episode.20
「私が君の婚約者になる」
衝撃的な告白を聞いて、シルヴィはその場に石像のように固まったまま思考をめぐらせた。
どうゆう事だ?何故、総監様が婚約者になるって話になっている?
ああ、私が良く知りもしない男と縁を組もうとしているから気にしてくれてるのか……
いや、何で総監様が気にする必要がある!?
正直、今までの態度からすれば喜んで送り出されるとすら思っていたシルヴィ。一応、そこら辺の自覚はあったらしい。
あっ!!もしかして、憎い子ほど気にかけるって事!?
憎さ余って可愛さなんとやらとはよく言ったものだ。
そう考えれば何となく腑に落ちる。
だが、たかがそれだけの理由で自分の人生を投げ捨てる様な事をこの人がするか?それは否だ。
(ん~~考えれば考えるほど沼る……)
「なんだ?私では不満か?」
「いえいえいえ!!とんでもない!!」
「なら問題なかろう?」
返事のないシルヴィに痺れを切らしたアルベールが声をかけた。
確かに不満はない!!正直、総監様の申し出は嬉しい!!だが、問題はある!!
それは、アルベールが推しだと言うこと。
シルヴィは推しと恋愛はご法度だと考えている。
推しを恋愛対象にしてしまうと、嫉妬や独占欲などの汚い感情まで生まれてしまう。
推しに対してそんな感情向けるなんて烏滸がましいにも程がある。
なので、アルベールとの結婚があるかないかと言われたら無しなのだ。
「あの、総監様の申し出は大変、本当に、心の底から嬉しいのですが、お断り致します」
「……………なに?」
刺すような目で睨まれヒュッと息を飲んだ。
「い、いや、総監様と私とでは分不相応だと思うんです」
「……そんなものは大した問題では無い」
「よく考えてください!!私ですよ!?実家は貧乏だし、見た目も十人並。身体付きも特別いいとは言えませんし」
「私がいいと言っているんだ。問題ないだろう」
いくら自分を卑下してもアルベールは一歩も引かない。更にシルヴィの実家に見合いを断るよう伝える為、ペンを走らせようとしていた。
このままではマズいと思ったシルヴィは強行突破に出た。
「そんな事言っても総監様とだけは結婚出来ません!!私は自分に見合った相手と結婚します!!その為にまずはお見合い行ってきます!!止めても無駄ですよ!!こうなった私を止めれる人はいませんからね!!では、ご機嫌よう!!」
「あ、おい!!」
止めるアルベールの声を聞かずシルヴィは執務室を飛び出して行った。
残されたアルベールは断られたショックに体が動かずにいた。
アルベールは見た目はいいし高収入。爵位も一応侯爵を持っていて俗に言うスパダリ男子。
そんな自分に見向きもせず、知りもしない男を取ったという事実がアルベールを襲ったのだ。それこそ鈍器で殴られたような衝撃だった。
毎日執拗いぐらい自分に寄ってくる癖に結婚の話を持ち出したら無理だと?
段々と衝撃が怒りに変わり始めた。
好意もないのに執拗く付き纏っていたのか!?眼鏡を付けていれば誰でもいいのか!?
ダンッ!!と力強く机を殴ると、その衝撃で書類がバラバラと散らばった。
「……まあ、いい。私の知った事ではない」
カチャと眼鏡をかけ直すと、散らばった書類に目をやった。
あれほど必死になって申請を通すために頑張ってきたが、そんな事もどうでも良くなってしまった。
「はぁ~………………」
椅子に深く座り、背をもたれてながら目を瞑った。
目を瞑ると映し出されるのはシルヴィの笑顔ばかり。
そのまま妄想は進み、シルヴィが男とお見合いする様子が映し出され、その男に微笑み返すシルヴィ。
そのまま二人は仲良く手を繋ぎながら街を散策し夕暮れまで楽しみ、夕日の見れる丘で二人は抱き合いそのまま顔を近づけていって……
「───ッ!!!!!!!」
ガタンッと大きな音をたてて椅子から立ち上がった。
まさか自分がこんなくだらない妄想をするなんて……
信じられないと机に両手を付き俯いている。
それとは別に、シルヴィが自分以外の者に笑顔を向けていることに苛立った。
「何なんだこの感情は……不快で仕方ない」
このままでは仕事にもならない。
アルベールはガシガシと頭を搔くと、執務室から出て行った。
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