第59話 両者一色


「んオー」

「派手だなぁ」


染色屋と言うだけあって、

外装が過剰に染色されていた。

その逆で整然と並ぶ客のせいで、

より店先が混沌としている。

取り敢えずは、中に向かう列の後ろに着く。


「今日はよく並びますね」

「イーノイーノ、時間はまだアル」

「そうですね」


冒険者ギルドの時と同じように、

断続的に早く列が消化されていく。

中に入ると、それはそれは色に溢れていた。

このゲームを始めて初めて見る色。

それが全面に張り巡らされた内装は、

おもちゃの家に似ている。

その感慨にふける間もなく、受付に到着する。


「こちら染色屋カラフリーでございますー、

本日はどういった色をお求めでしょうか?」

「コレとおんなじヤツ」


桃子猫は自分の腕章を指差す。


「かしこまりました、銀貨三枚頂戴いたします」


言われた通り差し出す。


「お預かりしました、ではこちらを」


ピンクの結晶三つに透明な結晶一つ、

炭のような物が一つ出てきた。


「こちらの桃色の結晶は装備に一回触れると点に、

触れたまま引くと線に、

二回触れるとその部分の色がすぐに変わります、

近い色もご用意させていただきました。

透明な結晶は触れると染めた色が元に戻ります。

黒炭鉛は触れる強さに応じて

その部分の色を濃くします。

以上で説明を終わります、

奥の部屋にてご自由にお染めください。

染め終えた際には結晶の返却をお願いいたします」

「ハーイ」


試着室のような個室の前に通される。


「ジャーねー」


桃子猫が中に入る。


『ガチャガチャガジョン』


扉と鍵によって厳重に締められた。

覗き防止のためだろう。


「聞こえますかー?」

「ァ…ゥ」


音も通らないらしい。

まあ脱ぎ着して結晶でつつくだけなのだから、

それ程時間は取られないだろう。

取られない…はず。


『カチャカチャパタン』


心配を他所に、扉はすぐに開いた。

染めるのが簡単なこともあるのだろうが、

きっと配色が決まりきっていたからなのだろう。

毛色以外がピンク色に染まっても、

かなり様になっている。

渡された別のピンク色の使い方も上手い。

ファッショナブルな服を着こなしているのだから、

口を出すまでもなかった。


「ドウ?」

「すっごく似合ってますよ」

「へへへ…ア!」


桃子猫が背後を指さす。


「?」

『ツンツン』


振り向いたと同時に、何か固いものでつつかれた。


「一体何を…あー!」


ローブがいい感じのピンク色になっている。


「逃げロー!」

「こらー!」


無断で染めたのは許せないが、

如何せん上手く染まっているので強く言えない。


「店、出ましょうか」

「ウン」


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