09
「はぐれちゃった」
漫画やアニメの世界だけの話だと思っていた、でも、狭い会場に人が集まれば実際に起こってしまうんだと知ることができた。
うろちょろしていても余計にすれ違いになりそうだったから入口のところで待っていると「なにをしてんのよ」と疲れた顔の先輩が来てくれて安心する。
「でも、みこちゃんが――あ、よかった、ちゃんといたんだ」
「はい、まち先輩が家に帰っていなければ大丈夫だと判断して食べ物をいっぱい買っていました」
「なら座れるところにいこっか」
早々に諦めて留まっていたのに精神的に疲れていっぱい買いたい、食べたい欲はどこかに消えた。
そのうえで座ってしまったものだから動きたくなくなってしまった形になる、それでも付き合うしかないんだけどね。
流石に盛り上がっているところに水を差すような行為はできない、なんとか説得して頑張るしかないんだ。
「美味しいですね」
「私にもちょうだい」
「いいですよ、箸もあるので食べたい物も食べてください」
「ありがと、ちゃんとお金は払うから安心してちょうだい」
こうして近くからいい匂いがしても食べたくならないんだからいまの状態はすごい。
気が付かれたくなかったから違うところを見ていたら「あんた……」と先輩が顔を近づけてきて困った。
「夏なのに食べないから少し移動しただけで疲れるのよ、ほら、これはまちのだけどお金を払えば私のだからあげるわ」
「疲れたわけじゃないですよ」
「あのねえ、あんたとだってもう三年以上は一緒にいんのよ? 隠そうとしたってわかるわよ」
「なら買ってきます、みこちゃんいってくるね」
適当に歩き回っているだけだと疲れるだけだからたこ焼きを買って戻ってきた。
もちろん全部食べたりはしない、六個あるから三人で二個ずつ食べられればいい。
今日はこれで最後――ということにしたいけど両親のために買って帰ろうと思う。
「まち――あ、電話だ、ちょっと出てくる」
「はい」
嫌な予感がした、けど、電話がかかってきたのは嘘じゃないから止めることはできなかった。
彼女が止めたりしないのももやもやするところだ、こういうときでも動くのが彼女だったのに。
「ふぅ、ちゃんとお土産を買ってきてって言われただけだった――わっ、な、なんで抱き着いてくるのよっ」
「ゆき先輩が帰ったりしなくてよかったです」
動いてからやってしまったと感じている馬鹿な私がいた。
「しないわよ、ここまで来ておいて途中で帰ったらアホなだけじゃない。いいから離れなさい、あとたこ焼きを貰うわ」
離して今日は二度と馬鹿なことをしないように更に距離を作る。
落ち着けと内で言い聞かせてとりあえず心臓を落ち着かせて、それでも二人に意識は向けずに他のところに向けていた。
別行動をしていた姉とくみちゃんの二人組を発見したのも大きかった。
「まこ先輩とくみ先輩ですね、でも、邪魔をしても悪いので近づくのはやめておきましょう」
「でも、あの様子だといつもと違うということはなさそうね、手ぐらい繋ぎなさいよ」
「いや、少なくともお姉ちゃんの方は違いますよ、そわそわ落ち着かなさそうです」
いまのこの状態をなんとかして変えたいという気持ちが強く伝わってくる。
「ま、それでもそっとしておきましょ、あと私は花火の時間までもうここにずっといるわ」
「私も売り切れてしまう前にまたお店にいきますけど基本はここでいいです」
「私だってこうして沢山買っていますからね、もう移動する必要もないです」
意外……なようなそうじゃないような、少し前までの彼女なら「せっかくお祭りに来ているんですからそんなことを言わないでくださいよ!」と止めてきそうなものだけどな。
ついつい気になって今度は彼女を見ていると「結構お腹いっぱいになったからです」と察して答えてくれた、それを聞けたらあーとわかってしまった。
「足貸して」
「どうぞ」
最後までいてもらうためにも自分にできることならなんでもする。
あとはこのまま解散になるだろうから甘えたいのもあった、流石に泊まりたいなんて言うのはメンタル的にあれだからなにも言わずに受け入れておくんだ。
「私もいいですか?」
「うん」
あと、先輩がこうして動いてくれれば彼女も同じようにしてくれるとわかったのもあった。
「みこ、今日は泊まってもいい? あ、その場合はもちろんまちも連れていくからさ」
「いいですよ」
「よし、まちも大丈夫よね? そうよね、地味に楽しみだわ」
「ふふ、可愛いですね」
「いつまでも子どもだからね、こんなものよ」
先輩が子どもなら私なんてどうなるんだろうか、あとこの人は大して意識もせずに私のことを助けてくれすぎだ。
