第17話 ハンガー
「あぁー!またやられた!!」
「敵がどこにいるか把握できてないね。前だけじゃなくて全体をある程度把握しないと」
格納庫では戦闘機のコックピットでおやつが騒がしく声をあげ、ガンバがなだめている。戦闘機に搭載されたシミュレーターを起動して操縦練習をしているようだ。
「そもそも戦闘はまだ早いと思う。こっちのリングくぐる練習モードからやったほうがいい」
マシカクも横から指示している。
「あなたも一緒に教えてあげたら?」
ウィンネスは少し離れたところでタブレット端末をいじくり回しているシンデンに声を変える。
「俺はそういうの向いてねえんだよ」
おやつは能力値上では戦闘機適性を持っている。だが実際にSMO内で戦闘機を操作したことは一度もない。というか、フライトシューティングの類のゲームの経験がそもそもなかった。
だがひょっとしたら適正があるということはイコール潜在的な特技なのかもしれない。ものは試しにということで訓練を申し出たためシンデン達が戦闘機のシミュレーターを使用して初心者講習を始めた訳である。
「あら、でも3人の中で一番腕がいいのはあなたなのでしょう?」
「上手く出来るのと上手く教えられるってのは別モンだ。俺よりあいつらのほうが向いてると思うぜ」
シンデンはタブレットでナローアレイの格納庫の状況や搭載物資を確認する。自機の補給が滞りなく行えるか、転用可能な武装がないか、戦力の維持、拡充のためには必要なことだ。
以前、SMOでは艦に戻れば勝手に整備や補給がされていたしカーソル操作で武装の交換も行えたが今はそうはいかない。
「あぁー……マジか」
いきなり問題に直面する。戦闘機用のメカニックはおろか、そもそも格納庫周りのスタッフの配置が殆どない。もともとナローアレイには艦載機が搭載されていなかった関係か、格納庫関係の人員は軽視されているようだった。
「整備もできねえじゃねえか。どうすりゃいいのよこれ?」
タブレットをウィンネスに向けダルそうに問いかける。
「自分で手配なさい」
突き放すように聞こえるが、手配すればいいという答えを示してくれる。それならそうとブリッジにコールを入れるとてんではなく副艦長のデルが応答をする。
「そういうことでしたら、最終的には艦長の判断にはなりますが暫定的に必要な技術を持った人員を別の持ち場からそちらに割り振ることは可能です。一旦私の方で判断し後ほど充足致します」
「わかった。助かる」
とりあえず運用の目処はたった。これで整備が行えるならまずは一安心だ。ベンチから立ち上がるとお勉強会が上手くいっているかの確認に向かう。
「どうだ?」
「こんな事に言うのもなんだけど、まぁぶっちゃけ向いてはいなさそうだわ」
「ええ?ひどー……」
ガンバから落第生の扱いを受け不服そうにするおやつだが、実際本人も全く出来ていない自覚があるため強く反論できない。
「どこまでやったんだ?」
「軽い座学、まぁシステム説明とか操縦方法とかな。あとはシムで模擬戦とリングフライトミッション」
マシカクがレッスン内容を伝える。おやつの顔を見ると唇を尖らせて伏し目がちだ。
「うりんは今まで飛行機が出てくるようなゲームは遊んだこと無いんだったよな?」
「そもそもアクションゲームとか全体的にあんまり遊ばないかも」
「ほう、んじゃ配信ではどんなの良くやってたんだ?」
聞かれるとなんだっけ、と腕組をして考えるおやつ。
「VRが多いかな。リズムソードって知ってる? ああいう体感型っていうのかな? そういうのをよくやってたよ」
「おお、あれだろ? 音楽に合わせて飛んでくるのをスパスパ斬るやつ」
そう! という表情でにっこり笑いながら両手を振ってゲームでの動きを再現するおやつ。
「自分で言うのもなんだけど、多分上手い人だよわたし!」
「へえ。俺はやったことねえけど動画では見たことあるぜ。ああいうのが得意ってんなら目と反射神経、そんで動作は問題ないはずだしこういうのがからきし向いてねえってことは無いんじゃねえか?」
シンデンはおやつに手招きをしてコックピットから降ろすと、端末を操作して後部シートを展開して複座式にする。
「後ろに乗れ。何してんのか説明しながら飛ばすから俺の言うことよく聞いて、操作と周りをよく見ながらなんとなく雰囲気を掴んでみろ」
「うん!」
キャノピーが閉じ、シミュレーターが起動する。
「なんだかんだ言って教えてるじゃない」
「誰かさんと一緒だな」
ウィンネスの言葉に反応してガンバが軽く突っ込みをいれる。
「あら、誰かしら?」
信じられないほどに冷たい、刺すような目線。実際なにかされることはないだろうが、それでもガンバは何かしらの危険を感じたため話を逸らそうと考える。
「なぁ、ウィンネス聞いてもいいか?」
「好きになさい。答えられない内容なら無視するだけよ」
ガンバへの当たりが強いように思えて、マシカクが横で笑いをこらえている。
「シェイムレスは……どうなったかわかるか?」
ウィンネスはその名前を聞くと顔つきを変えた。
「駄目なやつか」
すぐに返答が来なかったため、ガンバは答えられない質問だったかと判断する。
「今は答えられない。ただ、次の神命達成時には色々と伝えられるはずよ」
無表情でそう告げるウィンネス。だがそれまでガンバに向いていた目線は逸れている。
「そうか。まぁ……おあずけか」
「聞きたいのならしっかり生き残りなさい」
そう言ってスッと姿を消す。同時に通路側から10名程クルーが入ってくる。
「暫定整備班として着任しました。シンデン殿はどちらに?」
「お? ああ、ええと……」
突然の来訪にガンバが慌てていると、後ろでコックピットが開く。
「どうよ? 感覚みたいなのは掴めたか?」
「うん! なんとなくだけど、すぐ試してみたいな」
座席を入れ替えて交代しようとしている。
「シンデン! なぁ、整備の人らが来てくれてるけど……」
「お? マジか。うりん、ちょっとまっててくれ」
シンデンはトンと飛び降りてガンバ達のそばまで来る。
「突然ですまないな。格納庫を稼働させたいんだ。協力してくれ。ええと、リーダーはあんたか?」
「ヒュウです。艦の整備担当ですが戦闘機も覚えがあります。安心してください」
青年は胸を叩きながら名乗りを上げる。
「アテにしてる。早速だが……ああ、ガンバ!うりんの方を頼む」
「お? おお」
バトンタッチ。ガンバは戦闘機の後部へ乗り込む。
「今度はガンバさん? よろしくー!」
おやつは元気いっぱい。何かコツでも掴んだ様子である。
「俺は、見てりゃいいかな?」
「うん。見ててねぇ……」
おやつがガッツポーズで気合を入れるとキャノピーが閉じる。その様子を見届けるとシンデンはヒュウや他の整備班を連れて必要な作業の確認を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます