episode.34

パウルの裏事情まで知ってしまったシルヴィは冷や汗をかきながら顔色を悪くした。


(完全にやられた)


シルヴィにはと言う選択肢を持たせた上で

完全にパウルの戦略に乗せられたと言う訳だ。


「そない顔しんといてやあ~、僕が悪いみたいやん」


睨みつけるシルヴィにパウルは怖がる仕草をしながら言うが、顔は勝ち誇っている。

それが非常に腹立たしいが、それ以上に自分の不甲斐なさに腹が立った。


自分の家の為にこの人とお見合いをしたことが全ての元凶だった。

この人と出会ってなければマティアスは怪我をすることもなかったし、総監であるアルベールにいらない世話をかけるまでもなかった。


(時間を巻き戻せるなら巻き戻したい!!)


残念だがそんな事ができるはずもなく、現実は待ってくれない。


「さあ、君の意見なんてもんはあるようで無いもんやけど、一応聞いとこか?僕の嫁さんになってくれはる?」


ここで「はい」と言うことは簡単だろう。

だが、一応シルヴィにもプライドってものがある。


(このままこの人の好き勝手させてたまりますか!!)


こうなれば女は度胸!!命なんて惜しくない!!まあ、心残りがあるとすれば総監様に一目会って拝み倒したかったことぐらい。


(………総監様………)


シルヴィはグッと拳を握り、意を決したようにパウルと向き合った。


そして


「私は、貴方と──……」


バンッ!!!


「シルヴィ!!!!」


シルヴィの言葉を遮る様にドアを蹴破り部屋に入ってきたのはアルベールだった。


その姿はいつもの白衣姿ではなく、騎士のような装いに手にはしっかり剣が握られている。


「……あ、あわわわわわわわ!?!???」


シルヴィは言葉にならないほど驚き、興奮し、歓喜していた。


(な、なにが、何が起こっているんだ!?)


これは、幻か!?総監様を一目見たいと言う願望が具現化したのか!?


自身が夢を見ているのか現実なのかよく分からなくなっていた。


そんなシルヴィを見たアルベールは、ホッと安堵の表情を浮かべた。更にその後ろから「ちょっと……」と、マティアスが顔を出すのが見えた。


「こっちは怪我人なんだから少しは考えて……って、ああ、シルヴィ。無事かい?」

「マティアス大佐!?」


変わらぬ笑顔を向けてくれたが、まだ身体はしんどそうで壁にもたれかかっていた。


「重傷な人が何してるんですか!?」

「ははっ、シルヴィが心配でさ。──というのは建前で、やられたらやり返すってのが僕のやり方なんでね」


鋭い目付きでパウルを睨みつけるマティアスだったが、どう考えても動けるようには見えない。

あの身体で一体どうやってやり返すって言うんだ?と呑気に思っているシルヴィをパウルが逃がさんとばかりに背後から抱きしめるように捕まえている。


「ようここまで来れたな。……うちのモンはどうした?」

「僕らを舐めてもらっちゃ困るよ。一度勝てたからって二度目も勝たせる訳ないだろ?」


マティアスの言葉にパウルが眉間に皺を寄せて明らかに苛立っている。


「……大佐が動けんのに偉い自信があるようやね」

「そりゃあ、彼がいるからね」


マティアスの視線の先にはアルベールがいる。

その言葉の意味が分からず、シルヴィは元よりパウルも「???」となった。


総監様がいるから?ん?いくら怪我をしても大丈夫って事?

いや、そもそも動ける状態じゃない。

じゃあ、一体……?


「彼は僕の師匠だよ」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」」


シルヴィだけではなくパウルまでもが声を上げた。


「あはははは!!知らないのもしょうがない。何十年も前の事だから覚えている者も少ないしね」


総監様が師匠で……師匠が総監様……?


短時間に衝撃的な事を聞きすぎたシルヴィの思考は最早まともに機能していない。

気を失っていないだけ偉いと褒めて欲しいぐらいだった。


「当然、僕より強いよ?」


クスッとマティアスが微笑んだのと同時にアルベールが動いた。

パウルもシルヴィを腕に抱いたまま、剣を取り出した。


(この状態で殺り合うのは勘弁してくれ!!!!)


耳元で剣のぶつかり合う音が聞こえ、生きた心地がしない。

それどころか剣が目の前を掠める様子に気を失いそうだ……


きっとパウルはシルヴィを離さない。

アルベールの弱点はシルヴィだと分かっているから。

いざとなったらシルヴィを盾にでも使うつもりなのだろうか。


たが、そんな事アルベールが許すはずもない……

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