第145話 始まりの場所


始まりの場所。

桃子猫の手を離し、おもむろに寝転んでみる。

無言で見つめあう。

そして屈伸し始めた。


「ふふふ」


応じてこちらも屈伸する。


「へへへ」


懐かしさが込み上げてくる。


「ヨッコイショ」

「おとと」


確かにこういうふうに、

桃子猫を抱きかかえて寒さを凌いでいた。

その場しのぎとはいえ、

恥ずかしいことをしていたものだ。


「寒くなイ?」

「ええ、暖かいです」


歩くなら、水分を消耗しない今が最適だ。

だというのに、歩き出す気が起きない。


「行かなきゃネ」

「…はい」


桃子猫が惜しくも脚から離れていく。

彼女の方が目的意識がしっかりとしている。

見た目にすっかり騙されてはいるが、

彼女はやはり歳上なのだ。

立ち上がり、洞窟を出る。

景色は以前と全く変わらない、

砂の地平線に大小様々な岩が転がっている。


「あ」


人間の倍ほどの大きさの

カニが遠くで歩いている。


「桃子猫さん」

「ウン」


何も言わずに武器を構え、陣形を整える。

奴はこちらに気づいていない。

今ならいいのが入るだろう。


「火球」


やじりに火球をくっつけ、弓を引き絞り放つ。


『ゴッ』


上手く命中し砂埃が巻き上がる。

カニは余裕ありげに

こちらを発見し近寄ってきた。

まだ距離はある。

今度は眼球に狙いを定め、二矢を番え放つ。


「kiiiiiiiii!!!」


カニが勢いのまま地面を滑った。

砂埃が晴れると、着弾部分の甲羅は剥がれて

周辺が赤く変色しているのが分かった。

桃子猫がその隙を逃さず、

露出した組織に爪をぶち込んでグリグリする。


「ki…ki…」


カニは一瞬ビクンと身震いした後、

ピクリとも動かなくなった。

カニ味噌がぐちゃぐちゃになったのだろうか。


「やりましたかね」

「多分」


正直想定したより弱かったと感じてしまう。

火竜にあれだけ矢を用したのは、

火竜の火耐性ゆえだったのだろうか。

もしくは体力が桁違いに多かったか。

二匹共の完封勝利に少し浮き足立つ。

もしかすれば、

獅子巨人も

完封勝利できてしまうのではないかと。

そういう時に足元をすくわれるのがお決まりだ、

とは思っている。

しかし考えてしまう。


「ランさん」

「あ、はい」

「お腹空いた」

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