Side Ruby:①お姫様とメイドの内緒話

 どうしよう、すごいドキドキする。

 これからどうなるのかを想像するだけで、頭が熱くなりすぎて爆発しそう。

 

『グラッド様が冷静なら、いきなり押し倒されることはないでしょう』


 ロベリーはそう言ってたけど、押し倒される可能性はゼロではないのよね。 うーん、でも何にもされないのもお腹が立っちゃうのよね……その辺りは難しいわ。

 とはいえ、予測が外れてグラッドが本能のままに襲ってきた場合。抵抗は難しい。


 ワタシの力が強いだの手加減しろなんて注意してくるけど、それに真実と嘘が入り混じっているの知ってるんだから。

 グラッドが本気を出せば、ワタシなんか簡単にどうにかできちゃうんだって。でも、あなたはそれをしないでしょうね。


 そういう人だから。

 自分が傷つくのをいとわず、誰かが傷つかない事を優先する人だから。


 あなたは友人になってくれる。たとえそれが吸血鬼と人間の間に生まれ、忌み嫌われた兄妹でも。


 困ってる人を救ってくれた。関われば巻き込まれるのを承知の上で、その身を賭して。


 でもね、グラッド。

 その生き方は本当に素晴らしいものだけれど、同時にこうも考えちゃうの。



 ――傷ついたあなたの苦しみは、一体誰が癒してくれるの――?

 


 それが今回の切っ掛け。

 あなたが知らない、ワタシの物語。








「ねぇ、ロベリー。人間の男の人って何をしてもらったら喜ぶかしら」

「……はい? 何故突然そのようなことを?」


「ちょっと気になったの! そんな『この人、頭大丈夫かしら』みたいな目で見ないでくれる!?」

「誤解です。いつ私がそんな目で主たるルビィ様を見たのでしょうか」


「じゃあ答えてよ。男の人って何をしたら喜ぶのかしら? 喜ぶだけじゃなくて、癒されるとなお良いんだけど」


「そうですねぇ。私はグラッド様と直接お話しした事がないので、正確性に欠けるのですが……」

「ちょっと。なんでグラッドだってわかったのよ?」

「ルビィ様が毎日のように『会いたい会いたい会いたいよー』とお嘆きになられてましたので」

「そんな言い方じゃなかったでしょ!? もっとこうニュアンスが違うやつで――」


「いずれにせよお会いしたいのは間違いないんですよね?」

「…………うん」


 これでも大分我慢した方ではあるのだけど、グラッドに会いたい気持ちはどんどん膨らんでいく。

 あの人の血が欲しい欲求も重なってるのがよくない。吸血鬼は血を吸わないといけない種族だけど、誰のでもいいわけじゃないのだ。

 

 簡単に言えば気に入った相手の血が欲しくなる。

 たとえば好きな人なら、わかりやすすぎるくらいに血が欲しくなる対象になる。


「お会いになるのはルビィ様が本気を出せば叶うと思います。ですが、喜ばせたり癒したりとなると話が変わってきますね」


 そもそも何故そんな事をお考えに?


 そう言いたげなロベリーは大事な相談相手。恥ずかしいけど隠す事なく理由を話したわ。


「グラッドはずっと旅をしているわ。道中、トラブルが付きものの孤独な旅をね。ワタシとお兄様が出会った頃には、もうそうだった」

「それは存じております。旅の途中、窮地のダスカービル様とルビィ様の兄妹を助け、吸血鬼と人間の不仲を改善する切っ掛けを作ったのですよね」

「そうなの、あの時のグラッドはすごかったわ。そもそも、いつもすごいんだけど」

「すいません、ルビィ様のグラッド様自慢が始まると話が進まないので戻して頂けると……」


「むっ、わかってるわよ! で、グラッドは自分にかかった呪いを解くために旅をしてるわけだけど、それはすごく大変で疲れるものだと思うのよ」

「……まぁ、そうでしょうね」

「だから、私がその疲れを癒してあげたいなって。そのための方法としてグラッドが喜ぶようなことは何かないのか、あなたに相談してみたわけ」


「となれば、グラッド様が何で喜ぶか次第ですね。ルビィ様はグラッド様の好きな物等はご存じですか?」

「……あんまり、知らないわ。お兄様とは楽しそうに手合わせしてたのは知ってるけど」


「ではルビィ様が手合わせしてみるとか?」

「前に言ってみたけど、ワタシに怪我させたら困るからって断られたわ」

「では食べ物はどうでしょう。グラッド様の好物を用意するのです」

「その好物を知らないのよね……。基本食べれる物はなんでもイケるらしいけど」


「むむむっ、となると残るは……」

「残るは?」

「『女』ですね!」


 これまでの意見とはレベルの違う力強さで、ロベリーが言い切った。

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