あげたとはいえ、私こそがなにかを買わせてもらうぐらいでいなければならなかったのになにをしていたのかと呆れることになった。
まあ、どうせそのことを素直に話しても「嫌よ」などと言われて受け入れられてはいなかったんだろうけど……。
「ありがとうございます」
「だから――そういうことね」
みこちゃんにとっての私は残念ながら同じようにはいられていない。
でも、理想は私と先輩みたいな形だったから頑張りたかった。
「も、もう結構いい時間だよ、そろそろ寝ようよ二人とも」
「嫌よ、早く寝たら集まっている意味がないじゃない」
「そうですよ、それに目の前にこんなに美味しいお菓子達があるんですよ? まち先輩もこっち側に来てくださいよ」
駄目だ、もう二人は連れ戻せない。
今回もすぐに諦めて敷いてくれたお布団に寝転んで朝まで寝た、起きたときにも二人の姿はなかった。
リビングにいってみるとぐったりとした二人が……。
「は……もう朝じゃない」
「おはようございます、あの、歯を磨きたいのでお家にいってきます」
「私も付いていくわ」
みこちゃんを起こしていくかどうかを聞いたものの、いかないみたいだったから鍵だけは閉めてもらうことにした。
お家に着いたらすぐに戻るつもりだったから玄関のところで待っていてもらおうとしたら「私も歯を磨きたいわ」と言われたので連れていく。
必要なことはすぐに終わったから戻ろうとしたときのこと、何故か抱きしめられてしまって動けなくなった。
「あんた油断しすぎ」
「ゆき先輩ってもしかして私のことが好きだったんですか?」
「別にそんなのじゃない、ただなんかあれから気に入っているだけよ」
「あれ?」
あれと言われてもずっと一緒にいるからこれだというのが出てこない。
でも、気に入ってくれているなら嬉しい、こちらがお世話になっているだけとはならないからだ。
実は今回みたいにお祭りに誘ったことでなにかしらのそれを満たせていたなら、一歩通行じゃないという時点で本当にね。
「ま、細かいことはいいじゃない。私でも矛盾しているのはわかっているし、これだとみこが可哀想だからね。でもね、あんたもちゃんとしてあげなさいよ」
「みこちゃんは大人ですからね」
「なにも言ってこないわよねー」
そう、だからこちらもずっと同じままでいるんだ。
インターホンを連打するのも違うでしょということで何回も電話をかけて起きてもらってからみこちゃんのお家に戻った。
「じゃ、私は客間で寝させてもらうからあんた達は部屋にでもいってゆっくりしなさいよ」
「お腹が空きました」
「はあ? あんたあれだけ食べたうえに帰ってきてからもお菓子に溺れていたのよ? うわ、呆れるわ……。仕方がないわね、それならこれで解散にしましょ」
「え、ゆき先輩……」
ここでやってくるか、やっぱり先輩はこういう人だ。
「まち悪いわね、実は昨日食べ過ぎてお腹が微妙なのもあるのよ」
「そうですか……」
「そんな顔をしなくてもまた相手をしてあげるから、じゃ、またね」
切り替えよう、もう帰ってしまったならどうしようもないことだ。
リビングに戻ると既にむしゃむしゃとご飯を食べていたから笑うしかなかった、食べるかどうか聞かれたけど断った。
ぼうっとしている間に食べ終えたらしい彼女が隣までやってきて座る。
「やらなければいけないこともありませんし、これからどうしましょうか」
「やりたいことはないの?」
「ん-それならまた海にいきたいです」
「体力的に大丈夫なの? うん、じゃあいこっか」
今度こそ二人きりの時間ばかりになる。
今回は泳ぎたいわけじゃなかったから一旦帰る必要もなかった、弱らない場所でゆっくりしていた。
会話も特にない、ただ波の音やセミ、鳥の鳴き声が聴こえてくる場所だ。
意外な点は遊泳禁止の場所じゃないのに夏休みのいまでも人がいないこと、遠くに船があるのは見えるけどここだけ別の世界のように感じる。
このまま私だけ動き出しても最近の彼女のことだからなにか言ってきたりは、
「やっぱり水着を持ってきた方がよかったですね、まち先輩もうずうずしてしまっているんですよね?」
してきたうえに変な勘違いをされてしまった。
違うから違うと言ってみても聞いてはもらえなかった、寧ろ重ねれば重ねるだけこちらを見る目や顔がもうね……。
結局、こちらが耐えられなくなって触れられる位置まで逃げた、触ってみれば落ち着くからわざわざ入る必要はないんだ。
「嘘です、本当はゆき先輩みたいにまち先輩に触れたかったんです」
言ってもらえなければなにもわからないからそのまま聞いていると先輩はすぐに寝てしまったみたいだとわかった、それでも彼女は食べることをやめずに続けていたそうだ。
