36
「めぐみの絵を描くようになってから、しばらくの間、僕はめぐみの絵ばかりを描いていた。ちょうど今の僕と君の関係のように、ずっとめぐみの絵ばかりを描いていたんだ」
そんなこと言わないでください。とのぞみは心の中で言う。(顔は笑顔のままだった)
「場所はこのアトリエですか?」のぞみは言う。
「うん。このアトリエだった。このアトリエと森の中で僕はめぐみの絵を描いていた。一年を通して、森の四季の風景と同じように変わっていくめぐみのことを描き続けていたんだ」
しずくは窓の外の森の風景に目を向ける。
「僕は今もいろんなところにめぐみの姿を見つけることができる。生きていたころのめぐみがこの家と森の中にはまだ残像のように、でも確かに残っているんだ」
「え?」
しずくの言葉を聞いて思わずからっぽになっていたコーヒーカップをのぞみは床の上に落として割ってしまった。
ぱりん、と言う音だけがアトリエの中に響いている。
「生きていたころのって、めぐみさん。もしかして」
そのあとの言葉は口にすることはできなかった。
「うん。亡くなったんだ。めぐみは死んでしまった。病気だった。僕はそのときになって初めてめぐみがどうして僕と結婚してくれないのか、その答えがようやくわかった。そのことをめぐみに伝えると正解とめぐみは僕に笑って言ったんだよ」しずくはのぞみを見て言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます