第5話 風邪

金曜日。今日は、かづくんの配信日だ。楽しみだ。


「はいおはようございます。今日は、高木が欠席です。他になにか報告しなきゃいけない人いるか?…いなさそうだな。HRはこれで以上。授業の準備をしてください。」


赤瀬先生が一気にそう言うと、先生は教室を出ていってしまった。


「(高木くん、今日休みなんだ…)」


隣の席の人がいなくて寂しいというこの感情は初めてかもしれない。

いや、もしかしたらなのかもしれないけれど。


ヴーヴー


スマホになにやら通知が来たようだ。あ、かづくんだ。


――皆様への謝罪


通知欄にはそのような文字が書かれていた。


え、なになになに。謝罪とか怖すぎるんですけど!?引退しますとか?そんな事言われたら私生きていけないよー!!!


ちょっと、柚木。少し落ち着きなさい。見た目だけで判断しないの。ちゃんと全部見てから感情を言いなさい。


私は恐る恐る通知をタップする。


『皆様への謝罪

皆さまこんにちは、かづです。いつもお世話になっております。

今日の夜に予定していた配信ですが、風邪を引いてしまい体調が万全な状態ではないため、お休みさせていただきます。日曜日までに治せるように安静にしてます。

ただの風邪だからみんな心配しなくていいからね。』


すべてを読み終えた私、ふと頭の中で思うことがあった。


高木くんの声はかづくんに似ている。

高木くんは、無意識で「俺」というがかづくんもそうである。

高木くんは今日風邪で学校を休み、かづくんも風邪で配信をお休みする。


高木くん=かづくん


こう疑ってもおかしくないところまで来た。

逆にここまで共通点が重なるなんてことある?私はないと思う。


これは世の中を見なさすぎ、とかそんなんじゃなくて普通にないと思う。


これはもう、高木くんのことをかづくんと思っても良いんじゃないか?


私は早速、かぞく(かづくんのファンネーム)のトークで、


『もしかしたら、かづくん私と同じ学校かもしれない』


と打ち、送信ボタンの手前で私の手は止まった。


待てよ?仮に私がここでそう発言したとして、住所を特定されたら?かづくんの身がバレたら?全ての責任は私に振りかぶってくる。


これはファンとしてやってはいけないことだ。やめよう。しかも、かづくんが高木くんなのかもわからないのにそんなデタラメなこと言ったらだめだ。


私はすぐに携帯をバッグにしまった。



****



帰宅後。


今日の配信結構楽しみにしてたんだけどなぁ…でも風邪なら仕方ないか…

風邪なのに無理してファンに笑顔を届けられたら逆に心配になっちゃうもんな…


今日は大人しく過去の動画見ますか…

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