子供達と神々の神楽 ～赤の章～

子供の悩み Ｂパート

「さて、小（こ）太（た）郎（ろう）。お前（まえ）は彼（かの）女（じょ）を紹（しょう）介（かい）しなくて良（い）いのか？」

　葉（よう）司（じ）達（たち）を見（み）送（おく）った清（きよ）重（しげ）は、小（こ）太（た）郎（ろう）に向（む）かってそう言（い）うと、富（と）女（め）は赤（せき）面（めん）し小（こ）太（た）郎（ろう）は清（きよ）重（しげ）を怒（おこ）る。

「清（きよ）重（しげ）！」

「そう怒（おこ）るな。それに其所（そこ）は、相（あい）槌（づち）を打（う）つ所（ところ）だろう。やはりお前（まえ）は父（ちち）親（おや）みたいにはいかんな」

　本（ほん）気（き）で少（すこ）し怒（おこ）っている小（こ）太（た）郎（ろう）と、そんな小（こ）太（た）郎（ろう）を小（こ）馬（ば）鹿（か）にしてそう言（い）った清（きよ）重（しげ）に、北（ほく）斗（と）は不（ふ）安（あん）そうに言（い）う。

「まぁまぁ小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）。清（きよ）重（しげ）さんも……」

　更（さら）に北（ほく）斗（と）は、教（きょう）室（しつ）からベランダに出（で）るガラス戸（ど）の鍵（かぎ）を開（あ）けようとする。

「三（さん）人（にん）共（とも）ちょっと待（ま）ってて、今（いま）ガラス戸（ど）の鍵（かぎ）開（あ）けるから」

　北（ほく）斗（と）が刻（とき）代（よ）、小（こ）太（た）郎（ろう）、富女（とめ）に向（む）かってそう言（い）うが、刻（とき）代（よ）は開（あ）いてる窓（まど）によじ登（のぼ）って教（きょう）室（しつ）に入（はい）り、それを見（み）た太（たい）耀（よう）が言（い）う。

「伏（ふし）見（み）さん。スカートでソレは、女（おんな）の子（こ）としてはしたないよ」

「確（たし）かに、女（おんな）の子（こ）が男（おとこ）の前（まえ）でする事（こと）では無（な）いな」

　そう清（きよ）重（しげ）も続（つづ）けるが、刻（とき）代（よ）は二（ふ）人（たり）に言（い）い返（かえ）す。

「今日（きょう）は、ロングスカートだから平（へい）気（き）よ」

　刻（とき）代（よ）はそういい終（お）ると、富女（とめ）の方（ほう）に振（ふ）り向（む）いて聞（き）く。

「貴方（あなた）は如何（どう）する、そのスカートなら大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）そうだけど？」

「おい、刻（とき）代（よ）の姉（ねえ）ちゃん！」

　怒（おこ）る小（こ）太（た）郎（ろう）の横（よこ）で、富（と）女（め）は俯（うつむ）いて首（くび）を横（よこ）に振（ふ）った。

　それを見（み）て刻（とき）代（よ）は思（おも）う。

（さっきまでの様（よう）子（す）を見（み）ると、風（かぜ）の坊（ぼう）やはこの子（こ）を本（ほん）当（とう）に気（き）に入（い）っている様（よう）ね。それでこの子（こ）の方（ほう）は大人（おとな）しい感（かん）じか……）

　刻（とき）代（よ）がそんな事（こと）を考（かんが）えていると、北（ほく）斗（と）が鍵（かぎ）を開（あ）けガラス戸（ど）を開（ひら）く。

　　ガラ ガラ ガラ

　開（ひら）いた出（で）入（い）口（ぐち）から、小（こ）太（た）郎（ろう）と富（と）女（め）が教（きょう）室（しつ）に入（はい）ると、富（と）女（め）の名（な）札（ふだ）を確（かく）認（にん）した後（のち）に、刻（とき）代（よ）が富（と）女（め）に自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）を始（はじ）める。

