星のステップ!

大創 淳

Episode 001 想い出のように、繰り返される世界。


 ――教室から、学校からも飛び出した。何もかもを置き去りに。



 置き去りにされたのは僕の言葉。この空のように真っ白な、浮かぶことのない言葉の群れ。息も白く冷たい感じの風。季節は冬……一月十三日ということはわかる。


 年号は昭和。昭和五十七年。

 この日、僕の時間は止まった。十五歳の僕は、永遠の十五歳となった……


 地に足が着く感覚も、見えるもの、聞こえること、何と言ったらいいのか、時間の流れる感覚さえ、区別がつかなくなっていた。そう、もうこの時には。


 でも、心に残っていること。


 それは初子はつこ先生のこと。僕の担任の先生。聞こえたものは、彼女の声……

 それが最期に聞いた声。彼女の顔を見ないために、僕は下を向かなかった。


 ――飛んだ。


 小鳥が飛ぶように、飛んだのだ。

 ……この先も、この後も脳内から消えて、真っ白な空に身を預けながら掻き消された。


 そこには、もう痛みはなかった。


 屋上から飛び降りたことを機に、痛みはもうないのだ。

 肉体も、今ある記憶もなくなる。……そう思っていた。


 本当の自由? 束の間か、或いは瞬間か、それさえもわからない世界。とにかく真っ白な世界。空白が無限に続く、そう喩えても過言ではない。しかも、どうして?


 目の前にあるのは、学校。


 繰り返す想い出のように、何故か戻っているのだ、同じ場所に……

 記憶も消えていなかった。それが証拠に、僕はまだこの名前なのだ。


 ――星野ほしの旧一もとかず


 まずは入ってみることにする。目の前にある学校に。それに風景も存在している。酷似しているのだ、普段の世界観そのものを再現しているように。でも地を踏む感覚は……



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