第47話 極東アジア日本総司令官室

出演者(イメージキャスト)

 大川周明氏(疾患者)  役所広司

 堀田善衛(疾患者・元新聞記者)

 岡田 滋(疾患者・元准尉) 中村獅童

 肥田春充(体育家・周明の親友)

 杉浦誠一(疾患者・元従軍画家) 柄本 明

 山田欣五郎(性同一性疾患者・元海軍兵)

 首藤操六(疾患者・元参謀副長) 石橋蓮司 

 スミス(連合軍最高司令官付け・MP将校)

 ダグラスマッカーサー(極東アジア総司令官) リチャード・ギヤ


 ドアーを激しく叩く音が続く。

周明氏の少し甲高い声が司令官室に響き渡る。

周明氏はマッカーサー連合軍最高司令官に『敗者の七人の大義』を直訴し始める。


 周明「Please ask me MacArthur commander in chief.」


司令官は拘束された身体の動きを止め、周明氏を睨む。


 周明「When I'm quiet, I don't harm.」


首をゆっくり縦に振る司令官。

周明氏は肥田に眼で合図する。

肥田は司令官の顔から「猿ぐつわ」を外す。

司令官は顎を引いて胸を張る。


 司令官「What is it to want to say ?」

 周明「The Japanese future .」

 司令官「Future ? ・・・OK . I'll hear .」


周明氏は直立不動で皇居を拝謁(ハイエツ)、深々と一礼する。

すると、周明氏に倣(ナラ)い肥田、岡田、杉浦、堀田、山田がソファーを立ち、直立不動で皇居に向かい深々と拝礼する。

首藤も司令官の机の前から不動の姿勢で拝礼する。

周明氏はおもむろに、テーブルに並べられた七通の封書の「一通」を取り上げる。

封を切り司令官を睨(ニラ)み深々と一礼する。

司令官が頷(ウナズ)く。

取り出したザラ紙を広げて、おもむろに読み挙(ア)げる。


 首藤「首藤操六! 日本の大義」


首藤が司令官の机の前から、司令官の傍に歩み寄り、不動の挙手する。

司令官は『首藤操六』の全身を静に見る。

周明氏がゆっくりと、気合いの入った声で読み上げる。


 周明「一ッ。日本の米国植民地化に反対する。No, Colonization ! 一ッ。日本古来の伝統を変えてしまう事に反対する。No, Tradition is changed ! 一ッ。日本の教育を根本的に変えてしまう事に反対する。No, Educationis changed !」


司令官はうなずきながら首藤を見る。

周明氏は広げたザラ紙をたたみ、静かに封筒に仕舞う。

そしてまた、


 周明「二ッ、岡田 滋! 日本の大義」


周明氏は司令官を見る。

『岡田 滋』が司令官の前に歩み寄り、不動の挙手をする。

皮靴の踵のあたる音が。

司令官が岡田を見て、頷(ウナズ)く。


 周明「1, Do not colonize Japan. 2, The deram and hope are given to the young person. 3, Do not use the atomic bomb to fight.」


司令官は深く眼を瞑り天井を見てため息を吐き、


 司令官「・・・Yes.・・・OK・・・」


岡田の眼から感動の涙が滲み出る。

周明氏は続ける。


 周明「三。杉浦誠一! 日本の大義」


周明氏は司令官を一瞥。

司令官も周明氏を見る。

『杉浦誠一』はデッサン帳を小脇に抱え、司令官の前に一歩、歩み寄り深々と頭を下げる。

司令官は痩せた杉浦を見る。


 周明「一ッ。日本の伝統的教育を変えない事ッ!No, Education is changed ! 一ッ。日本人を洗脳しない事ッ!No, brainwashed ! 一ッ。頼母子講を続ける事。No, Financial system is changed !」


不動の姿勢で司令官を見詰めるの杉浦。

鉛筆を握りしめた手が震えている。


 司令官「? Financial system」


周明氏を見る司令官。


 周明「・・・Yes !」

 司令官「・・・OK !」


周明氏は肥田に目配せをする。

肥田は司令官の後ろ手の緊縛(キンバク)を解く。

司令官は解かれた手首を擦り、周明氏を見る。


 周明「四。堀田善衛! 日本の大義」


『堀田善衛』は司令官の前に歩み寄り、胸を張ってジッと司令官の眼を見る。

司令官が腕を組み、堀田を見る。

周明氏が読み上げる。


 周明「一ッ。言論の自由。Freedom of speech ! 一ッ。思想の自由。 Freedomof a thought ! 一ッ。行動の自由。 Freedom of behavior !」


司令官は堀田を見て、納得した様に二度うなずく。


 司令官「Yes, OK !」


堀田はマッカーサーを見詰めたまま微動だにしない。

周明氏は更に、


 周明「五。肥田春充! 日本の大義」


『肥田春充』が堂々と司令官の前に歩み寄り、睨む。

司令官は肥田を睨み、拘束された腕を擦(サス)る。


 周明「一ッ。体操の充実。Exercise !」

 司令官「Exercice ?」

 肥田「静かにッ!」


周明氏は更に言う。


 周明「一ッ。教育を受ける権利。The right to get education . 一ッ。病院を沢山建てる事。Many hospitals are built !」


司令官は肥田にウインクして、


 司令官「Yes !」


肥田は呆気にとられ、睨んだ顔が緩(ユル)む。

突然、司令官の机の上の電話が鳴る。

首藤が急いで司令官の机に戻り、電話のコードを抜く。

周明氏は続ける。


 周明「六。山田欣五郎! 日本の大義」


『山田欽五郎』が司令官に熱い視線を送り前に進み寄る。

司令官は奇妙な視線で山田を見詰める。

そしてじっと周明氏の言葉に耳を傾ける。


 周明「一ッ。女性の人権の取得。The female rights ! 一ッ。オカマの人権の取得。The homosexual rights ! 一ッ。戦争はやらない事。Abandonment of a war !」


司令官は山田の全身を見て、


 司令官『Homosexual ? Gender?・・・ Oh.」


司令官は頭を抱える。


 山田「何よ。文句(モンク)あるの?」

 司令官「・・・ NO, OK,Ok.」

 山田「・・・だいじょぶ? この人」


司令官は全員の顔をゆっくり凝視して行く。

そして、


 司令官「キミタチハ、ナニモノダ?」

 周明「・・・日本(ニッポン)だ!」


司令官は全員を見回し、


 司令官「・・・キミタチハ、ヒーローダ。ヨク、ココマデキタ」


司令官はもう一度、周明氏を見て、


 司令官「OK ! Everything will grant your request .」


周明氏が六人に向かって、この言葉を大声で訳す。


 周明「マッカーサー元帥は、すべての・・・要望を叶えると言っている」


六人は顔を見合わせて、


 岡田「勝ったッ! 勝ったぞ。俺達は連合軍に勝ったーッ。マッカーサーに勝ったんだッ!」


六人の眼から涙が溢れ出る。

司令官がソファーから立ち上がる。

六人が俯いて泣いている。

司令官室のドアーの鍵を開ける音が。

ドアーが開く。

MPの将校スミス達、八人が銃を構えて部屋に入って来る。

ナンシーは開いたドアーの向こうから茫然と見詰めている。


 スミス「フリーズッ!」

 MP(A)「ハンド アップッ!」

 MP(B)「ドン フリーズッ!ハリー、ハリー!」


MPの一人が拳銃を構え、全員を壁の前に集めて立たせる。


 スミス「バックッ! ノウ! バックッ! ハリー! ハリー!」


七人全員は後ろを向きで壁を見て薄笑いを浮かべる。


「参 考」

スミス(連合軍最高司令官付け・MP将校)

                     つづく

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