「私（わたし）は前（まえ）に、全（ぜん）校（こう）朝（ちょう）会（かい）で小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）と一（いっ）緒（しょ）に紹（しょう）介（かい）されたから、多（た）分（ぶん）知（し）ってるわよね。伏（ふし）見（み） 刻（とき）代（よ）って言（い）うの、小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）とは知（し）り合（あ）いなんだけど……　友（とも）達（だち）で問（もん）題（だい）無（な）いかしら、小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）？」

　刻（とき）代（よ）がそう言（い）って、小（こ）太（た）郎（ろう）に話（はな）しを振（ふ）ると、小（こ）太（た）郎（ろう）は笑（え）顔（がお）を作（つく）り返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「オイラもそう思（おも）ってるから問（もん）題（だい）ねぇよ」

　更（さら）に小（こ）太（た）郎（ろう）に続（つづ）き、北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）も富（と）女（め）に自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）を始（はじ）める。

「ボクは小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）の友（とも）達（だち）で、白（しら）石（いし） 北（ほく）斗（と）」

「僕（ぼく）は日向（ひゅうが） 太（たい）耀（よう）。同（おな）じく小（こ）太（た）郎（ろう）の友（とも）達（だち）」

　北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）がそう言（い）い終（お）わると、富（と）女（め）は少（すこ）し驚（おどろ）いて小（こ）太（た）郎（ろう）に聞（き）く。

「小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）、五（ご）年（ねん）生（せい）に友（とも）達（だち）居（い）るんだ？」

「 嘉（か）助（すけ）もそうなんだ。後（あと）、さっき居（い）た葉（よう）司（じ）って言（い）う兄（にい）ちゃんも」

　小（こ）太（た）郎（ろう）がそう言（い）ったので、富（と）女（め）は小（こ）太（た）郎（ろう）に澪（みお）の事（こと）を聞（き）く。

「それじゃ、あの小（ちい）さい子（こ）は？」

　すると太（たい）耀（よう）が言（い）う。

「アイツはどう思（おも）ってんだろうな、小（こ）太（た）郎（ろう）とは知（し）り合（あ）いだけど？」

「さっきの子（こ）は、ボク等（ら）と同（おな）じ組（クラス）の天（あま）池（いけ） 澪（みお）君（くん）」

　更（さら）に北（ほく）斗（と）が富（と）女（め）にそう言（い）ったので、驚（おどろ）いて聞（き）き返（かえ）す。

「あの子（こ）、五（ご）年（ねん）生（せい）だったんだ！」

「後（あと）は恵（え）理（り）花（か）ぐらいかしら。それより、どうしてこの組（クラス）に来（き）たの小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）？」

　微（ほほ）笑（え）みそう言（い）った刻（とき）代（よ）に、小（こ）太（た）郎（ろう）は恥（は）ずかしそうに言（い）う。

「新（あたら）しい友（とも）達（だち）が出（で）来（き）たから、紹（しょう）介（かい）しようと……」

「清（きよ）重（しげ）さんは、彼（かの）女（じょ）の事（こと）知（し）ってたんですか？」

　太（たい）耀（よう）が清（きよ）重（しげ）にそう聞（き）くと、清（きよ）重（しげ）は答（こた）える。

「あぁ。実（じつ）は茶（ちゃ）色（いろ）い霧（きり）が出（で）た日（ひ）に、小（こ）太（た）郎（ろう）の教（きょう）室（しつ）に鬼（おに）が現（あら）われたらしくてね……」

　その言（こと）葉（ば）を聞（き）いた北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）、刻（とき）代（よ）は驚（おどろ）く。

　刻（とき）代（よ）の反（はん）応（のう）を見（み）た清（きよ）重（しげ）は、話（はな）しを変（か）えて言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「もしかして、小（こ）太（た）郎（ろう）や先（せん）生（せい）から聞（き）かなかったのかい？」

　すると北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）、刻（とき）代（よ）は首（くび）を縦（たて）に振（ふ）る。

