カメが行く

森 三治郎

第1話 イケメンの王子様


「おらおら、ドンガメ、頭引っ込めてんじゃねえよ」


「エロい頭出してみろよ」


「エロいとは、ヒドイです~ぅ。いくらカメの頭でも、エロい亀頭きとうと一緒にしないでください~」


清心高校二年の清宮たちが、校舎の裏山でカメをイジメていた。

そこへ、三年の浦島うらしま たいが通りかかった。


「楽しそうね。私にもまぜて」


「あっ、鯛あねさん。助けてください」


「私にも、まぜてよ~」


鯛は、カメをひっくり返した。


「ほらほらほら」


鯛がカメを回した。あっけに取られていた清宮たちも、面白がってカメを回し始めた。


「おうおう、回る、回る」


「やっほう、回るう~」


「ひえ~、目が回るう~。助けてぇ~」


カメはクルクル回された。


「あっ、鯛姐さん。僕、イケメンの王子様知ってますう」


「えっ、今、何と・・・・」


「だからイケメンの王子様ですぅ~」


「止めな」


ようやく、回転は止まった。


「ホントか」


「ホントですう~」


「ほら、小遣いやるから、お前たち帰りな」


鯛は清宮たちに金を渡した。


「ごっざぁんです。姐さん」


清宮たちは、浮かれて帰っていった。


「さっ、案内」


「ようがす、付いてきてください」




カメは右に傾きながら、ふらふらと歩きだした。校舎を出、商店街を抜け、歓楽街に入った。

まだ、宵の口にも程遠い。準備中の人が、ちらほら働いていた。


「あっ、カメさん。デートかい。スミに置けないね~」


「いいや、違うんだけど~」


カメはこの界隈でも、知られた存在らしい。前から、出勤前のホステスらしい二人組が通りかかった。


「あら~カメさん。久しぶり~・・・・えっ、何ぶら下げてるの。まっ、真っ昼間から、やる気まんまんなの」


「え~いやらしい~。ヘンタイ~デバガメ~」


「えっ、えええ~」


カメは、ぶらぶら揺れる物をぶら下げていた。


「バカ野郎―。そんな物、ぶら下げて歩いていいのかよ~」


「すみません。目が回って、身体がいうことをききません。少し休まないと」


カメは、ふらふらとラブホテルに入って行った。


「バカ野郎―。どさくさに紛れて、ラブホに連れ込むつもりかよ~」


「そんなつもりは~。身体が勝手にかしいで、右に右に傾いてしまって本当は反対の森の方に行くつもりだったのに」


「しょうがないドンガメだな。今、タクシーを呼ぶから」


「姐さん、タクシーを呼ばなくとも王子様付きの運転手を呼びましょう」


「何だい、始めからそうすりゃいいじゃねえか。やっぱり、ドンガメだな」




 しばらくすると、黒のベンツ600Sが来た。上下真っ黒な制服と、警察官似の制帽、黒いマスク運転手が後部ドアを開け、「ようこそ、ご案内申し上げます。どうぞ」と導いた。

カメは助手席に乗った。運転席側と後部座席には、透明なアクリル板の仕切りがあった。


「帰りには、お土産みやげがあるそうですよ」


カメが振り向き、言った。


「お土産ですか、何でしょう」


「貴重な物です」


何か、シュウ~と音がしたら、鯛は急に眠くなった。



鯛が目覚めると、ソファーに掛けていた。


「コーヒーをお持ちしました。よろしかったら、どうぞ」


運転手がコーヒーを持って来た。執事も兼ねているらしい。いや、執事の方が本業なのかも知れない。

部屋に窓は無かった。照明は弱めで薄暗く、少し湿っぽい感じがした。調度品は、渋く高級品っぽい


「ありがとう」


「先ほどは、大変失礼をしました。王子殿下のお妃選びは極秘中の極秘でして、秘密裡に行っております。なお、成立不成立に関わらずお土産も用意してあります。後ほど、殿下がお見えになります。しばし、お待ちを」


『お妃探しをしてるんだぁ』鯛は、頬が紅潮するのを感じた。


「お待たせ~」


王子が登場。ミドリのスカートみたいな、後ろにつばめの尾みたいなのが伸びている。上着は金のボタンがいっぱい付いた軍服みたいな、頭には水戸黄門の頭巾ずきんのような物。口はミドリのマスク。全身ミドリずくめ、ミドリが好きなのか。目だけは、切れ長の少しツリ気味の大きな目。なるほど、イケメンっぽく見える。

王子様となると、ファッションセンスも浮世離れしてる。全身、ミドリずくめだし。


「初めまして、浦島 鯛です」


「ようこそ、いらっしゃいました。キュウです」


「キュウさま?」


「まっ、どうぞ。お掛け下さい」


対面といめんにキュウが座った。

「お飲み物を」と執事が差し出したものは、青汁だった。王子の好みらしい。


「鯛さん、お美しい」


「やだ~」


ついクセが出て、鯛はキュウの頭を叩いてしまった。黄門頭巾が飛び、頭が露わになった。


「・・・・・⁈」


フランシスコ・ザビエル風の頭頂がハゲた髪型が現れた。

変わった髪型、おまけにハゲてる。服装、ファッションセンスが独特。ところで、歳はいくつ何だろう。鯛は疑問が次々と湧いてきたぁ。

鯛は何気にキュウのマスクを引っ張った。


「あっ⁈」


大きなくちばしがあった。


「んんん・・・・カ、カッパあああぁ~」


“シュー”すかさず執事がスプレーを吹きかけた。


「だから言ったでしょう。人間の女はムリだって」




 郊外の大型スーパー店舗前のベンチで、鯛は目覚めた。

また、眠らされたようだ。“ブルッ”と震えがきて、悪夢が蘇った。

隣にはカメが居る。目の前には大きな箱があった。


「お土産だそうですぅ」


お土産か、何か一つぐらい良いことがなくちゃねぇ~。

開けてみると、キューリがぎっしり詰まっていた。


「カァメエエエエェェー!」

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