第22話
「さて、聞こうじゃないかー」
「軽いな」
「重苦しくしたほうがいい?」
「お気楽で頼む」
大体俺の話を聞いた人は重苦しくなるので、初っ端は軽いだけ軽いほうがいいと思う。不謹慎とか無いんでヘリウムガスくらい軽くなっていてほしい。
「そうわざわざ言われると反対に構えちゃうね」
「えっと、それは困るが、俺自身が今はもう大丈夫になっているってことを最初に頭に入れておいてほしいし、忘れないでおいてもらいたい」
「うん、わかった。結月はこれから話してくれるソレについてアンタ自身は乗り越えているし、ウチも深刻になるなってことだよね」
千春は頭の回転が早くて助かる。
「おっけ。じゃあ、結論から話すぞ」
「うん……」
「俺の両親なんだが――もうこの世にいない」
「っ!」
「大丈夫か? さっきも言ったけど俺は平気だ。先を話すぞ――」
両親が亡くなったのは今から3年ほど前、俺が中学2年生のとき。
当時の俺は運動部に所属していて結構活発に活動していた。
その日も日曜日だけど部活の練習試合を学校の体育館で行っていた。たしか昼前の休憩時間に入る直前だったと思う、職員室にいた顧問ではない先生が血相を変えて俺のところに駆け寄ってきたんだ。
『相馬、今すぐ市民病院まで行ってくれ。親御さんが交通事故にあったそうだ。先程お姉さんから連絡があった』
一瞬で頭が真っ白になったが、慌てて市民病院まで急いだ。顧問がクルマを出してくれて、病院まで送っていってもらう。
病院につくまで顧問の先生は俺のことを励ましてくれていたけど、俺もそれどころではなくただ俯くだけで何も答えることはなかった。
7つ上の姉はすでに病院におり、受付前のベンチで憔悴しきった顔をしていた。その雰囲気だけで嫌な予感がした。
『父さんたちは?』
姉は真っ赤な目で俺のことを見上げ、静かに首を振った。みるみるうちに目には涙が溜まり、溢れだす。
『嘘だろ?』
『嘘じゃない……。二人とも即死だって……』
『なんで……』
あとは声にならなかった。
葬儀は恙無く終了し、納骨まで終わった。
そこから遺された俺たち子供の処遇について親戚連中が騒ぎ出す。
最初はどこの誰が引き取るとか、養子にするとかしないとかの押し付け合いだったんだが、我が家に資産があることが判明した途端に掌返しが始まる。
父は投資で成功しており、遺産が相当な額に上っていた。しかも、俺らのことを想い、万が一のために高額な死亡保険に両親ともに加入してくれていた。
そこに交通事故の賠償金やら様々なものが積み重なって、一生働かなくても暮らしていけそうな金額になっていた。
この金を目当てに薄ら汚い一部の親戚が目の色変えて騒ぎ出した。互いにあることないこと噂話をでっちあげては俺ら姉弟から金を巻き上げようとする。
しかしそれらは当時法学部の学生だった姉が、大学の教授に相談して親戚には一切合切口を挟ませない手段を講じられたので1円たりとも奪われることは無かった。
それに腹を立てる親戚、その親戚に腹を立てる別の親戚。親族同士で罵り合う人間の汚い様をありありと見せつけられた。
まだ子供だった俺にはそれらはかなりのショックであり、最後には人間不信だけが残されてしまう。
自分でも社交的だと思っていた俺が、他人との間に壁を作るようになったのはこれが原因だと思う。
また、両親を亡くしたことで大切な人を作らないようにするってことも癖のようになっていく。
大切な人がいなくなる苦痛は例えようのない悲しみしかなかった。恋人もいらないし結婚もしたくない、友人さえもって考えはここから来たもの。
ちなみにだけど姉は、俺とはほぼ真逆で、いつ大切な人や物がなくなるかもしれないから、今を大事にしようって考え。
だから今を謳歌するために友だちも多く作るし、恋人だって大切にしている。自分自身もいつ消えるかわからないから余計に精一杯やるってスタンス。
「まあ、そんなこんなでネガティブで捻くれた俺が出来上がってわけ。さっきもこの疑似結婚でお前のことが必要以上に大切になってしまったら、そして無くしたらなんて余計なこと考えてガクブルしてたってことなんだ」
まあ、情けないことにね。
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