ちをした男子生徒だ。彼は2年生ながら松下高校のバスケ部のエースである。


松下高校バスケ部は県大会にギリギリ出場できるレベルであるが、その部員の中でもエースの実力は飛び抜けている。


1度、大貴も彼のプレイを直で目にしたことが有るが、非常に上手かった覚えがある。大貴なんかの実力では足元にも及ばないレベルである。



 そんな松下高校バスケ部のエースを含んだチームと試合をすることになってしまった。


(まぁ、向こうも体育の授業で本気は出さないだろう。それに、俺が中学時代バスケ部だったことも知らないだろうし。気楽にやろう。気楽に)


 自身の心に言葉を投げ掛け、多少なりともリラックスを図る大貴。


 そうこうしている内に、ジャンプボールが始まり、相手チームのボールから試合が始まる。


「田嶋!! 」


 いきなりエースにボールが渡り、楽々とシュートを決めてしまう。


 田嶋の放ったシュートは華麗にバスケットゴールのネットを揺らす。


「「「「キャ~キャ~」」」」


 女子達から黄色の声援が漏れる。


「よっしゃ!! ナイスシュート!! 」


 女子達の声援を背に、平然とした顔でチームメイトとハイタッチを交わす田嶋。


 あっさりと先制点を許してしまった。


 誰もボールを拾わないので、大貴がボールを取り、コート外から適当に同じビブスを着たチームメイトにパスを出した。


 ボールを出来るだけ触りたくないのか。パスを受け取ったチームメイトは、即座に大貴にパスを返してきた。


(おっと。まだコート外なんだけど)


 慌ててコート内に入り、ギリギリでボールをキャッチする。


(ボールを運べってことかな? そうだよね? 間違いないよね)


 勝手にチームメイトの考えを解釈し、大貴は久しぶりにドリブルをつきながら、ボールを運ぶ。


 久しぶりにドリブルをつくため、ボールは手に全く吸い付かない。そのため、少しぎこちないドリブルに成ってしまう。

 ゆっくりとボールを運びながら、ハーフコートを超える。


 偶然にも1人のチームメイトがゴール下でノーマークになっていた。完全にフリーであった。


 その瞬間を逃さないために、大貴は素早くゴール下にパスを送る。


 チームメイトは大貴のパスをしっかりキャッチし、素人特有の崩れたシュートフォームでゴール下のシュートを決める。ボールはゴールのボードに当たり、ネットを優しく揺らす。


「や、やった!! 」


 シュートを決めたチームメイトが、自分でも驚いた顔で喜びの声を漏らす。


 そのまま自身の守るべきゴールが有るコートに戻る。


 相手チームがボールを運び、ハーフコートまで運ぶ。


 田嶋が良いポジションを取っている。このポジションでパスを貰えば、簡単にシュートを決められそうだ。田嶋のチームメイトもパスを出そうとしている。


(流石に、そのポジションでパスは受けさせないよ! )


「田嶋!! 」


 チームメイトが田嶋に対してパスを出す。


(予想通り!! )


 予め予測して、大貴は田嶋へのパスをカットする。


「あ!? 」


 パスを出した田嶋のチームメイトが悲鳴のような声を上げる。


 田嶋もわずかに眉をひそめる。


 パスをカットした大貴は、そのままダッシュでゴールに向かう。


 田嶋にパスを出したチームメイトは、大貴のスピードに付いていけず、簡単にシュートを許してしまう。大貴が楽勝でレイアップシュートを決める。


「「「「キャ~~」」」」


 試合を観戦していた女子達から田嶋と同じように黄色い声援が湧く。女子達は興奮しているようだ。


 だが、大貴の耳には女子達の黄色い声は届いてなかった。それよりも1つのことが気になってしょうがなかった。


(俺って、こんなに視野広かったけ? )

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