（今（いま）の反（はん）応（のう）を見（み）ると、やはり俺（おれ）達（たち）を監（かん）視（し）している訳（わけ）では無（な）いか……）

　清（きよ）重（しげ）がそう考（かんが）えていると、小（こ）太（た）郎（ろう）が清（きよ）重（しげ）に言（い）う。

「オイラ達（たち）、先（せん）生（せい）達（たち）に口（くち）止（ど）めされてたんだよ。他（た）の子（こ）供（ども）が不（ふ）安（あん）に成（な）るからって、お前（まえ）にもそう言（い）った筈（はず）だけど？」

「そうだったか？　まぁその事（こと）が有（あ）ったんで、心（しん）配（ぱい）に成（な）って、話（はな）しを聞（き）く為（ため）に家（うち）に遊（あそ）びに来（き）てもらったんだ」

「まぁ皆（みんな）の予（よ）定（てい）が合（あ）わなくて、集（あつ）まったのは日（にち）曜（よう）だけどな」

　そう言（い）った小（こ）太（た）郎（ろう）の言（こと）葉（ば）で、刻（とき）代（よ）は理（り）解（かい）する。

（だから東（とう）京（きょう）には来（こ）なかった訳（わけ）か。風（かぜ）の坊（ぼう）やの友（とも）達（だち）を集（あつ）めた理（り）由（ゆう）は分（わ）からないけど……）

　刻（とき）代（よ）がそんな事（こと）を考（かんが）えていると、知（し）ってか知（し）らでか小（こ）太（た）郎（ろう）が言（い）う。

「コイツがクッキーを焼（や）こうとか言（い）い出（だ）した時（とき）は、皆（みんな）流石（さすが）に驚（おどろ）いたよ」

　それを聞（き）いた刻（とき）代（よ）は、物（もの）凄（すご）い怪（け）訝（げん）そうな顔（かお）をした。

「どうした刻（とき）代（よ）の姉（ねえ）ちゃん。もしかして姉（ねえ）ちゃん、お菓（か）子（し）は女（おんな）が作（つく）る物（もの）だと思（おも）ってるタイプか？」

　小（こ）太（た）郎（ろう）にそう言（い）われた刻（とき）代（よ）は、北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）が、不（ふ）思（し）議（ぎ）そうに自（じ）分（ぶん）を見（み）ている事（こと）に気（き）付（づ）き思（おも）う。

（しまった……）

　刻（とき）代（よ）は、自（じ）分（ぶん）が場（ば）違（ちが）いな顔（かお）をしていた事（こと）を理（り）解（かい）する。

　清（きよ）重（しげ）の正（しょう）体（たい）を、過（か）去（こ）に京（きょう）の京（みやこ）を襲（おそ）った鬼（おに）で有（あ）ると知（し）っていれば、誰（だれ）もがお菓（か）子（し）作（づく）りの話（はな）で、顔（かお）を怪（け）訝（げん）そうにするだろう。

　但（ただ）しソレは、正（しょう）体（たい）を知（し）っていればの話（はな）し。

　小（こ）太（た）郎（ろう）の現（げん）状（じょう）だけ説（せつ）明（めい）され、更（さら）に現（げん）場（ば）に女（おんな）の子（こ）が居（い）たので有（あ）れば、清州毛（げ）の行（こう）動（どう）は、親（しん）戚（せき）の子（こ）供（ども）の為（ため）に行（おこな）った行（こう）動（どう）としか理（り）解（かい）されないだろう。

　現（げん）に北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）は、お菓（か）子（し）作（づく）りの話（はな）しに、何（なん）の反（はん）応（のう）も示（しめ）していない。

