10

「少し休憩にしよう。コーヒーでも淹れるよ」そう言ってしずくは小さく笑って、椅子から立ち上がった。

「はい。わかりました」にっこりと笑ってのぞみは言った。

 今日はいつもとは違って森の中ではなくてしずくの暮らしている小さな森の家の中にあるしずくのアトリエの中に二人はいた。(もちろんそこで絵を描くことを決めたのはしずくだった)とても綺麗で、静かで、物がとても少ないアトリエだった。(絵を描くための道具も少なくて数枚の絵が飾ってなかったらここがアトリエだとは誰も思わないだろうな、とのぞみは思った)

 しずくの家の中には立派なスピーカーのある音楽機器があった。レコードなども何枚も保存してあるようだった。それはものをあまり持たないしずくにしては不思議な行動だとのぞみは思った。

「しずくさんは絵の勉強を学校で学んだんですか?」とのぞみは言った。

 森にやってくる前のしずく。今の自分のようにどこかの学校の制服を着ているしずくの姿を上手く想像することがのぞみにはできなかった。

 今のぞみの前にいるしかはゆったりとした大きめの白い上着に青色のズボンという服装だった。足元には白いスリッパを履いている。

 のぞみはしずくの淹れてくれたコーヒーを飲んだ。その味はいつも通りとても美味しかった。(しずくさんは水が違うんだと言っていた)白いマグカップ。今では私専用のマグカップだ。とコーヒーを飲みながらのぞみは思った。

 開きっぱなしの窓からは気持ちのいい森の風が吹き込んでくる。その森の匂いをくんくんと嗅ぎながらのぞみはもう一口コーヒーを飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る