考察・学生主人公の一人暮らし:⑤(終)

 ひとしきり考察が終わった所で、今度は現実での一人暮らしのメリット・デメリットを考えるフェーズへと移行した。一人暮らし経験者も視聴者の中にいるし、そうでない視聴者も「一人暮らしだったらこんな感じだろうな」と、色々と意見を出し合ってくれた。


『きつね四郎:まぁ統括すると、一人暮らしだと自分の思うままに過ごせるという所が最大の魅力と皆さん思っている感じですかね』

『オカルト博士:きつね四郎が仕切ってて草』

『燈籠真王:まぁでもきつね四郎君って一人暮らし経験者だし、そこは大目に見てあげても良いだろ』

『レイレイ:そうだぜ。俺らは一人暮らしやった事無いしな』


「言われてみれば、燈籠真王さんもレイレイさんも仲間の方と一緒に過ごされてますもんねぇ」

「逆にきつね四郎さん以外で一人暮らしなさっていたのって、サンダーさんとハチミツキさんでしたっけ。今は常闇之神社の総本山で他の神使の妖たちと共同生活を行っている訳ですが」

「うーむ。やっぱり雷獣って一人暮らし率が高いのかなぁ」


 穂村たち三兄妹で話し合っていると、きつね四郎がコメントを投げた。


『きつね四郎:今回は僕が識者ポジなので。それはさておき、そろそろ一人暮らしで気を付けたい所とかお話しても良いですか?』

『ユッキー☆:構わんで』


「ええもちろん。どうぞ教えてください。僕らも参考にしたいので!」


『きつね四郎:特に気を付けるべき所は食事・健康・セキュリティの三点ですね。もっと言えば一人暮らしは自分で好きなように暮らせてしまうので、油断しておかないと堕落してしまう恐れもあるんです。まぁ、その辺は皆さんもお気づきなので割愛しますが』

『ハチミツキ:一人暮らしでダレるってのは何となく解るぜ』

『オカルト博士:皆騙されたらあかんで。きつね四郎は案外マメな所があるから、一人暮らしでも堕落せずやっていけてるだけやで』

『ユッキー☆:それは俺も思う。なんせ朝起きてから弁当作り→使い魔の世話→奥さんと朝の散歩→スキンケア→出社というのをずっと続けとる変態やで』

『ネッコマター:しれっと挟まれたスキンケアが草』

『ジアンブルー:まぁ最近は男の子もそう言う所を気にする子もいるからね。きつね四郎君は美意識がバチクソ高そうだったから妥当でしょ』

『きつね四郎:お肌と尻尾の手入れはデキる妖狐の嗜みなので』


 この辺りで否定せずに堂々とコメントを返すのが、やはり源吾郎らしいと穂村は思った。スキンケア云々はさておき、源吾郎の美意識の高さは言動の節々で感じ取っていたからだ。


「それではきつね四郎さん。そろそろ本題に入りましょうか」


『きつね四郎:ああすみません。まずは食事についてですよね。これは健康と絡む話にもなるんですが、やっぱり食材をより安く入手して、なるべくロスを出さないように使うという所が注意点でしょうか。特に一人暮らしだと、食材を持て余してしまう事もままあるそうですし』

『絵描きつね:これもう主婦の発言じゃないか』

『レイレイ:だからきつね四郎も性別不詳な感じが出てるんだな。いや、実際には男って知ってるんだけど』

『りんりんどー:何でことごとく男狐が女っぽくなるんだよ(呆れ)』


「食材の調達、ですか。そう言えば僕たちも、あんまりその辺は考えて無かったかもしれません」

「ううん。その辺はお姉さんたちの買い出しにくっついて、それで勉強しないといけないわよね」


 源吾郎の解説を前に、穂村とミハルは思わず唸ってしまった。

 恥ずかしい話だが、食料の価格などと言った部分については、他の庶民妖怪よりも疎い事は解っていた。穂村たちは現在のところ、雷園寺家の屋敷で一族の者や使用妖たち共に暮らしている。買い出しやら日常の雑事については、分家の末端の者や使用妖が担っているのだ。穂村たちも諸般の事情で丁稚扱いだったのだが、今思えばさほど大した仕事は回ってきてなどいなかった。