「違（ちが）うわ。格（かっ）好（こう）言（い）いお兄（にい）さんが、お菓（か）子（し）作（づく）りする事（こと）に違（い）和（わ）感（かん）が有（あ）っただけ」

　刻（とき）代（よ）が小（こ）太（た）郎（ろう）にそう返（かえ）すと、清（きよ）重（しげ）が笑（え）顔（がお）で刻（とき）代（よ）に言（い）う。

「元（もと）々（もと）物（もの）を作（つく）る事（こと）は嫌（きら）いでは無（な）いし、家（うち）では嗣（つぐ）次（じ）も小（こ）太（た）郎（ろう）も不（ぶ）器（き）用（よう）で、私（わたし）が家（か）事（じ）を引（ひ）き受（う）けているんだ。君（きみ）達（たち）は御（ご）両（りょう）親（しん）の手（て）伝（つだ）いはしているかい、小（こ）太（た）郎（ろう）は余（あま）り手（て）伝（つだ）ってはくれないが」

「そんな事（こと）は無（な）い！」

　清（きよ）重（しげ）の言（こと）葉（ば）に小（こ）太（た）郎（ろう）がそう言（い）い返（かえ）すと、北（ほく）斗（と）が続（つづ）ける。

「ボクは、たまにするぐらいかな？」

「私（わたし）も、たまにする」

　富（と）女（め）がそう続（つづ）けると、刻（とき）代（よ）が言（い）う。

「私（わたし）は有（あ）る程（てい）度（ど）、家（か）事（じ）は自（じ）分（ぶん）で出（で）来（き）るわよ。お兄（にい）ちゃんに教（おそ）わってるの」

「伏（ふし）見（み）さん、お兄（にい）さんなんて居（い）たんだ」

　そう太（たい）耀（よう）が刻（とき）代（よ）に言（い）うと、刻（とき）代（よ）は言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「歳（とし）が離（はな）れていて、隣（とな）りの市（し）で働（はたら）いてるのよ」

「僕（ぼく）は、料（りょう）理（り）以（い）外（がい）は手（て）伝（つだ）うようにしてる」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）うと、北（ほく）斗（と）がクスクス笑（わら）いながら説（せつ）明（めい）する。

「太（たい）耀（よう）君（くん）プラモ好（す）きだけど、手（て）先（さき）だけは不（ぶ）器（き）用（よう）だもんね」

「北（ほく）斗（と）、余（よ）計（けい）な事（こと）は言（い）わなくいい！」

　少（すこ）し不（ふ）機（き）嫌（げん）そうに、そう言（い）い返（かえ）した太（たい）耀（よう）は、続（つづ）けて清（きよ）重（しげ）に聞（き）く。

「それより、僕（ぼく）達（たち）と話（はな）したいなんて清（きよ）重（しげ）さん、どう言（い）う事（こと）ですか？」

「それは、床（とこ）屋（や）と言（い）うのは子（こ）供（ども）からお年（とし）寄（よ）りまでやって来（く）る。私（わたし）達（たち）は基（き）本（きほん）的（てき）に、お客（きゃく）さんと会（かい）話（わ）をしながら髪（かみ）を切（き）るんだけど、テレビや新（しん）聞（ぶん）、雑（ざっ）誌（し）だけだと情（じょう）報（ほう）が偏（かたよ）るんだよ。君（きみ）達（たち）だって、知（し）っている話（はな）しの方（ほう）が会（かい）話（わ）し易（やす）いだろう？」

「なるほど。子（こ）供（ども）のお客（きゃく）が来（き）た時（とき）の、情（じょう）報（ほう）収（しゅう）集（しゅう）って事（こと）ですか？」

　そう言（い）って、太（たい）耀（よう）が清（きよ）重（しげ）の説（せつ）明（めい）に納（なっ）得（とく）すると、清（きよ）重（しげ）は微（ほほ）笑（え）み、子（こ）供（ども）達（たち）に言（い）う。

「そう言（い）う事（こと）。小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）も澪（みお）君（くん）もそうだけど、君（きみ）達（たち）この学（がっ）校（こう）区（く）だと目（め）立（だ）つからね。そこで……」

　そこまで言（い）った清（きよ）重（しげ）は、廊（ろう）下（か）側（がわ）の教（きょう）室（しつ）の壁（かべ）の死（し）角（かく）に隠（かく）れていた、五（ご）年（ねん）生（せい）の子（こ）供（ども）二（ふ）人（たり）に近（ちか）付（づ）く。

