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上海アオリン
第1話 いきなり左遷かよ!!(涙)
黒祭妖介は、自分の運の無さにうんざりしていた。
「なんで、俺がこんな目に遭うんだ」
本当なら、俺がこの会社の若きエースで、二十代で最年少の取締役になって、三十代には社長になり、YouTubeもやって登録者は100万人であっというまにインフルエンサー。毎晩六本木ヒルズのペントハウスに、女優さんやアイドルを呼んでパーティの日々。Jリーグのチームのオーナーになって、いつかはニューヨークのメジャーリーグの球団も買収する。
そんな夢も、一年も立たないうちに消えてしまいそうだ。
大学では無理やり勧誘された体育会の合気道部に断り切れずに入り、いやいやながらも就職に有利だと思って辞めずに続けた。論文もノーベル賞取るつもりで頑張った。
私生活は確かにちゃらかったのは認める。でも例え二股をかけたことが何回かあって、下校途中に駅前で待ち伏せされ、包丁振り回されたことがあったとしても、それが自分の努力を打ち消すものではない。
日本を代表するコンツェルン八卦財閥が、新規事業として立ち上げた日本最大のオンラインショップの運営会社『アマテラス』。それは就職人気ランキングの上位に来るあこがれの会社だった。
日々精進と努力の甲斐があって、妖介は『アマテラス』に入社することができた。そして研修が終わり配属されたのは、社内でも花形と言われる営業企画部だった。
同期のみんなはさぞかしうらやましがっているだろう。早くも俺はエリートコースに入ったなのだと、妖介は天狗になった。
将来は八卦一族に気に入られて、社長の家に婿入りしたりして。バラ色の未来を想像するだけで、妖介は幸せだった。
しかし、妖介は同期の中で強制的に配置転換されられた最初の社員になった。勇者から踊り子への転職の方がまだましかもしれない仕打ちだった。
それというのも、あのミミック女のせいだ。
みんなの配属が決まった後の同期の飲み会に、なぜかやって来た一年上の先輩。ちょっと抜けてそうな感じで、髪が長くて目が大きくて、綾瀬はるかをAIが現実的に加工したら、こんな感じじゃないかって顔で。そんなお姉さんに膝に手を乗せられ、「もう一軒行く?」なんて言われたら、ついて行ってしまうのは自分のせいではない。
その後は、べろんべろんになって、気が付いたらホテルのベッドの中で、合気道というより総合格闘技的な絡み合いの後だった。
朝起きて、「あちゃあ。やべえ」って思っても後の祭り。
そして神様は実に優秀だった。まさかホテルから出たところを、風俗嬢と朝帰りのミミック女の親父に見つかるとは。
「パパだ!やば」
「あああああ!夏美ちゃん」
波平さんに似た男は、ミミック女の親父でうちの会社の専務だった。
修羅場の方がまだましだった。
夏美ちゃんことミミック女は、なぜか急に会社を辞めてサンフランシスコの学校に留学に行ってしまった。
そして、妖介には異動の辞令が渡された。
本当に運がない。そもそも妖介っていう名前が悪い。
何でも婆ちゃんが、有名な占い師だか祈祷師だかに付けてもらったらしい。妖しいものを介錯するっていう意味らしいんだけど、普通は「陽介」とか「洋輔」でしょうが。
子供のころから名前のせいで、随分とえらい目にあってきた。妖介はいつも自分の名前を苦々しく思う。
婆ちゃんからは「うちは代々神様を守るお姫様にお仕えする由緒正しい家柄なのよ」と、言われてきた。
自称平家の子孫だとか、聖徳太子の末裔だとか、世の中には掃いて捨てるほどいるだろう。
神様だとかお姫様だとか、それよりも更に胡散臭い話だ。
迷信でつけられた名前さえ違っていれば、自分の人生は完璧だったと妖介は思っている。
「婆ちゃん、とんでもねえことしてくれたよ」
これだけ科学技術の発達した二十一世紀に占いやまじないを信じるなんてありえない。
勿論、今度の左遷は名前には関係なく自分自身のゆるい下半身そのものに原因はあるのだが、とにかく妖介は自分のせいにはしたくなかった。
人事部からの呼び出しは、死刑宣告に違いないと思った。
とても憂うつな気持で人事部へ行くと、そこで妖介が命じられたのは、カスタマーサービス部第4サービスセンターという部署への異動だった。
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