第43話
「じゃあウチが一本持っておくからアンタも一本ここに挿しておきなよ」
千春は自分のリュックと俺のリュックのサイドポケットにLED蝋燭を挿し込んだ。
リュックにレプリカな蝋燭を挿しているおかしな二人組だけどそれはもう新幹線に乗るまでなのでほんの少しの我慢だ。
周りもお盆休みということでやたらと混んでいる新幹線のホーム。下り線よりもこっちの上り線のほうがやや空いているのは幸いだ。
「ねえ指定席って高いんでしょ? 後でお金は渡すけど、もし足りなかったら少し待ってね」
「いいよ。金はいらない。今回は姉ちゃんがお前を招待するって体だから交通費はこっち持ちでいい」
高いとはいえ高々数万円なので、遺産の運用益で十二分に賄えるのでもらう必要性はない。たとえそれを使わなくても高給取りの姉ちゃんなら端金だろうけどな。
「駄目だよそんなのー。泊まるところまで提供されているのに交通費までおんぶにだっこじゃ申し訳ないよ!」
「こっちがいいって言ってんだから気にすんなよ。お前の金は向こうで遊んだり土産買ったりするのに使いな。ほんと、これ、まじで、な?」
「むぅ………………わか、った。ありがと」
駄々こねない千春は偉いと思います。なんなら頭を撫でてやってもいい。やらないけど。
「じゃ、俺は寝るな。朝早くってもう眠くて仕方ないんだ」
「どうぞご自由に。ウチも勝手にしておくからね」
新幹線のふわふわした揺れにあっという間に夢の住人になった。
ガシガシと肩を揺らされることで目を覚ます。
なんだよもう。もうちょっと寝ていたいのに……。
「見て、すごい! ビルだらけだよっ。人も――ゴミのようにいっぱいいるよー」
「ゴミは余計だよ。今どこ?」
「もうすぐ到着ってところだよー」
「そっか。ならちょうどいい時間か。ふぁ~、ねみー」
車窓から外を覗き見ると、たしかに目にするものはビルばかりになっている。うちの田舎じゃビルのほうが珍しいので目がびっくりしてしまう。
お天道様がてっぺんにいる頃合いだけど、新幹線を降りたらそのまま駅を出て、姉ちゃんの職場まで行く。姉ちゃんは今日休日出勤らしく、昼まで仕事しているから事務所を閉めた後、昼飯を奢ってくれるってことみたいだ。
「クソ暑い中歩くけど、ちょっとばかりの我慢な?」
「そんなの大丈夫だよ。東京のど真ん中でご飯が食べられるんでしょ? 早々ない機会だもん。ちょっとやそっとの我慢なんてどんとこいやーだよ」
駅構内から一歩外に出ると一瞬で蒸発するんじゃないかと勘違いしそうな暑さ。
「うへー暑いな」
「ホント暑いね。アスファルトばかりだから余計だろうね。で、話は変わるけど東京駅って素敵なレトロちっくな建物じゃないの?」
「それ反対側の出口な。八重洲口はビルばかりだよ。ここから20分ほど歩くから覚悟しとけよ」
偉そうなことを俺も言っているが、東京駅から姉ちゃんの職場のある銀座までは歩いたことはない。スマホのナビ頼りなのは情けないが、田舎者ゆえ許していただきたい。
「そういえばお姉さんってなんのお仕事しているの?」
「そこそこでかい司法書士事務所で司法書士やってる。本人曰くかなりのやり手らしいから、お給金もよろしくてご飯奢るものなんの苦でもないらしいぞ?」
「とういことはお銀座の高級なレストランでお食事もあり得る、と?」
「それは知らん。お前がリクエストすりゃどこでも連れて行ってくれるとは思うぞ?」
「そんな厚かましいこと出来ないからアンタがリクエストしてよ?」
俺がリクエストしたら、とんかつとかラーメンになっちまうぞ? 高級なレストランって何があるんだ……?
くだらないことをあーもないこーでもないと話していたらあっという間に20分ほど歩いてしまい姉ちゃんの職場のあるビルまで着いてしまった。
「電話してみるわ……もしもし? ビルの下に着いたけど? ……うん。じゃ、すぐ降りてきて。もう暑くて倒れそうだから。あーい、待ってる」
「すぐ来るって?」
「もう用意はしてあるから、すぐに来るってさ。って言っている間に来たわ」
ビシッとスーツを着こなした姉ちゃん登場。もうどこでもいいから早く涼しいところ連れて行ってくれ……。
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