　隠（かく）れて居（い）たのは、二（に）組（くみ）の美（み）玖（く）里（り） 結花（ゆか）と、がっしりした体（たい）格（かく）の大（おお）柄（がら）な一（いち）組（くみ）の少（しょう）年（ねん）、伊（い）東（とう） 克（かつ）男（お）。

　そして清（きよ）重（しげ）は、床（ゆか）と克（かつ）男（お）に尋（たず）ねる。

「悪（わる）いけど、君（きみ）達（たち）にも聞（き）きたいんだ。良（い）いかな？」

　そう言（い）われた克（かつ）男（お）と結（ゆ）花（か）は、無（む）意（い）識（しき）に言（い）う。

「やば！」

「ごめんなさい！」

「怒（おこ）ってはいない、褒（ほ）められた事（こと）では無（な）いが……　君（きみ）達（たち）だろう先（せん）生（せい）連（つ）れて来（き）てくれたの、気（き）に成（な）るなら入（はい）ってくれば良（よ）かったのに？」

　逃（に）げ出（だ）そうとした二（ふ）人（たり）に清（きよ）重（しげ）がそう言（い）うと、結（ゆ）花（か）が言（い）い返（かえ）す。

「そう言（い）われても……」

　克（かつ）男（お）が結（ゆ）花（か）の言（こと）葉（ば）に頷（うなず）くと、清（きよ）重（しげ）は少（すこ）し悩（なや）んだ振（ふ）りをしてから言（い）う。

「確（たし）かに、あの状（じょう）況（きょう）じゃ入（はい）り辛（づら）いか。それでさっきの話（はな）だけど、少（すこ）し話（はな）しを聞（き）かせてくれないか？」

　そう言（い）い終（お）わって清（きよ）重（しげ）は、太（たい）耀（よう）の方（ほう）を向（む）き太（たい）耀（よう）に尋（たず）ねる。

「太（たい）耀（よう）君（くん）も」

「もしかして、僕（ぼく）だけですか？」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）い返（かえ）すと、清（きよ）重（しげ）は北（ほく）斗（と）と富（と）女（め）に向（む）けて言（い）う。

「悪（わる）いけど、他（ほか）の子（こ）はご遠（えん）慮（りょ）頂（いただ）こうか」

　★★★★

「なぁ二（ふ）人（たり）共（とも）。康（やす）実（み）が捻（ひね）くれた原（げん）因（いん）に、心（こころ）当（あ）たり成（な）いか？」

　一（いっ）方（ぽう）、五（ご）年（ねん）二（に）組（くみ）の隣（とな）りの空（あ）き教（きょう）室（しつ）。

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は、葉（よう）司（じ）と澪（みお）にそう聞（き）いて居（い）た。

「分（わ）かるわけねぇだろ、そんなもん」

　葉（よう）司（じ）はそう言（い）い、澪（みお）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）った。

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は二（ふ）人（たり）の反（はん）応（のう）を見（み）て、言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「そうだよなぁ……　康（やす）実（み）はテストが有（あ）ると、あんな感（かん）じなのか？」

「一（いっ）緒（しょ）によく遊（あそ）ぶけど、三（さん）、四（よ）年（ねん）の時（とき）は組（クラス）が違（ちが）うから、良（よ）く分（わ）かんねぇ。自（じ）分（ぶん）で頭（あたま）悪（わる）いって言（い）ってた気（き）がすっけど……」

「……三（さん）、四（よ）年（ねん）の時（とき）一（いっ）緒（しょ）だったけど、初（はじ）めて見（み）た気（き）がする」

　葉（よう）司（じ）と澪（みお）がそう言（い）い返（かえ）したので、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は考（かんが）える。

