第6話 面接

 午後の面接は、召喚術のテストを行った大きな部屋で行われた。

 午前中にはなかった大きな暗幕が部屋をふたつにわけていて、面接はその暗幕の向こう側で行われた。

 幕が張られているだけに見えるけど、むこう側の音は全く聞こえない。


 面接は受験番号順、5人ずつだった。

 だから、ユウリは早々に呼ばれていなくなってしまった。

 イーアの番はずっと後だ。

 待ちくたびれて眠くなっちゃった頃に、ようやくイーアの番号が呼ばれた。

 

「はい、次、46番から50番の人、入ってください」


 イーアはあわてて立ち上がって、他の受験生たちといっしょに5人並んで暗幕の中に入っていった。


 暗幕の中には、受験生用のイスが5つ並んでいて、その正面に今までの試験でも見かけたグランドールの先生たちが5人いた。

 先生たちの後ろにはたくさんイスが並んでいて、そこに魔導師たちが座っていた。

 魔導師用のイスは20個くらいは並んでいた。だけど、室内にいたのは数人だけだ。しかも、魔導師たちは、みんなやる気がない表情で、関係ないおしゃべりをしている人たちもいる。

 イーアはそれを見て悟った。


(そっか……。番号が後ろの方だから、はじめから期待されてないんだ……)


 受験番号が成績順なのは、今までの試験の結果で、もう明らかだった。

 どの試験でも、受験番号が最初の方の生徒はみんなすぐに成功して、後ろの方の生徒は失敗ばっかりだった。


「では、46番から一人ずつ、簡単な自己紹介をしてください」


 そう試験官の先生が言った。

 受験番号46番のきりっとした女子生徒は、はきはきと言った。


「キャシー・ソーヤです。得意科目は自然魔法と占術です」


 46番の自己紹介が終わり、47番の受験生が自己紹介を始めた頃。

 奥の暗幕が開き、魔導師が一人入ってきた。


 暗い雰囲気の人だ。

 髪の色も服の色も全部黒い。

 無表情で妙に眼光が鋭かった。

 それに、老人ばかりの魔導師たちの中で、ひときわ若かった。まだ20代後半くらいに見える。

 室内にいた魔導師たちはそちらをふりむき、それから、みんな落ち着かない雰囲気になった。「まさか……」「ウェルグァンダルの……」そんなささやき声が魔導師達から聞こえた。


(なんか、ものすっごく怖い感じの人だぁ……)


 そう思っていると、イーアの番がまわってきた。


「49番。49番、自己紹介をしてください」


「あ、ハイ」


 イーアは名前を言い、それから、他の受験生たちが言っていたように、自分の得意な科目を力をこめて言った。


「イーアです。得意なのは、召喚術です。召喚術ならだれにも負けません!」


 そこにいた魔導師たちが、一瞬ざわついた。

 まるで、イーアが何か恐ろしいことを言ったかのように。

 そして、不気味な沈黙が漂った。

 イーアはわけもわからず後悔した。

 よくわからないけれど、なにか、悪いことを言ってしまったみたいだった。


 ひととおり、全員の自己紹介が終わると、46番から順番に魔導師たちの質問を受けることになった。

 誰も質問する者がいなかったら、代わりにグランドールの試験官の先生が質問する、という感じで進んで行った。

 そして、イーアの番がやってきた。

 試験官の先生がたずねた。


「49番の受験生に質問のある方はいらっしゃいますか?」


 部屋の中が、不気味にシーンとした。

 後から入ってきた怖い雰囲気の若い魔導師が紙に何かを書きつけていた。その音だけが響いている。

 魔導師の手からはなたれた紙片がイーアの方へと空中を滑るように飛んできた。


「呼べ」


 若い魔導師はぶっきらぼうにそう一言だけ言った。


(あの人、怖いよー)


 そう思いながら、イーアは紙片を受け取り、そこに書かれた文字を見た。

 これは召喚に使う精霊語だ。精霊語で書かれている。

 何かを召喚する呪文のようだけど、イーアは見たことがなかった。

 でも、意味はわからなくても、発音はわかる。


(よし。集中して呼ぼう!)


 イーアは、集中して呪文を読み上げていった。

 

(だれだかわからないけど。お願い。来て……)


 心の中でそう願いながら、イーアは待った。

 だけど、数秒たっても何も起こらなかった。

 イーアはあせりだした。

 魔導師たちは誰も何も言わない。イーアに指示を出した怖い雰囲気の若い魔導師も何も言わない。

 数十秒たった。

 まだ何も起こらい。


(失敗……?)


 そう思った時。

 まぶしい光が出現した。

 小さな小さな獣が空中に浮かんでいた。 

 初めて見る召喚獣だ。


 赤青黄白黒5色の毛並みが美しくて、とてもまぶしい白い炎でできた翼をもつ、きれいな一角獣だ。

 でも、体長5センチくらいしかない。


「かわいー」


 イーアが試験を忘れてそうつぶやくとと、美しい霊獣は小さな炎を吐きながら怒ったように言った。


『たわけ。身の程を知れ。感謝せよ。誰がためにわざわざ足を運んでやったと思うてか。まったく』


 美しく荘厳そうごんな霊獣はそんなことを精霊語で言って小さな炎を吐くと、すぐに消えてしまった。


 そして、室内には再び沈黙が漂った。

 召喚術の試験官をしていたグランドールの先生が目を見開いて固まっている。他には、なんの変化もない。


(これって……失敗?)


 召喚獣は、出てきたことは出てきたけれど、言うことを聞かずに何もしないで帰ってしまった。

 あの召喚獣をいままで見たことのないイーアには何が成功なのかがわからない。でも、すぐ消えてしまったから、たぶん、ちょっと失敗しているのはまちがいない。

 イーアは思わず両手で顔を隠した。


(あちゃー。召喚術では負けないとか、さっきえらそうに言っちゃったから、失敗すると、すっごく恥ずかしいよー!)


 イーアは指の間から、おそるおそる部屋の中の様子を見た。

 怖い雰囲気の若い魔導師は無表情で無言のまま立ち上がり、暗幕の向こうへと去って行った。

 グランドールの召喚術の先生が、あわててその後を追うように部屋を出て行った。


「49番の受験生への質問は以上でよろしいですね。それでは、50番の人に質問がある方……」


 そのまま、面接は何事もなかったように、進んで行った。

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