あたらず、さわらず。

ぽーとふぉりお

第1話 ギャンブル依存症の母と、娘。_1

競馬は作られている。

まいにち出走している馬たち、騎手たちは、

組織によって綿密に立てられた計画に沿って順位どおりにゴールしている。

でなければ、すべての厩舎が潰れずに運営できるわけがない。


そう信じている人がいる。

それが、私の母だ。


朝4時に起き、6時前に父を仕事に送りだしてから、

洗濯機を回し、軽く庭先の手入れをした後で、

珈琲を淹れる。


そして、スポーツ新聞の出走表のすべてを切り抜き、

液状のりでノートに張りつける。

馬の名前に集中して、検討をするためだ。


母の馬選びは彼女が見つけた「サイン」と呼ばれる単語群に当てはまるもの

そして「サイン」と「サイン」をAND条件で検索されるもの

同じ競馬場内の別レースの馬が出している「サイン」が示しているもの

など、いくつかの「ルール」によって検討される。


研究書であり、レース履歴でもある、母の競馬ノートは、

廃棄されることもあったが、

ある程度は過去のレースから学ぶために保存されている。

家の母の部屋に。母だけの部屋といっていいかもしれない。


母は競馬場には行かない。

競馬中継も見ない。

馬さえ見ない。


ただ、出走馬の一覧だけを見て、投票馬を決める。

当たるのか、当たらないのかといえば、当たらない。

完全に当たらないわけではないが、ほぼ当たらない。

当たらないが、母は当たっていると思い込んでいる。


そして、いつか高額を当てて、いつか高額を何度も当てて、

それで生活ができると思い込んでいる。

そして、もう30年近く経った。


それでも、母は信じている。

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