「キメラ兄さんとかサニーはその辺は疎いけれど、やっぱりきつね四郎さんは、買い物をする時からその辺を意識してたって事で良いんすよね?」


『きつね四郎:もちろんです。やっぱり食事は死活問題ですし、僕個人としても安く済ませたいと思ってましたからね。実際、あちこちのスーパーを巡って安い品を探してます』

『トリニキ:きつね四郎が時々自転車で爆走してるのは見かけるで』

『燈籠真王:自転車で爆走は草』

『やみさき:何か可愛いと思う』

『きつね四郎:ママチャリは良いぞ……頑張れば十キロのお米を荷台に乗せて、前のカゴにはお肉とか野菜を入れて輸送できるからな……何より遠くまで行けるのが良い……』

『レイレイ:車は使わんのか? まぁ俺らは急ぐときは転移術使うけど』

『きつね四郎:車はガソリン代が掛かるので、遠出する時くらいですかね』

『物書きアトラ:きつね四郎ニキは体力があるから、自転車でも結構遠くまで行けるんやろうなぁ』


「そう言えば、ユッキー☆兄さんは、自転車に乗れるって話を何処かで聞いたよね」

「うん。そんな話もいつだったかあったよね。だけどサニー。今の僕らには自転車はから、乗るのは難しいかもね」


 調べてみると、所謂ママチャリと呼ばれる類の自転車は二十キロ程度、より軽いマウンテンバイクであっても八キロから十キロはあるという。

 一方の穂村たちはというと、体重は三キロから七キロ程度である。兄妹の中で比較的大きい開成や時雨でも、五キロから七キロ程なのだ。妖怪ゆえの膂力というのもあるにはあるが、それでも自転車を操るには穂村たちは軽すぎたのだ。


『ラス子:アタシも時々自転車は使うけどねぇ』

『ユッキー☆:まぁラス子ネキは体重が結構あるから大丈夫なんでしょ』

『森ちゃん:重たい物の持ち運びをアシストする護符もありますからね。お求めはこちらのサイトまで!』

『きつね四郎:アフィカスやめろ』

『絵描きつね:きつね四郎イライラしていてこわい』

『まっつん:まぁ森ちゃんはこういう所あるからしゃーない』


「……お次はセキュリティの話ですね」

「確かに、安全に過ごせるかどうかって結構気になりますもんね」

「そうそう。人間界の話だけど、最近は物騒な事件も多いからさぁ」


『きつね四郎:何なら多少治安が良くなるまで、キメラ君たちは実家で暮らしていた方が良いんじゃあないかなとは思うんですがね』

『MIKU♡:それだったら何十年・何百年も先にならんか?』

『おほほなみ:それだったらそもそも治安が良くなる日が来るのかって問題もありますしおすし』

『トリニキ:とはいえ、キメラ君たちも妖怪だから、人間の悪党なんぞ物の数には入らないのでは?』


 その後若干のコメントが流れたものの、セキュリティ対策についての話に流れていった。と言っても、最初はやはり戸締りをきちんとするといった、かなり基本的な話から入っていったが。


『きつね四郎:特に女性の一人暮らしの場合は、それと悟られないようにする事も考えないといけませんよね。例えば外から見えるカーテンとかにも注意しないといけないんです。あんまり可愛らしい柄とか色合いだと危険なんですよね』

『オカルト博士:表札とか洗濯物とかがあるだろうに、いの一番にカーテンに言及するのがきつね四郎らしいなぁ』

『りんりんどー:やっぱりきつね四郎さんは女子力が高いんやなと』

『絵描きつね:そらもうきつね四郎君は女子力の権化みたいなやつだし。その点では、俺も嶺慈も敵わんと思う』

『ユッキー☆:そんな所で神使たちを凌駕していてもなぁ……』


「やっぱりカーテンって、部屋の外側から見えるんで結構重要ですよね」

「うーん。でも障子と雨戸のある部屋だったら、敢えてカーテンを使わなくても良いかもって思うんすけど」

「そりゃあまぁお屋敷だと和室も多いけど、アパートとかマンションだったら洋室も珍しくないし」


 そんな事を話していると、源吾郎が一時的に離脱した。その影響もあるのか、ここぞとばかりに研究センター関係者からコメントが投げられる。


『だいてんぐ:言うてきつね四郎君は未だに研究センターの居住区で暮らしているんです。だから立地的にもセキュリティは万全ではあるんですよね』

『トリニキ:何せ雉仙女様の縄張りの中で暮らしているようなもんやもんな。何なら要塞レベルかもしれんで』

『ネッコマター:要塞レベルのセキュリティって気になるわ』

『りんりんどー:そもそも雉仙女様がいらっしゃる時点で最大の防犯なのでは? 雉仙女様って柊と互角かもしれないんだから』

『だいてんぐ:うちの上司はそんなに強くないですけどね。まぁ確かにそう言う側面もありますが、それ以外にもセキュリティは完備しているんです』

『隙間女:そもそも結界が張り巡らされていて、無関係なヒトは特定のエリアに入れないようになっているんですよね。実を言えば、私やきつね四郎君であっても、入れない場所やそもそも存在すら気付かないエリアって、研究センター内にあるんです』