（元（もと）々（もと）、テストの点（てん）を気（き）にする子（こ）では無（な）い事（こと）は分（わ）かった。葉（よう）司（じ）とは仲（なか）が良（よ）いのは見（み）てれば分（わ）かるし、澪（みお）の話（はな）しから、今（こん）回（かい）が初（はじ）めてなのも理（り）解（かい）した。じゃぁ五（ご）年（ねん）生（せい）に成（な）ってから、何（なに）か有（あ）ったて事（こと）だが……）

「分（わ）からん」

　そう呟（つぶや）いた渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）に、葉（よう）司（じ）が言（い）う。

「先（せん）生（せい）、考（かんが）えて判（わか）かんねぇなら行（い）っていい？」

「ちょっと待（ま）て葉（よう）司（じ）。お前（まえ）達（たち）が友（とも）達（だち）をイジメたくなる時（とき）ってどんな時（とき）だ？」

「ひでぇな先（せん）生（せい）、俺（おれ）達（たち）の事（こと）そんな風（ふう）に思（おも）ってたのかよ？」

　葉（よう）司（じ）にそう言（い）い返（かえ）され、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は自（じ）分（ぶん）の失（しつ）言（げん）に気（き）付（づ）き謝（あやま）る。

「悪（わる）い、先（せん）生（せい）の言（い）い方（かた）が悪（わる）かった。……お前（まえ）達（たち）が友（とも）達（だち）を羨（うらや）ましがる時（とき）は、どんな時（とき）だ？」

「何（なん）だよ、それ？」

　葉（よう）司（じ）が不（ふ）思（し）議（ぎ）そうにそう聞（き）き返（かえ）すと、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は言（い）う。

「何（なん）でも良（い）いから、教（おし）えてくれ」

「北（ほく）斗（と）みたいに、す……　もう少（すこ）し勉（べん）強（きょう）が出（で）来（き）たら良（い）いなとは思（おも）う、やる気（き）は起（お）きねぇけど」

　少（すこ）し恥（は）かしそうにそう言（い）った葉（よう）司（じ）に対（たい）し、澪（みお）は無（む）意（い）識（しき）に潰（つぶ）やく。

「へぇぇぇ」

「何（なん）だよ？」

　そう聞（き）き返（かえ）した葉（よう）司（じ）に、俯（うつむ）きながら澪（みお）は言（い）い返（かえ）す。

「すごいなって……」

「何（なに）がだよ」

　更（さら）にそう言（い）い返（かえ）す葉（よう）司（じ）だが、 澪（みお）は俯（うつむ）いたままで返（へん）事（じ）を返（かえ）さない。

「たく、本（ほん）当（とう）に暗（くら）いなお前（まえ）。もう少（すこ）しはっきりしゃべれよ」

　葉（よう）司（じ）にそう言（い）われた澪（みお）だが、返（へん）事（じ）を返（かえ）す様（よう）子（す）は無（な）い。

「澪（みお）、葉（よう）司（じ）の言（い）う通（とお）りだぞ。もう少（すこ）しはっきりと喋（しゃべ）りなさい」

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）もそう続（つづ）け、 澪（みお）は少（すこ）し考（かんが）え首（くび）を横（よこ）に振（ふ）り言（い）う。

「……僕（ぼく）かつぜつ悪（わる）いし、よくかむからいや。自（じ）信（しん）ない」

「太（たい）耀（よう）や伏（ふし）見（み）とちょくちょく話（はな）せてて、自（じ）信（しん）ないってお前（まえ）なぁ」

　そう葉（よう）司（じ）が澪（みお）に言（い）うと、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は葉（よう）司（じ）に聞（き）く。

「葉（よう）司（じ）。澪（みお）ってずっとこんな感（かん）じなのか？」

「一（いち）、二（に）年（ねん）の時（とき）はもう少（すこ）し明（あか）るかった気（き）もしなくはねぇけど、今（いま）とあんまし変（か）わんねぇかな。グループ決（き）めじゃ自（じ）分（ぶん）から入（い）れてと言（い）えねぇから、最（さい）後（ご）までオロオロしてるし」

「何（なん）だよ！」

　澪（みお）は葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）に怒（おこ）るが、葉（よう）司（じ）はそんな澪（みお）に構（かま）わず言（い）い返（かえ）す。

