第4話 決心
「お待たせ。もう先に朝ご飯食べてるよね? 」
顔を洗わずに洗面所から退出し、愛李は食卓に座る。
「うん。お先に頂いてるよ」
もぐもぐ咀嚼しながら、大貴は軽く右手を上げて応える。
「どうだった。朝ご飯の味は問題なかった? 」
眉を下げ不安そうに大貴を見つめながら、愛李は尋ねる。
「そんなに心配しなくていいよ。朝ご飯は本当に美味しかったよ。ご飯、味噌汁、目玉焼き、ソーセージ、どれも最高だよ。愛李が心を込めて作ってくれているおかげかな? 」
お世辞は一切混ぜず、大貴は率直な感想を愛李に伝えた。お世辞は嫌いなのだ。
「そ、そっか~~。えへへへっ。そんなに褒めてくれても何も出ないよ~~~」
だらしなくデレデレに頬を緩め、大貴は照れ隠しをするようにモジモジと左右に身体を揺らす。
「うん? そんなの必要ないよ。だって何かを求めて言ってる訳ではないからね」
嘘偽りの無い本心だった。大貴は見返りなど全く求めていない。実の妹に見返りを求めること自体、おかしな話だ。
「ふぇ…」
愛李の口から間抜けな声が漏れる。表情も固まっている。
「愛李どうしたの? 大丈夫? 体調でも悪いの? 」
愛李の異変に気づき、大貴は心配そうに顔を近づけ、妹の体温を測ろうと試みる。愛李の体調を心配しての言動である。
大貴の右手が愛李の額に伸び、触れる。
「だ、大丈夫だから~~!!! 今日のお兄ちゃんが格好良すぎるだけだから~~~」
目にも止まらぬ速さで立ち上がり、朝食に一切手を付けずに、愛李は大きな声で叫びながら、階段を駆け上がり2階へと移動してしまった。
「愛李の奴どうしたんだ? 俺がカッコいい? そんなバカな。おそらく愛李は疲れてるんだろうな。今日から積極的に家事を手伝うようにしよう」
大事な妹と疎遠になった、過去と同じ過ちを犯さないように、大貴は心の中で強く決心する。2度と同じ未来を歩まないために。
『それに、あたし達、高校から付き合ってるけど、その時から全然好きでも無かったし、もし長く付き合っても結婚するつもりなんて微塵も無かったから』
硬い決心をした直後、婚約破棄の際に百香から送られたメッセージが、大貴の脳内にフラッシュバックした。最悪な記憶だ。
(高校から結婚するつもりは無かったか…。ということは、高校時代に何か有るんじゃないか。俺が知らない何かが。例えば、他人に知られたくない秘密とか)
朝ご飯を食べるために使っていた箸を食卓に置き、大貴は考え込むように両目を瞑る。しかし、全く分からない。見当も付かない。
だが、何かは有りそうだ。そんな感じがした。あくまで大貴の勘だが、何か百香のイメージを壊すような大きな秘密が有りそうだ。
(よし。これから高校生活を過ごす中で、必ず見つけてやる。百香の秘密をな。まぁ、有るかどうかは定かではないけど)
今後歩むであろう2度目の高校生活の目的を決めた大貴であった。
目的を決めた後は、2階に駆け上がった愛李を呼びに行き、一緒に朝ご飯を食べた。
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