『りんりんどー:結界術の使い方って色々バリエーションがあるんですね』

『だいてんぐ:もしかしたら、そっちの世界の〈庭場〉に近いかもしれませんね。もちろん、そうした結界を突破した場合の対策もあるんですがね。まぁデストラップもありますし、研究センター内には強力な番犬もいる訳ですし』

『やみさき:その番犬って、もしかして隙間女ちゃんの事……?』

『ユッキー☆:そうだよ(震え声)』

『隙間女:敵と判断した場合は喰い殺しても……いえ撃退しても構わないと言われているんで』

『絵描きつね:隙間女ネキこっわ』

『月白九尾:そら単騎で魍魎の群れを捕食できるんだから普通の妖怪では無いだろ』

『ハチミツキ:これもう番犬じゃなくて狂犬だろ』

『物書きアトラ:ティンダロスの狂犬、若しくはヘルハウンドかな?』

『まっつん:こんなのがいる研究センターって本当にすごい所だと』

『だいてんぐ:と言っても敵判定した相手でなければ襲ってこないので大丈夫ですよ』


 そして最後は健康に関する話となった。こちらについてはさほど大げさな話でもない。病気で倒れた時、自分で対処しなければならないという話だ。というよりも、病気にならないように食事や自己管理でどうにか健康を維持した方が良いのだと源吾郎は語っていた。

 その辺りも、何というか源吾郎らしい。


『きつね四郎:とはいえ、急に体調不良になる事だってあるにはあるんですよね。家族がいればそう言う時も助けてくれるでしょうけれど、一人暮らしだと自分で自分を助けないといけない。その辺りも心に留めておいた方が良いんです』

『燈籠真王:カッコいい発言やな』

『トリニキ:まぁ言動はイケメンだからね』

『きつね四郎:具体的に言えば、急にお腹を下してウンコを漏らしてしまった場合、自分でそれを片付けなければならないって事なんです。自分の情けなさや汚れた廊下を思ってむせび泣いても、でもやっぱり手を動かさなければ何も始まらない訳なので』


「え」

「おや」

「きつね四郎さん、今ウンコって言いました……?」


 真面目な論調の中に出てきたとある単語、というよりも話の流れに、穂村たちは驚きの声を上げた。というか開成などは、直接その単語を口にしてしまっている。

 もちろん、コメント欄も黙ってはいられない。


『モッチー:カッコいい事を言いながらウ○コとか言うな(憤怒)』

『トリニキ:いやいやきつね四郎のクソコメは貴重やで』

『りんりん:クソコメ(火の玉ドストレート)』

『レイレイ:というかとんでもなくリアルな話じゃないか。まさかの実体験か』

『きつね四郎:生きていればそう言う事もあるんです。まぁ体調不良とか病気じゃなくて、単なる食べ過ぎだったんですが』

『物書きアトラ:ここで変に誤魔化さないのが男らしいわ』

『ユッキー☆:そこはたとえ話とかフィクションだって誤魔化して欲しかったやで』

『オカルト博士:まぁきつね四郎。戦場カメラマンだってウンコを漏らした事があるって言うし、何なら自分もNGSした事は取材で何度もあるし』

『絵描きつね:オカルト大先輩の謎のフォローが草』

『サンダー:美しい兄弟愛……なのか?』

『だいてんぐ:話の内容が絶望的にきたないんですがそれは』

『月白九尾:まあでもきつね四郎君ってあんまりお酒を飲まないし、酔ってリバースって話よりはリアリティはあるわね』


 源吾郎の発言のインパクトが強すぎて、穂村たちも視聴者たちも、そっちに意識が向かってしまったのだ。

 とはいえ、一人暮らしはやっぱり大変なのだという結論に落ち着いたので、満更悪くもないのかもしれないが。

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