「怒（おこ）んならキチンと言（い）い返（かえ）したらどうだ澪（みお）。まぁ伏（ふし）見（み）や春日（かすが）と少（すこ）しは話（はな）す様（よう）に成（な）ったから、少（すこ）マシになったかも知（し）んねえけど」

「待（ま）て葉（よう）司（じ）。澪（みお）てそんなに友（とも）達（だち）居（い）ないのか？」

　話（はな）しを聞（き）いた渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）が葉（よう）司（じ）にそう聞（き）くと、澪（みお）は俯（うつむ）き呟（つぶや）く。

「ヒドい……」

　更（さら）に澪（みお）の言（こと）葉（ば）に葉（よう）司（じ）も続（つづ）ける。

「渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）、流石（さすが）にソレはひどいんじゃねぇの？　　特（とく）別（べつ）仲（なか）の良（い）い奴（やつ）はいねぇけど、オレや康（やす）実（み）、カバとイタズラして遊（あそ）んだ事（こと）も有（あ）るし、女（じょ）子（し）連（れん）中（ちゅう）と遊（あそ）んでたのも見（み）た事（こと）有（あ）る。コイツは自（じ）分（ぶん）から遊（あそ）びに誘（さそ）わないだけ」

　葉（よう）司（じ）にそう擁（よう）護（ご）され、澪（みお）を少（すこ）し嬉（うれ）しそう。

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は、申（もう）し訳（わけ）なさそうに二（ふた）人（り）に向（む）かって言（い）う。

「済（す）まない。本（ほん）当（とう）に今（こん）後（ご）気（き）を付（つ）ける」

　そう言（い）い終（お）わった後（あと）、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は真（ま）面（じ）目（め）な顔（かお）で二（ふた）人（り）に聞（き）く。

「て事（こと）は、澪（みお）と康（やす）実（み）の仲（なか）は悪（わる）くないと言（い）う事（こと）か……　葉（よう）司（じ）に澪（みお）、康（やす）実（み）が最（さい）近（きん）気（き）にしている様（よう）な事（こと）、分（わ）かるか？」

　すると葉（よう）司（じ）が言（い）う。

「分（わ）かる訳（わけ）……　……そう言（い）えば最（さい）近（きん）、オレや北（ほく）斗（と）が恵（え）理（り）花（か）達（たち）と話（はな）してたり、ミオッチが伏（ふし）見（み）や春日（かすが）と話（はな）してると、よくあおって来（く）る様（よう）に成（な）って面（めん）倒（どう）臭（くさ）いんだけど、それは関（かん）係（けい）有（あ）る？」

（……　……　……もしかして）

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は、葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）である事（こと）を思（おも）い出（だ）し、葉（よう）司（じ）に尋（たず）ねる。

「今（いま）ので何（なん）となく分（わ）かった、つぅか思（おも）い出（だ）した。なぁ葉（よう）司（じ）、康（やす）実（み）は黒（くろ）沢（さわ）や伏（ふし）見（み）、春日（かすが）みたいなタイプの女（おんな）の子（こ）の友（とも）達（だち）はいるか？」

「サッカーとかする奴（やつ）はいるけど、伏（ふし）見（み）や春日（かすが）みたいなタイプはいなかったはずだけど？」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）い返（かえ）すと、澪（みお）が頷（うなず）く。

「そりゃ煽（あお）りたくもなるか……」

　渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）がそう呟（つぶや）くと、葉（よう）司（じ）と澪（みお）が渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）に質（しつ）問（もん）をする。

「どう言（い）う事（こと）だよ先（せん）生（せい）？」

「先（せん）生（せい）？」

「皆（みんな）が皆（みんな）、お前（まえ）達（たち）みたいな事（こと）は出（で）来（き）ないって事（こと）だろうなぁ……」

　そう言（い）った渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）に、葉（よう）司（じ）と澪（みお）は頭（あたま）を傾（かし）げた。