第5話 私のこと口説かない?
水無月紫音は身を乗り出してPCをのぞき込む。
一応、俺のいう事を聞いて
水無月、いやもう心の中では紫音と呼ぼう。
無意識というか、小説に気を取られて胸が俺の背中にくっついてるの気付いてないだろ? こんな事なら、ノーブラを注意なんてするんじゃなかった!
いま思えばこんなチャンス二度と巡って来ない!(泣)
「優斗〜〜なんで交通事故にあったら異世界ってとこ行くの?」
「優斗〜〜なんで、こんなに都合よく女子にモテモテなの? なんで努力もしないで、最強なの?」
「優斗〜〜なんで、注目されてないハズレスキルで最強なの? 普通になくない?」
はぁ……それが異世界転生の
俺は机のPCを占拠され、あろうことか水無月紫音に自作小説のダメ出しを食らっている。
いや、膝の上に座られて……ご褒美か?
これは日頃の行いに対してのご褒美なのか⁉
気を取り直して俺は言ってやったさ「異世界って、そういうものなの」って。
なんなの、その目。
どうせ、童貞が考えることはこの程度か、とか思ってるんでしょ、まったくもう……コレだから素人は。
コレが鉄板っていうやつなんだよ、由緒正しい異世界の在り方!
どうせダメ出しをされるんだろ、ハイハイわかってますよ、オリジナリティあふれてません。
こういうのならウケるでしょ、そのおこぼれ欲しいな的な男です。
「内容はわかんないけど、読みやすいよ、優斗の文章」
えっ、いや、いま
「優斗。この話さ、ウケてるの?」
「ハハッ……ウケてません」
「そうなんだぁ……コレって私のスマホからも読めるの?」
「このウエブサイト『カキコム』に会員登録したらね、無料だし……」
そう言いながらも、知り合いに読まれるのは正直キツい。でも、褒めてくれたし……
「質問なんだけど、何書いてもいいの?」
「基本はね。
「そうなんだぁ……じゃあ、極端じゃないエロならいいのね……」
そう言って俺の小説の最新話まで読んでくれた紫音は『カキコム』のトップページを閲覧しながら、言った。
「恋愛モノもあるのね……」
あるのは知ってる。
だけど、あまり興味がないので読んだことない。たぶん、女性向けなんだろうと、勝手に思っている。
「ここに書いたら誰にでも読まれちゃうの?」
「誰にでも……いや、俺の会員限定公開とかも出来る。そんなコアなファンいないけど」
正直。日々思ってる。
才能無いよなぁとか、全然読まれないよなぁとか、何がダメなんだろ、全部か、とか。
だから紫音に「読みやすいよ」って言われて、すごく、救われた気分だ。
ちなみに俺がネット小説を書いてるのは芽衣も知らない。
異世界なんて興味ないだろうし、教えたら読んで欲しくなるし……困らせたくない。
コツコツやってることが、困らせるとか。究極の自虐だ。
「優斗さぁ、私のこと口説かない?」
「えっと、どういう意味? 神楽坂いますが?」
「ん……私ね、口説かれたことないのね。大地と付き合い始めたのも、ノリっていうか……嫌いとかじゃないよ? でも、なんか恋愛してるっていう実感ないのよ。実際。優斗の小説のモフモフさん? なんか
モフモフさん。猫耳の獣人ツンデレ娘。
そういう見かたするんだぁ、なんか新鮮。
それに「羨ましい」なんて言ってもらえるなんて、思いもしなかった。コメ欄はろくな書き込みないから。
でも、口説くって。
俺には芽衣がいるし、紫音にも神楽坂という彼氏がいる。
今こんな状況だから流されて、とか思ったけど違った。
「ねぇ、優斗。私を口説く小説書いてよ、実名で」
***
「つまりパラレルワールド的な?」
「パラレルワールドがわかんない」
「えっと、実際にある世界と同じ世界観で、何ていうか俺が水無月紫音に恋してる感じ?」
「そう! それ! あっ、でも……一応現実に忠実にっていうか……優斗は白鳥と、私は大地と付き合ってて、こんな感じにこっそり会うの。でね、その世界の私は優斗に寝取られちゃうの」
「えっと、確認だけど一線越える感じなの?」
「それはもう、一線も二線も(笑)私が優斗にメロメロにされてる、みたいなの」
「エッチな表現も?」
「そりゃ、あるよね。その世界の私は優斗に寝取られちゃってて、その初めてを捧げると申しましょうか……優斗の最初の女になったみたいな?」
俺は少し考えた。
まったく受けない異世界書いてるより、反応がある1人のために書くのも勉強になるし、この企画正直めっちゃ面白そう。
「ダメかな?」
「ダメとかじゃないけど、一応『カキコム』って過激な性表現って規制されるから」
「さっき言ってた優斗の会員限定の場所は? 優斗が許可しないと入れないの?」
「ん……そうだけど」
「あっ、でもせっかく書くなら公開したいよね」
それも一理ある。そうなると、それなりに朝チュン表現になる。
いや、それはいいけど規制に掛からないか気にしながら公開するなら、非公開の方がいい。
「やってみようか」
「マジ⁉ えっ、なに? 未来の大先生に私だけの小説を書いてもらうワケ⁉ うわっ、ちょっと涙出そう」
そう言って紫音は目の淵に薄っすら涙を溜めた。
口先だけじゃない、感激してくれている。俺みたいにまったくPVもブックマークも持ってない書き手に……
思春期をそれなりに
「俺も……その」
「なに?」
「えっと……その『読みやすいよ』とか初めてで……けっこうコメ欄とか酷評とか割とあって」
ダメだ、なんで俺は泣きそうなんだ。こういうのは一人のときに、いくらでも出来るのに……
「
「好きでやってるから、そういうのは別にっていうか」
「優斗って嘘下手。好きなこと悪く言われて辛くないわけないよ」
「なんで、水無月が……紫音が泣くの」
「なんでかなぁ、わからないけど、たぶん私ね、男子が
そう言って水無月紫音は俺の頬を伝う涙に唇を重ねた。
頭をもみくちゃにされて「よしよし」してくれてるようだ。
俺も戸惑ったけど、同じように紫音の涙を唇で受けた。苦い涙。
そんな俺を見て紫音は涙顔で笑おうとするけど、うまくいかない。
「優斗。ヤバいよ……私ね、優斗とキスしたい。私したことないの、言ったよね。優斗もだよね、優斗はどう? 何にも感じない?」
「感じる。俺も水無月……紫音とキスしたい」
唇を重ねかけた。
そう1センチもない距離。紫音は目を伏せ唇が震えていた。
その顔に俺は話しかけた。
「知ってるか? もしこれがラブコメなら、仕事に行ってるはずの父さんが起きてきて『なんだ、お客さんか?』みたいになって、寸前で飛びのくんだ」
「知ってる、漫画でよくあるよね『あわわ!』な感じのでしょ?」
「そうそう!」
とりあえず俺達は高まった感情を笑いで逃げた。
何事も未経験なふたりなんだ。これくらいでちょうどいい。
□□□作者よりのお願い□□□
お疲れ様です!
「次回投稿が楽しみ!」
「いや、そこはキスしとけよ‼」
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