これは自分のせいでもあって私のせいでもあると教えてくれた。
とはいえ、あのお腹が空いた発言も嘘じゃなかったらしいうえにいま正にぐぅ~とお腹が鳴ったから二人で笑った。
「実はここからすぐ近くに飲食店があるそうなんです、いきませんか?」
「いいね、いこう」
「でも、これも……」
「うん」
急にお魚が食べたくなってきたのであるといいなと願いつつお店まで手を繋いで二人で歩いたのだった。
「で、それが出かけた結果なの?」
「はい、水着じゃなくても楽しめましたよ」
「ねえまち――え、もしかしてなにがあったというわけじゃないの? ただみこが甘えているだけ? なによそれ……」
あ、こちらはなにかを言ったわけじゃない、先輩が勝手に一人で察して一人で呆れているだけだ。
でも、すぐにいったことはよかったのか「ま、いいけど」と許してくれた。
「じゃあこの時間まちは私の――は、離しなさいよみこ」
「駄目ですよ、まち先輩を独占するのは許せません」
「なら半分あげるからそれでどう?」
「それならいいですよ」
勝手に半部こをされてしまった。
腕の自由を奪われ動けなかったから動かせる手を使って本を読んでいた。
振れているだけで満足できているのかなにも言わない二人が気になって結局集中できてはいなかったけど。
「なにこれ、まちのハーレム?」
「見た感じだけならそうだよね」
これでもなにも言わないから困ってしまう。
否定をせずに姉に乗っかったのは勘違いしないでとツッコんでほしかったからだ、それなのに二人はこちらにくっついているだけだから……。
「さ、どいたどいた、まちは私のなんだから」
「む」
「あ……はは、冗談だよくみちゃん」
そういえば仲良くしたいというそれはどこかにいったなあ。
もうくみちゃんの中には姉のことしかない、前は冗談で言っていたけど今度こそ本当のことになった。
少し話した程度だったからそれでも寂しいとかはないものの、このくっついてきている二人のどちらかがああなったら寂しいな。
「へらへらしてだっさ、しかも普通逆でしょ」
「き、厳しいですね、相手は親友のまこ先輩なのに」
「あんなまこは見たくなかったわ」
うん、確かにこれまでの姉のことを考えれば言いたくなる気持ちもわからなくはない。
一生懸命になっている子に対して笑みを浮かべて対応をできる点は変わらないけどあんな姉は初めて見る。
「その点まちはいいよね、だって余裕があるもの、決して自分が気に入られようと行動しようとしないもの」
「そうですかね、結構そういうのありますけどね」
「でも、表に出すことは少ないじゃない、そこが大人よ」
「いや……」
「なんてね、まちが大人なのは事実だけど一番ださいのは私なのよ。邪魔して悪かったわね、もう戻るわ」
全てを言わなくても察してくれたり、動いてくれたりするのは嬉しい、でも、こうして自分を責めてしまうときがあるからここだけは微妙だった。
ただ? 仮に私達の前で言わないでいても抑えているだけだからどっちにしてもいい方にはいかないことだ、こればかりはちゃんと支えてくれる人に出会わないと変わらないことだ。
「あれ、昔からそうだったんですよね、切り替えるのが上手で翌日も普通に喋れるんですけど色々抑え込んでいるだけだと思うと気になります」
「そうだよね」
「でも、結局悩んでいるだけで実際に動くわけじゃないので変わらないのも無理はないんです、私に能力と勇気があれば……って時間が経過してから悔しくなるんですけどね」
「私も同じだよ、考えるだけで終わりだからね」
してもらっているだけで返さなければいけないことがたまっていくばかりだ。
ちびちびとしすぎていて動いてもその二倍ぐらいの勢いで助けてくれてしまうからこれにも困っている状態だった。
「だからこそまち先輩にはゆき先輩の側にいてあげてほしいと思うんですけど……譲りたくない私がいるんです」
「そっか。あ、ちょっと意地悪かもしれないけどいつから私に……?」
「去年のいま頃からです」
「え!?」
いやいや、そんな訳がない、何故かはその去年のいま頃とかもくみちゃんと仲良くできるようにこちらは協力をしていたからだ。
「はは、まち先輩にしては大声ですね」
「だ、だってずっとくみちゃんが好きだって……」
「隠していただけですよ、あまり隠せてもいませんでしたけど……」
先輩には去年から言ってあることも教えてくれた。
正直、聞かない方がよかったかもしれないと後悔している自分もいた。
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