第78話 試合



訓練場。


「ランさんは魔法ナイけどイイの?」

「ダンジョンだと

近距離の肉弾戦が多くなると思うので、

むしろ好都合です」

「オケ」


互いに距離を取る。

開始の合図はどうしよう。

壁のレバーを倒して、案山子を出す。


「ン?」

「出し入れするのに時間差があるので、

無くなったタイミングで始めましょう」

「オケ」


仕掛けの振動が収まり、レバーを上げる。

案山子が無く…なった。

途端に緊張が充満し、桃子猫と見つめ合う。

冗談だったとはぐらかして、

すぐにいつもの二人に戻りたい気分。

ただここで戦いの練習をする以上に、

妥当な暇つぶしを思いつかなかった。

やるしかない。

すり足で、間合いを詰めたり引いたり。

こうしてみると、桃子猫のリーチはすごく短い。

対人戦などできるのだろうか。

初期武器のナイフならともかく、

槍や剣などには歯が立たないだろう。

いや、盾の腕輪のパリィがあるか。

示し合わせず、一度その効力を見てみよう。

徐々に近づき、腕輪に向けてナイフを振りかぶり、

降ろす。


『バチュ!』

「あ!」


振り下ろす力の、

その反対のあまりに強い力に押され、

ナイフを手放してしまう。


「しまッ」


言い終わる前に懐に潜られた。

そして腹に鉤爪が突き立てられる直前、

寸止めされた。


「え」


そして後ろに飛び退いた。

桃子猫のことだから、

潜った勢いのままブスリと

いくもんだと思っていた。

まあ刺さりはしないだろうが。

にしてもどうしたものか。

完全に負けていたのに、

決着が有耶無耶になってしまった。

桃子猫は戦闘態勢を維持している。

取り敢えず吹っ飛ばされたナイフを拾う。

盾の腕輪は既に収縮している。

今度はパリィを警戒して挑もう。

またすり足で近づく。

今度は右手側に回りこみ、

盾の腕輪のタイミングをずらす。

桃子猫ならそれも修正してくるだろう。

振りかぶる。


「!?」


だからこそフェイントが刺さる。


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