第161話 桃子猫の家



『そうか…』


とりあえず命の無事と別の場所で

暮らしていること、

ただしままならない状況であることは伝えた。


『黒服が物を運び出してるのは、

そういうことだったんだ』

『はい、黒い服、何運んでる?』

『朝の九時くらいに毎日来るね、

大概は日用品だけど、

今日は青いキャリーケースを運んでた』

『なるほど』


小分けにして運ばせていることに、

桃子猫の意図を感じる。


『彼女の家、入りたい、鍵、ない』

『任せな』


おばさんが鍵を取りだして

オートロックを解除してくれた。

そして管理人室のような場所に着くと、

何やら小声で管理人と話し始めた。

高性能な翻訳機は会話を拾う。


『ちょいと訳ありでね、

2024号室の鍵を開けてもらいたいんだが』

『見返りは?』

『こいつで』


おばさんは財布を取り出して札を渡した。

そこまでしてくれるのか。


『よし、今開けた、五分後には閉める』


おばさんが振り向かずサムズアップをした。

ありがとうおばさん。

急いでエレベーターで二十階に上がる。

高層階は通路も豪奢なようだ。


「24号室24号室…これだ」


確かに鍵は開いている。

中に入ると鍵が閉まった。

ここが桃子猫の家か。

マンションの外装にに違わぬ立派な内装、

広い部屋。

まさに金持ちの家といった様相。

桃子猫の導くままにやってきたが、

ここからどうしよう。

おばさんが言うには、

黒服は青いキャリーケースを運んでいたらしい。

桃子猫が初めて日本に来た時、

確かピンクのキャリーケースを持ってきていた。

キャリーケースは少なくとも二つある。

気に入っていそうな色ではない

青を最初に持ってこさせた。

一度脱出した人間にキャリーケースが

運ばれるような待遇。

導き出される答えは…。

クローゼットを開けると、

何色ものキャリーケースが置かれていた。

どれも私くらいなら入れてしまうビッグサイズ。

旅行に持っていく色を迷っている

桃子猫を想像したが、

店でなく家で迷うというのが金持ちらしい。

見たところ左端の空間に空きがある。

ここに青のキャリーケースがあったのだろう。

だとすると私が入るのはその隣の赤か。

それとも隣のピンクか。


『ガチャ』

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